自走する貨車の話、まだ続けます。

 

　新幹線にも、事業用貨車にあたる「工事用車」があります。この分野、資料が不足しておりまして、『鉄道ファン』誌１９７９年１２月号の「新幹線カタログ」くらいしか手元にはありません。従いまして、登場する車輛の製造年や廃車時期など不明の点もありますが、とにかくこんな車輛がいたというご紹介になります。

　さて、新幹線の工事用車の中で、自走する貨車の仲間になるものの第一は、９３２形です。何でも２５ｍレールに枕木を組んだ軌きょうを運搬、敷設する車輛だそうで、上部構造物の長さは４０ｍ超というモンスターとなります。５０００形という旧称を持っていることからもわかるように、新幹線のごく初期から在籍していたようです。

　第二は、９３８形です。オーストリアのプラッサー社製の道床更換車で、長いコンベアを持ちます。機械扱いではなく、車輛として扱われていました。自走することが確認できたのはこの２形式ですが、もしかしたら他にもあるかも知れません。

 

　前回、あっさりと触れただけに終わった、ＪＲ東海とＪＲ東日本のレール運搬用気動車についても、改めて概略をご紹介しておきましょう。

　この種の車輛が先に登場したのはＪＲ東海の方です。レール輸送のためだけに機関車を保有するくらいなら、気動車化してしまえということでしょう。２５ｍ定尺レール輸送用として、キヤ９７－１～４（東京方）とキヤ９７－１０１～１０４（米原方）の２輛固定編成が４本、２００ｍロングレール輸送用の１３輛編成が１本が在籍しています。ロングレール用の１３輛は、先頭車のキヤ９７－２０１、２０２と、中間車ながら動力を備えるキヤ９６－１～６、エンジンを持たない「チキ」そのもののキサヤ９６－１～５から成ります。平成１９（２００７）年日本車両製で、平成２０（２００８）年から運用を開始しています。定尺用は名古屋車両区、ロングレール用は美濃太田車両区所属です。

　ＪＲ東日本のキヤＥ１９５系は、ＪＲ東海のキヤ９７系をベースに製造されたもので、こちらも老朽化した機関車とチキの置換え用となります。平成２９（２０１７）年に量産先行車が製造され、令和２（２０２０）年から量産が開始されています。量産先行車は２５ｍ定尺レール用が２連１本、１５０ｍロングレール用が１１連１本（東海の車より短い）で、小牛田車両センターに配属されました。量産車は小牛田のほか、尾久車両センターにも投入されているようです。定尺用はキヤＥ１９５形１０００番代と１１００番代、ロングレール輸送用は先頭車がキヤＥ１９５形（１編成あたり２輛）、エンジン付中間車がキヤＥ１９４形（１編成あたり６輛）、エンジンなし中間車がキサヤＥ１９４形（１編成あたり３輛）となります。東海車の方は現有勢力のままですが、東日本の車輛は増備され、機関車牽引のチキ列車を置き換えていくものと思われます。

　レールを運ぶ「動く貨車」、ＪＲでの活躍は２１世紀に入ってからですが、考えてみれば私鉄では、レールなどの長尺物を運搬する電動貨車は、結構在籍していました。東京市電などでも、大正の後半から昭和の初めにかけて、乙１２００形というレール運搬に特化した車輛が存在しました。この乙１２００、どういうわけか写真が残されていないようです。どこかで発掘されないでしょうか？

 

　いつの間にか私鉄の電動貨車の話題になってしまいましたが、私鉄においては、「動く貨車」は当たり前だったといえるでしょう。ただ、その定義というのは実にあいまいでして、電動貨車ではなく「荷物電車」と称している私鉄もあったりします。機関車を使った本格的な貨物営業を行っている私鉄においては、荷物電車は主に手小荷物（チッキ）を扱っていたということでしょうか？ただ、かつての西武鉄道で実見した「クモニ」は、もちろん荷物も運んだことでしょうが、国鉄における客車の配給車のような「用品」や、各駅の忘れもの（大量の傘束が見えました）も運んでいたようですし、国立公文書館の『運輸省文書』には、東武鉄道浅草駅の貨物営業廃止（昭和４０年頃だったと記憶します）を巡る文書がありましたが、あの浅草駅に電機や蒸機の牽く貨物列車が入っていたとは考えにくく、「モニ」がその役割を担っていたのではないかと推測します。

　どうも私鉄の「荷電」「貨電」の話となるとキリがなくなってしまいます。この話題はとりあえずこの辺で切り上げますが、最後に、私のご贔屓の電動貨車、新潟交通モワ５１のの画像（ワールド工芸製）をお目にかけます。この車輛、冬季には雪かき車を押したことでも知られています。機関車の代役もこなしていた車輛です。

実に好ましいスタイルの車輛だと思います。