今回は第1章ということで今後取り扱う野球臨についての概説です。

前回:序章 西武池袋線2022年3月改正の変更点


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第1章 野球臨とは何物なのか

2022/3/18更新

■目次
①2022年の野球臨
②4つの口とタイムリミットの無いスポーツ
③制約の多い野球臨

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前章で述べた通り野球臨とは、ベルーナドームで埼玉西武ライオンズをはじめとするのプロ野球の試合が開催される日における、西武池袋線・狭山線・新宿線・多摩湖線での臨時ダイヤの通称です。

①2022年の野球臨

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プロ野球の公式戦であるペナントレースは年間143試合が開催され、各球団はこの半分を主催試合(ホームゲーム)、もう半分が相手チームの本拠地などに遠征するビジターゲームとして試合を行います。しかし143は2で割り切れないため、主催試合が72試合の球団と71試合の球団が出てきてしまいます。2022年における埼玉西武ライオンズのペナントレース主催試合は72試合となっており、このうちベルーナドームでのホームゲームは69試合*1と予定されています。
なお埼玉西武ライオンズがペナントレースを2位以内で終えクライマックスシリーズをベルーナドームで開催する場合、埼玉西武ライオンズが日本シリーズに進出する場合にも野球臨は運転されます。また2022年シーズンは土日祝日にベルーナドームで開催されるオープン戦(3/19(土)~3/21(月・祝)の対東京ヤクルトスワローズ戦)でもペナントレース同様のダイヤで運行される予定です。昨年はプロ野球オールスターゲーム第1戦がメットライフドーム(当時)で開催されたため、この日も野球臨でした。
さらにベルーナドームでライブが開催される場合、野球臨のダイヤをベースにしたコンサートダイヤ(通称コンサート臨)で運行されます。2022年は3月18日時点でも3/6(土)、7(日)に「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 6th LoveLive! ~KU-RU-KU-RU Rock 'n' Roll TOUR~ <SUNNY STAGE>」が開催され、4/2(土)、4/3(日)に「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND!!!」、5/21(土)、22(日)に「Kis-My-Ftに逢える de Show 2022 in DOME」ベルーナドーム公演、6/25(土)、6/26(日)に「KING SUPER LIVE 2022」11/5(土)、6(日)に「ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! 追加公演」がそれぞれベルーナドームでの開催が発表されています。以上の予定を合算すると執筆時点で2022年は82日間、西武線では野球臨・コンサート臨が運転・運転予定ということになります。

②4つの口とタイムリミットの無いスポーツ

西武池袋線周辺路線図
西武池袋線周辺路線図

西武池袋線の池袋~西所沢間には乗り換え駅が4つあります。まず1つ目は言わずもがなの池袋。山手線や地下鉄などと接続する西武池袋線の都心の玄関口です。2つ目は練馬。西武池袋線の地下鉄直通の分岐点である他、都営大江戸線も乗り入れています。3つ目は秋津。新秋津駅までは徒歩6分程必要がありますが、新秋津へ乗り入れるJR武蔵野線は首都圏の外郭を担う重要な路線。武蔵野線だけでも南武線(府中本町)、中央線(西国分寺)、東武東上線(北朝霞)、埼京線(武蔵浦和)、京浜東北線(南浦和)、埼玉高速鉄道線(東川口)、東武伊勢崎線(南越谷)、つくばエクスプレス(南流山)、常磐線(新松戸)、新京成線(新八柱)、北総線(東松戸)、京葉線・総武線・東京メトロ東西線・東葉高速線(西船橋)へ乗り換えが可能です。また武蔵野線の直通先の京葉線海浜幕張駅は千葉ロッテマリーンズの本拠地であるZOZOマリンスタジアムの最寄り駅にもなっており、埼玉県南部のライオンズファンに留まらずビジターのロッテファンの輸送に貢献する野球臨にとっての重要な地点とです。そして4つ目は所沢。西武新宿線が乗り入れており、こちらも田無や小平、東村山といった多摩地域や狭山、川越など埼玉県南西部の西武新宿線沿線のファンが多数乗り換えで利用する駅となっています。
野球臨ではこの「4つの口」にバランスよく停車する必要があります。始発駅である池袋、定期営業列車は全て停車する所沢は問題ありませんが、練馬と秋津には急行が停車しません。また「4つの口」の他にも所沢に次ぐ西武線内8位の乗降客数を誇る大泉学園駅(日中は準急以下のみが停車)などもあり、一筋縄ではいきません。コンサート臨の際に「池袋発着の急行をバンバン走らせろ」という意見を目にしますが、ベースである野球臨においてこうした急行通過駅からも需要が多いことで急行増発の実現は難しいのが現状です。

そして野球というのはサッカーなどと異なりタイムリミットの無いスポーツ。27個のアウトを取るまで何が起こるか分からない、これが野球の醍醐味だと思います。しかし時間無制限というのは時には悪影響を及ぼします。その一つが鉄道ダイヤです。例えば味の素スタジアムが沿線にある京王電鉄では、サッカーの試合開始、終了に合わせて最寄り駅である飛田給駅に特急を臨時停車させます。サッカーの試合終了時刻は決まっていますから、臨時停車の時刻も事前に決定することが可能なためチームのHPにて事前に公開されています。しかし野球の場合試合開始時刻は決まっていても終了時刻が分からないため、どの時間に帰宅のピークが訪れるか分かりません。また試合展開によっては試合終了直後に駅のピークが訪れるとも限りません。例えばホームチームが大差で負けていれば早い段階からホームチームのファンが帰宅するため試合開始前からでも駅は混雑しますし、ヒーローインタビューがあれば試合終了10~15分後くらいはファンが留まることになります。さらに試合終了後にイベントがある場合、駅のピーク時間は試合終了時刻と駅のピーク時刻はさらに乖離します。
そこで西武鉄道ではあらかじめ複数の運行パターンを用意し、試合終了や帰宅客のピークの時間に合わせてどのダイヤで運行するかを決定しています。2019年シーズン/改正の時点では平日ナイター・土休日デーゲーム・土休日ナイターそれぞれに最大18パターンが用意されており、試合展開やピークに合わせて西武球場前駅からの連絡を受けてパターンの中から最適なものを決定し運行しています。こうした事前のパターンによって帰宅ピーク時に多くの列車を発車できる一方で、車両の無駄や輸送ロスなく運用できます。なおパターン決定により運行される優等の池袋行については池袋到着後は回送になり、折り返しは営業列車として運行されることはありません。また特急(ドーム号)池袋行、各停本川越行、各停元町中華街行は試合終了時刻とは関係なく、あらかじめ決まった時刻通りにて運行されています。
かつては試合終了が見込まれる試合時刻から2~4時間後にかけて各停と準急の池袋行を交互に運転している時代もありましたが、車両数減による制約やベルーナドームにおける試合終了後イベントの多様化などにより現在ではこうしたパターンによる運行が取られています。

③制約の多い野球臨

池袋小手指配線
西武池袋線(池袋~小手指間)・狭山線配線図*2

前述に上げた「4つの口」や試合終了時間の他にも野球臨には様々な制約があります。
まず1つは狭山線の単線。西武球場前駅のある狭山線は全区間で単線、交換設備も中間駅の下山口駅にしかありません。そのため最大で7.5分間隔、1時間に8本しか運転することができません。
また狭山線から池袋線への直通列車は西所沢出発後に池袋線下り本線と平面交差が必要となっています。このため池袋線への直津列車の運行に大きな支障が生じており、周辺の列車の遅延の原因となっています。また西武球場前からの直通列車は狭山線内時点で遅延していることも多く、遅延した直通列車を池袋線内で先行させるために西所沢で小手指方面から来た上り定期列車を待たせる場合もあります。
またこの他にも途中駅での上り折り返し設備の少なさ(所沢、清瀬、保谷のみ(東長崎は野球臨では実施無し))、複々線はあるものの接続設備はあまりない(上りでは清瀬、ひばりヶ丘、石神井公園(、練馬)、東長崎のみ)といった点があります。西所沢以東の急行停車駅は石神井公園、ひばりヶ丘、所沢、西所沢のみのため、こうした設備がある駅でも追い抜きしかできない場合も多いです。

さてこうした条件下の中で西武池袋線はどのような野球臨を運行しているのか。その内容は平日ナイター、土休日デーゲーム、土休日ナイター・コンサート臨に分けて、次回より見ていきましょう。

次回 第2章 土休日デーゲーム編


続きます

【参考文献・資料】
・『西武鉄道 かわら版』vol.326 2019年7月号(西武鉄道)
・『鉄道ピクトリアル』2013年12月号臨時増刊号「特集:西武鉄道」(電気車研究会)
・『トラベルMOOK 西武鉄道の世界』(交通新聞社,2015年)


*1:残り主催3試合は沖縄セルラースタジアム那覇(2試合)と埼玉県営大宮公園野球場(1試合)にて開催。なおこれらの試合が中止の場合、振替試合はベルーナドームにて開催予定。

*2:『鉄道ピクトリアル』2013年12月号臨時増刊号「特集:西武鉄道」(電気車研究会)、『トラベルMOOK 西武鉄道の世界』(交通新聞社,2015年)を参考に作成