僕の好きな鉄道写真は車両がドーンと大きく写った写真でなく、さりとて車両がどこにいるかわからないような風景写真でもない、主役はあくまで鉄道、その鉄道を取り巻く情景が写っている写真だ。そんな写真を撮りたいと若い頃から意識していた。このへんは好みの問題だからどれがいいとか正解はないが、車両をドーンと大きく取り込んだ写真を見るとその思い切りの良さに感心してしまう。

まだズームレンズの性能が低かった頃はほとんどの写真を50ミリと105ミリの単焦点レンズで撮っていたように思う。風景の中の鉄道をバランスよく撮ろうとすると自然とこの画角になるようだ。写真そのものより先にレンズの画角を感じてしまうような写真はできるだけ避けたいという思いもあった。当時50ミリでは遠すぎ、105ミリでは近すぎると思うと場所を移動して調整することもあった。いわば人間ズームレンズだ。そんなことが可能だったのは、北海道など地方の非電化路線での撮影が多かったからかもしれない。

 

お目にかける写真は1974年2月に日豊本線日向沓掛駅を発車するC57 117号機の牽く貨物列車を撮影したもの。普通なら135ミリか200ミリあたりの望遠レンズを使い縦構図にして機関車と煙をアップにして撮るところだろう。でもその頃鉄道写真を始めたばかりの僕は(135ミリを持ってはいたが)周囲の長閑な風景も画面に取り込みたくて線路端で標準レンズで撮影した。

↑牽引機のC57 117は前年4月のお召列車牽引機。この列車はここで15分ほど停車の後発車していった。電化され架線柱が林立する今となってはこのようなスッキリとした写真は望むべくもない。

今では多くの機材をクルマに詰め込み、撮影場所になるべく近い所に駐車して、ズームレンズで構図を決めてとずいぶん横着をするようになった。特にズームレンズは35ミリ換算で24ミリから600ミリ超までカバーし、どんな画角でもかかってこい!と言ったところだ。しかし構図を決めた状態でセットしたズームレンズの焦点距離を確認すると50ミリから100ミリ前後のことが多い。クセというか個人の嗜好というものはいつまでたってもあまり変わらないのだなと苦笑せざるを得ない。そんなわけで思い切ってF値の明るい単焦点レンズだけでシステムを組もうかと考えたこともあったが、今や単焦点レンズは明るいズームレンズ並みに高価。だったらズームレンズでいいやということになってしまうのである。