「函館山線は代替ルートにならない」。JR貨物が見解示す。貨物調整金もなし

存続さらに厳しく

北海道新幹線の並行在来線問題で存続が難しくなっている長万部~小樽間について、JR貨物が「災害時の代替ルートとして活用するには課題がある」との見解を明らかにしていることがわかりました。

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有珠山噴火に備え

北海道新幹線は新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。開業時には、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換するかは決まっていません。

このうち、存続がとくに危ぶまれているのが、長万部~小樽間の「山線」と呼ばれる区間です。利用者数が少なく、沿線自治体の多くが鉄道存続への費用負担に否定的な姿勢を示しているためです。

存続派が山線の必要性を訴える理由の一つに、災害時の貨物列車の代替ルートとしての役割があります。有珠山が噴火した際に室蘭線が使えなくなる恐れがあり、貨物列車が走行できる代替ルートとして山線を維持すべきという主張です。

これについて、2021年12月27日に開かれた「北海道新幹線平行在来線対策協議会」の後志ブロックの第11回会合で、JR貨物の見解が明らかにされました。

函館線DF200

DD51が引退

協議会の事務局側が、JR貨物に対し災害時の代替ルートの考え方をヒアリングし、その内容を会合で明らかにしました。

公表された議事録によりますと、JR貨物は「災害時における代替ルートの確保として、鉄路やトラックなど選択肢が多い方が良い」という前提を認めたものの、「災害時における代替ルートとして函館線長万部~小樽間を活用することは現状では課題が多い」と指摘しました。

理由として挙げられたのは機関車です。2000年の有珠山噴火の際にはDD51形機関車が貨車を牽引して函館線山線を走りましたが、同機関車はすでに引退しています。代わりに導入されているのがDF200形機関車ですが、DD51より大型化しているのがネックとなっています。実際、JR北海道が「走行できない区間が複数箇所ある」ことを確認しているそうです。

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折返運転とトラックで

そのため、JR貨物としては、山線をDF200が牽引する貨物列車が走行することについて、「詳細な技術検討、それに伴う改良工事、その費用負担のあり方などの課題がある」と想定。「この区間での貨物列車の運行は、前回の迂回輸送時よりは大変厳しい状況となっている」という認識を示しました。

災害時のみDD51が運行すればいい、という意見もありそうですが、同機はすでに北海道では運用されておらず、本州に残っている車両も仕様が異なるため使えません。

仮に、災害時に備えて山線に貨物列車を走らせるとすれば、こうした課題を解決した後に、「鉄道事業の申請・許可」と「線路使用契約」をしておかなければなりません。しかし、JR貨物としては、そんな手間とお金がかかる作業をする考えはないようです。

JR貨物は災害時の対策として、「貨物列車が通常運行している区間において折返運転」をおこない、「代行トラック等の組み合わせによって代替輸送ルートを構築することを優先的に検討している」ということです。

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貨物調整金は?

会合には、国土交通省北海道運輸局交通政策部長も同席し、「災害発生時の迂回路に対する貨物調整金」についての考え方を明らかにしました。

貨物調整金とは、経営分離後の並行在来線区間をJR貨物が引き続き走行する場合に発生するものです。並行在来線会社に対してJR貨物が適切な線路使用料を支払えるよう、JR貨物に対して国が助成します。

したがって、貨物調整金は貨物列車が走る区間に対して支払われるのが原則です。ただし例外もあって、旧信越線では、「災害時の貨物鉄道の緊急輸送確保という観点」から、貨物の定期列車の走行がない区間に貨物調整金が支払われています。

これは「貨物経路確保支援」として、北陸新幹線金沢延伸時に、同意を渋った新潟県に対し国が認めた特例です。

旧信越線の特例について、交通政策部長は「新幹線の工事実施計画認可時に、すでにJR貨物が当該路線で事業許可を受けていて、また現在も受けている」という状況を説明。「函館線山線に関しては、北海道新幹線の工事実施計画の認可が行われた2012年当時に、JR貨物は事業許可を受けていなかった」ため、旧信越線のケースに該当しないという認識を示しました。

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唯一の拠り所を失って

要するに、函館線山線について、JR貨物も国も「災害時の代替ルート」として扱っておらず、扱うつもりもない、と突き放したわけです。

古い路線に最新の機関車を使って貨物列車を走らせるには設備投資が必要ですが、そこにお金を掛けるなら、万一の際はトラックを活用すれば良い、と考えている節がうかがえます。

「災害時の代替ルート」は、函館山線が存続するための、ほぼ唯一の拠り所ですが、JR貨物からも国からも、その価値を否定された形です。頼みの綱を失って、函館山線の存続は、いよいよ厳しい状況に追い込まれたといえそうです。(鎌倉淳)

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