東急、運賃値上げで「業界最安」を返上へ。渋谷~横浜以外はお高めで

京王の安さ際立つ

東急電鉄が2023年3月に運賃を値上げします。国内民鉄で最も安いとされる運賃ですが、値上げによってどう変わるのでしょうか。

広告

12%値上げ

東急電鉄は2023年3月に運賃改定を実施すると正式に発表し、国土交通省に申請しました。

運賃改定率は12.9%。初乗り運賃は10円値上げで140円となり、それ以外の区間もおおむね1割程度の値上げとなります。世田谷線については、現金150円・IC147円を両者とも160円とします。こどもの国線は据え置きです。

新運賃は以下の通りです。

東急新旧運賃(円)
キロ程 現行運賃 新運賃
IC 現金 IC 現金
1~3 126 130 140 140
4~7 157 160 180 180
8~11 199 200 227 230
12~15 220 220 250 250
16~20 251 260 288 290
21~25 272 280 309 310
26~30 304 310 347 350
31~35 335 340 381 390
36~40 377 380 430 430
41~45 409 410 469 470
46~50 440 440 500 500
51~56 471 480 531 540

 

東急5050系

広告

主要区間の運賃

運賃改定で、主要区間の運賃は以下のようになります。

東急主要区間運賃表(円)
区間 現運賃 新運賃
渋谷~中目黒 130 140
渋谷~自由が丘 160 180
渋谷~武蔵小杉 200 230
渋谷~日吉 220 250
渋谷~菊名 260 290
渋谷~横浜 280 310
渋谷~三軒茶屋 160 180
渋谷~二子玉川 200 230
渋谷~溝の口 220 250
渋谷~あざみ野 260 290
渋谷~青葉台 280 310
渋谷~長津田 310 350
渋谷~中央林間 340 390
目黒~大岡山 160 180
目黒~武蔵小杉 200 230
目黒~日吉 220 250
大井町~自由が丘 160 180
大井町~二子玉川 200 230
大井町~溝の口 220 250
五反田~旗の台 160 180
五反田~蒲田 200 230
多摩川~蒲田 160 180

 

通勤定期も普通運賃に準じて値上げされます。通学定期については、「家計負担に配慮」して据え置きます。

事業継続が困難

東急は、運賃値上げの背景として、新型コロナウイルス感染症拡大を契機として定期利用者が特に減少したことや、今後の需要回復が見通せないことを挙げています。「業界最安水準の現行運賃での中長期的な事業継続は極めて困難」と説明し、理解を求めました。

東急が財務体質の健全な鉄道会社であることはよく知られていますし、直近の2021年度上半期の連結決算では黒字を計上しています。鉄軌道事業の上半期の営業損失も3億円にとどまりました。それでも、さまざまな設備投資を控え「中長期的に困難」という理由で、値上げを求めたのです。

広告

ライバル私鉄と比較する

新型コロナ禍後、運賃値上げを正式に申請した鉄道会社は東急が初めてです。東急の値上げにより、「業界最安水準」を自称する運賃はどう変わるのか。同じ東京・神奈川エリアを走る小田急、京急、JR東日本(電車特定区間)と、キロ程ごとの運賃を比較してみたのが下表です。

神奈川方面鉄道運賃比較(円)
キロ
東急
新運賃
小田急 京王 京急 JR
東日本
1 140 130 130 140 140
2 140 130 130 140 140
3 140 130 130 140 140
4 180 160 130 160 160
5 180 160 140 160 160
6 180 160 140 160 160
7 180 190 160 200 170
8 230 190 160 200 170
9 230 190 160 200 170
10 230 220 180 200 170
11 230 220 180 250 220
12 250 220 180 250 220
13 250 220 200 250 220
14 250 260 200 250 220
15 250 260 200 250 220
16 290 260 250 290 310
17 290 260 250 290 310
18 290 290 250 290 310
19 290 290 250 290 310
20 290 290 290 290 310
21 310 290 290 320 390
22 310 320 290 320 390
23 310 320 290 320 390
24 310 320 290 320 390
25 310 320 330 320 390
26 350 350 330 370 470
27 350 350 330 370 470
28 350 350 330 370 470
29 350 350 330 370 470
30 350 380 330 370 470
31 390 380 350 430 550
32 390 380 350 430 550
33 390 380 350 430 550
34 390 420 350 430 550
35 390 420 350 430 550
36 430 420 350 500 640
37 430 420 350 500 640
38 430 470 370 500 640
39 430 470 370 500 640
40 430 470 370 500 640
広告

「業界最安水準」は京王に

1km~40kmの区間でみてみると、東急が最安値なのは2区分にとどまり、単独で最安値なのは25kmの1区分だけとなります。「業界最安水準」の座を京王電鉄が冠することは一目瞭然です。

東急は1km~13kmでは多くの区分で他の4社より高く、東京から神奈川県方面へ向かう鉄道会社では、最も運賃水準が高くなります。

山手線を基準にすると、世田谷区、目黒区、大田区といったエリアまでの運賃がお高めです。

8~10kmで高く

8~10kmの運賃230円は他社より際立って高く、京王より50~70円、JRより60円も高くなります。東横線で渋谷~田園調布、多摩川間、田園都市線で渋谷~用賀、二子玉川間が該当します。

この新運賃230円区間(8~11km)は、現行運賃200円から15%の値上げとなり、今回の値上げ率としては全運賃区間で最高です。同運賃区間に該当する五反田~蒲田間は、JRの220円より運賃が高くなります。

一方、渋谷~横浜間は25km区分に該当し、今回の値上げでも310円にとどまり、全区間で唯一、東急が単独最安値を維持します。JRと競合関係にある渋谷~横浜間の運賃を低く抑えることで「東急は安い」というイメージを保ちたいのかもしれません。渋谷~横浜間のJRは400円(特定区間)ですので、値上げ後も2割以上、東急が安いことになります。

ただ、通勤定期券ではJRの割引率が高いので、渋谷~横浜間は東急11,510円に対し、JRが11,850円とほぼ同額になります(通勤1ヶ月)。新宿/新宿三丁目~横浜間では、現状でもJRが16,800円で安いですが、新運賃で東急・メトロは18,280円となり差が開きます。

他社は追随するのか

この比較は、他の鉄道会社が値上げしなければ、という前提に立ちます。新型コロナで経営が苦しいのは他社も同じですから、他社も値上げに踏み切れば、この比較は一時的なものになります。「中長期的に困難」という東急の値上げ理由が認められるなら、他社も追随する可能性は小さくありません。

利用者としては受け入れるほかありませんが、最近は乗り換えアプリの普及で「最安値」を探しやすくなりました。鉄道各社の運賃改定を頭にいれながら、「どこの会社が安い」という先入観にとらわれることなく、賢く使いたいものです。(鎌倉淳)

広告
前の記事山形新幹線など3倍増。新幹線利用者数ランキング2022年新春版
次の記事「コロナ前」の水準遠く。JR特急利用者数ランキング2022年新春版