(このような絶壁を通っては費用もかかる)
2022/4/11,JR西日本は兼ねてから予告していた,「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」ということで,輸送密度(区間別通過人員)2,000人/日未満の区間について,経営状況の情報開示が行われました.具体的には2017〜2019年度の平均線区営業係数・線区営業損益となります.開示された情報が2017〜2019年度のものであることにくれぐれもご注意ください.現在ではさらに利用者は激減・営業費用が大幅に増加していいますし,JR西日本の言葉を借りれば「お運びするお客様が非常に少ない線区では、 (バス・乗用車など)他のモードが環境の観点で優れています」ということで,そもそも鉄道の役割は終わった可能性がある思われる線区が対象となっています.具体的には以下の線区です(特記なしは全線).
- 大糸線 南小谷〜糸魚川
- 越美北線
- 小浜線
- 山陰線 城崎温泉・仙崎〜小串(鳥取〜出雲市除く)
- 関西線 亀山〜加茂
- 紀勢線 新宮〜白浜
- 加古川線 西脇市〜谷川
- 姫新線 播磨新宮〜新見
- 播但線 和田山〜寺前
- 芸備線 備中神代〜下深川
- 福塩線 府中〜塩町
- 因美線 東津山〜智頭
- 木次線
- 岩徳線(*)
- 山口線 宮野〜益田
- 小野田線
- 美祢線
実に特急列車が運行されている線区,ICOCAが使用できる線区(特急停車駅のみ含む)まで含まれてしまっています.このような線区では営業費用が大幅に上がっており,実際に,山陰線 出雲市〜益田では輸送密度1,177(人/日)にして赤字が34.5億円となっています.
(2018年撮影)
実際にこの区間の移動は自家用車によるところが多いですが,この線区は貨物列車の迂回運転の実績があります.直ちに廃止して行政で面倒を見ろと言ってもやや無理がある線区です.実際に「スーパーまつかぜ」「スーパーおき」はそれ相当の利用があります.
100円の収益を得るために必要な営業費用を示す「営業係数」に目を向けるとやはり芸備線が高く,東城〜備後落合に至ってはなんと25,416となっております.線区運輸収入に至ってはわずかに100万円であり,庄原市内でありながら東城地区と庄原市中心部を遠回りしているこの区間になぜ鉄道が残っているのか説明が難しくなっています.とはいえこのルートの存在が,平成30年7月豪雨(西日本豪雨)での木次線の早期復旧を助けたのも事実です.
非常に経営基盤が脆弱なJR西日本において,もはやこれらの線区において「払って残そうローカル線」の域を超えています.このような線区に新規に車両を投入する際にも,法令により車内常時監視可能な防犯カメラを設置しなければならないことになるため,費用対効果に全く合いません.
我々にできることはこれらの線区と地域の表情を後世のために記録しておく,ということでしょうか(**).この35年のうちに自家用車の普及率・利便性は大幅に上がりました.時代の流れでありやむを得ません.「少子高齢化が急速に進み,地域で自動車が運転できる方がいなくなる」という事態ですら,自動車の完全自動運転の開発で解決される日が近づいています.
なお,これらの課題に対してJR西日本がなんの手立ても立てていないということはなく,様々な場面で地域の活性化に役立てるという構想も,今回のローカル線の経営問題と同時に発表されています.レールを剥がすのは非常に重い決断であり,今後の各鉄道事業者の経営判断が注目されます.
(*):仮に岩徳線を廃止すると山陽新幹線の営業キロが10キロ程度伸びることになり,例えば「広島〜徳山は実キロを運賃計算に適用する」などの手立てがなければ利用者の不利益になってしまいます.
(**):運営者の広報部署・公的機関・報道機関が必ずしも全ての出来事を記録しているとは限りません.
JR西日本のプレスリリース
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_sankou.pdf