白いロマンスカー「VSE」はなぜ生まれたか 

17年で活躍に幕 伝統の赤からの転換点を探る

小田急 50000形 VSE の現役続行を阻んだ個性が引退を早める!
 2004年から2005年にかけて、日本車輌製造がつくった小田急電鉄ロマンスカー50000形 VSE。 登場時は鉄道好きも旅行好きも大注目したこの小田急フラッグシップ50000形 VSE 全2本が、2022年3月に引退する。誕生から17年、短命ともいえるほど早い引退。

 ひと世代前の小田急ロマンスカーで、1996~1999年に日本車輌製造と川崎重工業がつくった30000形 EXEよりも先に、だ。

小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」が引退しました。ロマンスカーといえば赤い車体がトレードマークでしたが、

「VSE」はそれを一新する真っ白なそれでした。人気を博したとはいえ、なぜ色遣いが変わったのでしょうか。

運行期間は「LSE」の半分以下に

 ダイヤ改正前日の2022年3月11日(金)、小田急電鉄の特急ロマンスカーである50000形「VSE」が定期運行を終了しました。この車両は2005(平成17)年3月に運行開始し、17年間でその活躍に幕を下ろしたことになります。

2018年7月に引退した↑7000形「LSE」↑が、歴代のロマンスカーで最長の38年間運行されたことを考えると、とても短いものです。

ロマンスカーにはいくつかの塗色パターンがありましたが、いずれも伝統色であるバーミリオンオレンジや、↑70000形「GSE」↑は赤を基調としていました。対して「VSE」は「白いロマンスカー」。全面的に白を採用した「VSE」は、歴代ロマンスカーの中でも鮮烈な印象を与えたことでしょう。

最新の70000形「GSE」と早い引退の50000形「VSE」、赤と白の横並び!

 

 もっとも、「赤くないロマンスカー」として最初に登場したのは、1991(平成3)年にデビューした「RSE」こと20000形です。これはJR御殿場線との相互直通を主目的に、JR東海の特急形371系電車と基本設計を合わせ開発されました。「御殿場線方面にも行く」という区別の意味も込め、白と青(帯はピンク)の配色がなされたのです。

 一方の「VSE」は御殿場線へは行きません。新宿と自社沿線の観光地・箱根などとの輸送に特化した車両です。ではなぜ、それまでロマンスカーの特徴を決定づけていた「赤」基調を取っ払ったのでしょうか。

復活させた「展望席」と「連接台車」

「VSE」が登場する前、小田急の最新型ロマンスカーは1996(平成8)年登場の「EXE」こと30000形でした。「EXE」はロマンスカーの伝統だった展望席がなく、観光特急のほか日常の通勤輸送もこなせる汎用的な車両です。展望席を備えたロマンスカーは当時、7000形「LSE」と10000形「HiSE」が現役でしたが、いずれも20~10年前の車両でした。

 この頃、ロマンスカーに強力なライバルが現れていました。2001(平成13)年に登場したJR線の湘南新宿ラインです。新宿~東海道線方面を直通し、特急料金も不要。以降、ロマンスカーで箱根へ向かう利用客は低迷していきました。

 小田急は事態を改善すべく、次世代を担うロマンスカー車両を開発します。「VSE」です。

 

連接車構造、1両14メートル、車体傾斜制御、全電動車 小田急は50000形 VSE 開発時、

どこにもない車両や小田急らしさなどを求め、連接車構造を選んだ。

 

 ひとつの車体に2つの台車(2軸4輪)が両端につく一般的なボギー台車ではなく、

ひとつの台車に2つの車体がシェアする連接台車にした。

 

伝統でもあった展望席と、ふたつの車体の間にひとつの台車を設けた連接台車を「HiSE」以来約20年ぶりに復活。乗り心地向上を図ったほか、高いドーム型の天井や眺望を楽しめる連続窓の採用など、車内の居住性も重視されました。 カラーリングの一新はイメージ戦略といえるでしょう。

「箱根路特急」の低迷期を経験した中において、「今までなかった真っ白いロマンスカーで箱根へ行く」という体験は斬新そのものです。もっとも、赤(バーミリオン・オレンジ)をベースとした帯を窓下に施すなど、ロマンスカーの伝統もしっかり継承されています。

小田急 50000形VSEの運転席出入り口の構造、梯子で出入り? 動画説明

小田急電鉄 50000形VSEは乗り心地の良い、特急電車の早すぎる引退です!

 

その後に出てくる現在のロマンスカーフラッグシップ 70000形 GSE は、連接台車も車体傾斜制御もプラグドアもやめ、一般的なボギー台車に引き戸タイプのシンプルなドアにした。

一般的なボギー台車に引き戸タイプのシンプルなドアにした、メトロ直通用の60000形 。 ↑前面に地下通路脱出用ドアが設置↑

削減された「箱根路特急」

「VSE」の運行開始後、新宿~箱根湯本間でのロマンスカーの利用は大幅に回復しました。ちなみに「鉄道ニュース」が2022年1月、「小田急の特急『ロマンスカー』で好きな車両」の読者アンケートを実施したところ、回答者941人のうち61.6%の人が「VSE」を選択、2位の「LSE」(47.7%)に差をつけてトップでした。人気の高さが伺えます。

「VSE」の引退理由について小田急は「車両の経年劣化や主要機器の更新が困難になる見込みであるため」と説明しています。ダイヤ改正により、「箱根路特急」は平日・土休日とも7割ほどに削減されました。一方で通勤・帰宅時間帯の「モーニングウェイ」「ホームウェイ」は増発されています。新型コロナウイルスによる旅行控えもさることながら、前出の「EXE」が得意としたような通勤輸送のニーズは根強くあるのです。

 2020年代、展望席のあるロマンスカーはしばらく↑2018年に登場した最新の70000形「GSE」↑のみとなりそうです。

こうした「50000形 VSE だけにしかない個性」が、コロナショック後の「新しいあり方」を探っていくなかで、営業運転を継続させることが困難とみたかもしれない。

車両整備現場の人材不足・技術者不足のなかで、技術の伝承や共有、部品や構造の共通化、簡素化、メンテナンス性などを両立させるなども求められている。

さらに小田急は、2022年3月からドル箱 観光地の箱根へ直行するロマンスカーを減らし、日常使いの都市間輸送系統を増やす。すでに小田急名物の車内販売もやめている 

 

by GIG@NET

 

 

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