君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

気仙沼線BRT・大船渡線BRTの将来について

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鉄道のように待避所で行き交うバス(気仙沼線BRT・歌津駅

この記事の文章は、ほぼ2年ほど前(2019年11月末)に、だいたい完成したような状態で書きかけのまま放置していたものです。

その時、なぜ公開しなかったのかよく覚えていませんが、確かもう少し書き足したいことがあったような気もします。

ただ、今読み返してもそんなに悪くはないし、気持ちとしては今もたいして変わっていないので、若干手入れをしてそのまま公開することにしました。

ちょうど、JR気仙沼線の柳津~気仙沼間、JR大船渡線気仙沼~盛間の鉄道事業を廃止する届が出された後の頃でした。

 


東日本大震災津波で甚大な被害を受け、JR気仙沼線大船渡線の沿岸部は鉄道からBRT(Bus Rapid Transitバス高速輸送システム)に転換されました。

私はその区間が鉄道であった頃の気仙沼線大船渡線に乗ったことはなく、沿線地域を訪問したこともありませんでした。

初めて訪問し、BRTも含めて気仙沼線大船渡線の全線に乗車したのが、震災から8年以上たった2019年5月。

その時に強い印象を受け、以来、気仙沼線大船渡線BRT(以後、単に「BRT」と書く時は基本的に気仙沼線大船渡線BRTを指します)に注目するようになったのですが、まずはその理由について書いていきたいと思います。

これは鉄道なのか、バスなのか

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初めて乗車した時の印象を集約して表現するとしたら、この4枚になるのではないかと思います。

1枚目は、専用道を走るバスから、並行する国道45号線を撮影したもの。

2枚目は、志津川湾のそばを走るバス。当然車内からは、鉄道時代と変わらないであろう美しい志津川湾の風景が見えていたわけです。

3枚目は、いかにも鉄道らしいゆるやかなカーブを描いて、街を見下ろす専用道を進むバス。

4枚目は、鉄道とバスが島式ホームの両側に並ぶ気仙沼駅盛駅も同様に三陸鉄道とBRTが島式ホームに並びます。

もう、これは鉄道と変わらないじゃん、とその時に思ったのです。

もちろん、乗り心地はバスそのものだし車内はいかにも路線バスだし、標識も典型的な道路標識なのですが、でも、逆に言えば違いはたったそれだけだ、とも思ったのです。

いったい、鉄道とバスの境目はどこにあるんだろう、と考えると、実はそんなに明確な境目はないんじゃないか……という気がしました。

 

その後、写真の撮り方をそれなりに勉強したので、BRTの「鉄道らしさ」を確かめるために、専用道を走るバスを鉄道写真の考え方で撮影してみました。

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確かに被写体はバスであり、走っているのはガードレールに挟まれた道路ですが、そこで表現される旅情は、鉄道写真とほとんど変わらないと言えるのではないかと思います。

JR北海道の経営危機、JR九州日田彦山線の復旧問題、近江鉄道の存廃問題など、鉄道のローカル線をめぐる問題が噴出しています。最近でいえば台風19号で大きな被害を受けた三陸鉄道阿武隈急行上田交通など、鉄道を維持するにしても、その費用を誰がどう負担するかという問題はもはや避けて通れなくなっています。

この1か月ほどの経験を通して、一つの考え方をまとめるに至りました。それは、「鉄道オンリーから脱却しよう」ということです。

鉄道オンリーからの脱却、その3つの視点

すでに鉄道会社は、大手ですら、収益の軸足を鉄道から他へ移そうとしています。その鉄道をとりまく3つの視点で、「鉄道オンリーからの脱却」ということを考えていくべきだと思っています。

1つ目はBRTの沿線地域の視点です。

三陸沿岸は、かつて鉄道がないために津波被害への支援が遅れた、といわれるような経緯もあり、「三陸縦貫鉄道」については地元の熱い願いがありました。

その時点では、高規格な国道も、もちろん高速道路もありません。道路整備が立ち遅れた日本で、希望を託す交通手段は鉄道だったのだと思います。

今では、国道45号が三陸沿岸を貫き、さらに三陸自動車道の整備が進められています。三陸自動車道は経路が内陸側だったり、津波の影響を受けない高さに建設されていて、100年に1度クラスの津波ではびくともしないと思われます。

つまり、鉄道だけに基幹交通の希望を託す時代は、もう終わったということです。

 

2つ目は鉄道ファンの視点です。

残念ながら、鉄道ファンからはBRTの評判はあまりよろしくないようです。まあ、それは当然といえば当然でしょう。

もちろん、鉄道そのものに強いこだわりを持つ人には「鉄道以外も見て」といっても届くはずがありません。それはそれで一向にかまいません。

ただ、鉄道を通して遠く離れた地の風景や旅情を楽しみたい人、そうした写真を撮りたい人にとっては、必ずしも鉄道だけが唯一の手段、唯一の被写体ではないのではないか、と思っています。

撮り鉄」というと昨今何かと忌み嫌われる感じがありますが、その写真は沿線の魅力を表現するのに役立っている面もあります。BRTが見捨てられるということは沿線の美しい風景や、復興に取り組む町のありさまが伝えられる機会が減ってしまうということでもあります。それがとても残念に思うのです。

 

3つ目は「地図を作る」という視点です。

一般的な地図において、鉄道は線で表現されますが、バスはバス停しか表示されません。

もちろん、すべてのバス路線を鉄道と同じように表現していたらキリがないのですが、鉄道に近い基幹交通的な機能を持つ路線、特に廃止された鉄道に代わるバス路線については、鉄道と同じように表現することを考えてよいのではないかと思います。

ローカル線の沿線には、「鉄道がなくなると町が衰退する」「鉄道がなくなると地図から町が消える」というような懸念があります。それは、地図における扱いの格差にも一因があると考えています。

地図というのは象徴的な一つの例ですが、我々は交通手段の1つに過ぎない「鉄道」をどこか特別視してきたところがあって、それも「特性に応じた輸送手段の1つ」というように捉え直していかなくてはいけないのだと思います。

気仙沼線BRT・大船渡線BRTの今後

2019年11月12日、JR東日本はBRT区間の鉄道事業廃止届を国土交通省に提出しました。

この時、今後はどんどんサービスが切り下げられていくという危惧が見られましたが、すぐにはそうならないと考えています。

1つは、震災から復興途上であるということを織り込み済みで、JR自身がBRTでの復旧を提案しているということです。鉄道会社が経営を放棄し、別事業者がやむなくバス輸送を引き受けたような話とは違います。

2つ目は、これは喜んでいいかわかりませんが、JRとしては、今後他のローカル線の存廃問題が出てきた時に、バス転換のモデルケースにしたいのではないか、と考えられることです。

初めてBRTに乗車した時、流された橋をかけ直してまで専用道を拡充しようとしているのは正直意外でした。単に、残った線路部分を専用道に転用するだけだと思っていたからです。

そこまでしてサービスを改良する理由は何なんだろう。そう考えた時、きっとこれを横展開させたいんだろう、ということに思い至りました。

すでに、JR九州日田彦山線の復旧問題において気仙沼線BRT・大船渡線BRTの事例が参考として挙げられるなど、そうした役割を担いつつあります。

そういった思惑がある中で、「BRTになってもすぐにサービスを切り捨てられる」とマイナスイメージを持たれるような選択をすることはないと考えています。 

 

つまり、しばらくは猶予があると思います。

とはいえ、ずっと安泰であるという保証もありません。

気仙沼線BRTの本吉駅には有人窓口がありますが、2018年11月に、それまで週2日だった窓口営業を月2日に引き下げています。

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いつまでも利用者数の回復が見込めないようなら、次第に需要にあわせてサービスが低下していくことは、当然考えられることです。

BRTでの本復旧が決まる頃、大船渡市議会の産業建設部会が2015年11月5日に提出した報告書*1では、JR側の見解として以下の通り記載されています。

当部会と JR 東日本の意見交換においても持続可能性については、未来永劫との約束は出来ないが、JR 東日本の体力があり、社会的な批判を招かない状態転換期を迎えない時期までは続けたいとの意向が示された。(※下線は引用時に追加)

つまり、社会的に容認されるような状況であれば、将来的にサービス低下が起こるということです。

現状気になっているのは、JRと地域の関係が、「新駅増設等のサービス改善を求める自治体とJRの交渉」というレベルでしか存在しないように見えることです。

鉄道だと「マイレール意識」と呼ばれたりしますが、地域にある路線に愛着を持ち、どのように活用していくかを積極的に考えていくという姿勢は、今の沿線には乏しいように見えます。

その端的な例として少しショッキングだったのは、11月に南三陸町で行われた下記のイベントのチラシでした。

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チラシの右下に会場までの地図があります。

実際には、左上の「●セブンイレブン」の真下にBRTの志津川駅があるのですが、まったく記載がなく、そこからの所要時間もわかりません。BRTなど存在しないかのように扱われています。

載せないのが悪いというわけではないのです。実際、ほとんどの人は車で来るから記載する必要がないのでしょう。それがBRTの沿線の現実であれば、まずは直視しないといけません。

今はまだ、沿線自治体も復興が最優先であり、BRTの活用まで積極的に考慮する余裕はないでしょう。ただ、沿線が将来もBRTに見向きもしないのであれば、「社会的な批判を招かない状態」に至るのは、そう遠くないようにも思います。

 

いずれにしても、気仙沼線BRT・大船渡線BRTは、鉄道を特別視してきたこれまでの枠組みからの転換であり、交通網のあり方に一石を投じた事例と言えます。その行く末に関心を持って見ていきたいと考えています。