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 1997年に山陽新幹線で"のぞみ"として華々しくデビュー、直後に東海道区間へ乗り入れを始めた「500系のぞみ」。国内は勿論、世界最速タイの300km/h営業運転を実現したことにより、そのスマートなフォルムも相まって一躍新幹線の顔として注目される存在となりました。


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 しかし美しい花は長く咲かないというのが時代の定めなのでしょうか、300系を差し置いて早々2010年に"のぞみ"運用から撤退したのは驚きでした。以後は8連に短縮され、山陽区間のみで"こだま"専従として細々と運転されています。往時のような速さを見ることはもう出来ないとは言いつつ、のぞみ引退から10年以上経過した現在でも親子連れを中心に鉄道ファン以外からも大人気の様子。あれだけの所帯を誇るN700系列よりも知名度がありそうな雰囲気で、「鉄道はよく知らないけれども500系は知っている」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。先にも後にもここまで人気が高い新幹線車両は出てこないでしょう。


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 「山陽こだま」転用に当たって8両編成に短縮、大幅な改造が行われました。当然グリーン車は不要であり、オールモノクラス化がなされましたが、新幹線車両でここまで大幅な改造が施される例も近年では珍しくなったように思えます。他にはE3系R編成くらいでしょうか。



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 こだま運用では基本的に自由席となる1~3・7~8号車です。基本的にはW編成時代の2+3列からそのまま変更はありません。円筒型の車体に2+3列シート、車体幅に恵まれている新幹線車両にして少々窮屈な雰囲気を感じさせます。

WRK229
 2人掛けのWRK229が1020mmピッチで配置されています。モケットの柄色はW編成時代から変化せずパープル系のモノとなっています。が、転用に当たり700系B・E編成よろしく背ズリ上部にビニールレザーの滑り止めが設置されました。付帯設備はシートバックテーブルのみとさっぱりしています。


WRK306
 こちらは3人掛けのWRK306です。W編成時代とさして変化はありません。肝心の掛け心地ですが、腰回りから肩部にかけてのフィッティング性はなかなかのものであると感じます。座面も分厚いウレタンが奢られておりヒップポイントも明確、長時間の着座もそれほど疲労を感じさせない造りになっているように感じます。惜しいのは背ズリが低いこと。長身の人ならばヘッドレスト上端が首の位置に来てしまい頭までもたれることができません。しかしながらこの頃のJR西日本らしいと言いましょうか、全体的にしっとりとした掛け具合で2+3列でもあまり苦にならないのは嬉しいところです。


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 通年指定席となる6号車についてはグリーン車からの格下げ改造となりました。床敷物や照明色などが普通車相当に変更されましたが、元グリーン車というだけあり重厚感はまだまだ健在です。この500系、当初は普通席も全て2+2列にする構想があったようですが、東海道の輸送力等々様々な制約により実現できなかったそうで。やはり円筒型の客室はこちらの2+2列の方がバランス良く見えます。


WRK228
 座席はグリーン車時代のWRK228、1160mmピッチのまま変化はありませんが、可動式ピロー・フットレスト、オーディオ設備の撤去、ピロ―撤去部分に若干のクッションが入れられました。よって付帯設備は両面展開のインアームテーブルとコート掛けフックのみ、グリーン席時代と同一品が再用されています。座席自体が普通車としては破格であるので付帯設備は控えめで良いかもしれません。

 掛け心地ですが、ピローが撤去されたため700系B編成のグリーン席と同等になりました。座面はクッション性・ヒップポイントが良好、手前側が比較的硬く奥側が深く沈み込む柔らかさ。後述の通りフットレスト使用が前提となっている感覚です。背ズリは腰から肩にかけて包み込まれるようなフィッティング性を誇ります。格下げ改造を経ているにせよ腐っても元グリーン席、重厚な座り味はとても普通席とは思えないレベルです。

 しかしダウングレード改造にはオチが付きもの。ピローが撤去されたためヘッドレスト周囲が寂しく、少し頭の置き場に困るようになりました。これは700系B編成でも感じられた現象。やはりピロー設置が前提となる設計なのでしょうね。
 またフットレストの使用が前提となっているのか、座面高さが実測450~460mm程度とかなり高めに位置しています。普通席格下げ後はフットレストが撤去されましたが、先述した座面の掛け心地も相まって改造後は足の置き場に困ります。また、座面が高いためにリクライニングを全開にすると仰け反るようで少々苦しい姿勢となりますが、普通席と考えれば全く文句はありません。


WRK262
 これまで500系充当のこだま号は2+2列席の6号車のみが指定席となっていましたが、1両しかない指定席では混雑が目立つようになり、4・5号車も指定席として営業する機会が多くなりました。当初は2+3列席のうち、B席のみ発券ブロックをかけて4列分しか指定席発売をしない方法が採られていましたが、設備面での遜色が目立ったのかこの4・5号車も2+2列化改造がなされました。

 新たに2+2列化される号車は種車が純粋な普通車ということもあり、新規製造の座席が搭載されました。N700系7000番台登場後に関わらず、こちらには700系のサルーンシートに準拠した座席が搭載されました。N700系7000番台と同一の座席でもよかった気がしますが...

 700系E編成のサルーンシートと外観は同一ですが、座席形式は700系のWRK236ではなく、新規のWRK262・WRK263が付与されています。純粋な新製車である700系とは床部取付寸法などに差異があったため新規形式が付与されたのかもしれません。

WRK263
 2+3列席の台座をベースとして取り付けられたため、WRK262とWRK263に形式が分かれています。元3列席側はL字型の脚台が目を引きます。

 付帯設備はシートバックテーブルとドリンクホルダー。掛け心地ですが、ベースとなった700系のサルーンシートと全く同一。分厚いウレタンでヒップポイントがはっきりしている座面、深々と倒れる背ズリも700系と同じ。背ズリは腰回りから肩にかけての造形は良いものの、ヘッドレスト周りの処理があまり良くないように思えます。頭をサポートせず徒に突き返すような造形は651系普通席のような感覚です。乗るなら元グリーン車の6号車の方が得をした気分になりますが、こちらもヘッドレスト周囲を除けば十分な居住性を誇ります。普通席にして2+2列席、全く文句は言えた身ではありません。



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 500系最大の特徴と言えばその15mにも及ぶ鋭い先頭形状。客室部もその影響を受けています。運転室寄りの2列はC席が設置できず、このような配列となっています。


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 長い先頭形状は客室部まで及び、先頭部分に行くにつれ徐々に車内高が下がってきておりかなり狭々しい印象。荷物棚の容量が十分に確保できないため、上述の運転台寄り2列部分に荷物置き場が設置されています。


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 その荷物置き台がこちら。山陽こだまでは両先頭車とも基本的に自由席となるため転用時に撤去されるのではと思っていましたが、従来から全く変化がなく引き続き設置されています。おそらく撤去するのが単に面倒だったのかもしれません。ちなみに8号車の同区画は「お子様向け運転台」が設置されました。それに伴ってこの荷物置き台も撤去される... なんてことはなく、「お子様向け運転台」の脇に追いやられてちゃっかり残存しています。実際に見ると結構シュールな光景です。(笑)



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 客室外デッキ部分はモノトーンでまとめられています。無駄が無いといえば確かにそうですが、少々無機質すぎるような印象を持ちます。


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 床材も傷みが目立ったのかこのような補修箇所が多く見受けられました。補修前後で床材の彩度がまるで違うので補修跡がパッチワーク状態となっています。床板を見ると結構痛々しいかもしれません。

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 のぞみ引退から早12年、そろそろ「こだま」として走る期間が長くなりそうな勢いの500系。今年から車齢25年を迎える編成が出てきますが、特段置き換えの予定も公表されておらずもうしばらく活躍が見られそうです。新幹線車両としてダントツの人気を誇りますが、もしかしたら歴代最長寿の新幹線車両となる編成も出てくるのではないでしょうか。