歳末築地への想い

 三年前の2019年まで、歳末に築地の場外市場へ出かけるのが恒例行事であった。正月の食材を買い求めるためである。別に「どうしても築地じゃなきゃいけない」というわけではなかったのだが、歳末の混み合った市場の雰囲気を感じるのが楽しかったし、長い一年の生活の果てにたどり着く歳末の築地は、その一年を無事に過ごしてきたことを実感する機会でもあった。それらを楽しみながら、買い物へ出かけていた。

 しかし、ニューノーマルな生活にあっては、そんな曖昧な理由の外出は真っ先に切り落とされてしまう。混雑は避けなければならない、ネットで買えるものはネットで買う、そんな習慣がすっかり身に付いてしまった。

 だから、世の中の状況がいくらか落ち着いていた昨年末も、築地へ出かけることはなかった。築地で買っていたものは、ほとんどが近所の買い物で代替できたし、ネット通販で買い求めるものも増えた。お気に入りの蒲鉾のお店のネットショップがあったことも知り、そこで頼むことにした。その蒲鉾は、仕事納めの日に宅配便で届いた。もちろん在宅勤務だから、難なく受け取れた。

 そもそも、歳末に築地へ行く時間自体が、いつの間にか他の用事に取って代わられてしまっている。昨年末の最後の何日間かを振り返ってみると、どこに築地へ行く隙があったかと思う。こうやって、季節の風物詩はどんどん減ってゆき、やけに慌ただしい日常だけが延々と続いていく。そして、知らぬ間に歳だけ取ってゆく。

 思えば、築地へ出かけるときは、往復の地下鉄日比谷線の乗車も楽しみだった。寒い朝、中目黒駅で日比谷線の電車に乗り換える。まだ仕事納めができない通勤客を横目に、ちょっと申し訳なく思いながら、築地到着を待つ。駅を重ねるごとに、自分と同じような買い物客も増えてくる。そして、大勢の乗客ととともに築地駅に降り立つ。地下の駅から地上に出たときに見えてくる築地本願寺の境内が、冬の朝の冷たい空気の中でピリッと引き締まっていた。

 人ごみに流されながら買い物を済ませた後、温かいものをちょっと飲み食いし、余裕があれば東銀座駅まで歩いたりした。

 帰りの中目黒方面の電車はたいてい空いていた。以前、東急東横線への直通電車が走っていた頃は、偶然その直通電車が来ると嬉しかったものであった。乗り換えなしで地元の駅まで帰れるからである。また、03系から13000系への置き換えが進んでいたときは、新型の13000系に乗れるかどうかという楽しみもあった。今だったら、東武70090型が偶然来たりしたら嬉しいだろうなと思う。クロスシートにもなるマルチシートに座って、ゆっくり帰ることができただろう。

 そんな歳末の築地への買い物へ、いつかまた日比谷線に乗って出かけられたらいいなあと思う。感染のこととか、時間のこととか、何も気にせずにその買い物と往復の時間を楽しんでみたい。
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by railwaylife | 2022-01-03 23:30 | 東京メトロ | Comments(0)
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