その9(№5669.)から続く

今回と次回は、「TOKYO2020」、2020年東京五輪を契機に整備された、又はされなかった鉄道その他の交通インフラについて取り上げてまいります。なお、JR東日本では五輪開催に関連した新駅開業はなかったので、予告編とはタイトルを違えていることをご了承ください。

既に東京の都市部には稠密な鉄道網が張り巡らされていて、道路もそれなりに整備されています。2020年五輪招致の際、東京の大きなセールスポイントとなったのは、まさにこの点。つまり、改めての交通インフラの大規模整備の必要がなく、環境整備のための経費が抑えられるという点が、IOCの幹部に強く訴えかけられた結果ともいえます。
とはいえ、そういった中でも、全く整備が不要かといえば、そんなことはないわけで。
東京メトロとJR東日本では、五輪開催を見据えて、新駅の開業や設備の改良などを行っています。

【東京メトロ:虎ノ門ヒルズ駅開業】
森ビルが手掛けた再開発ビル「虎ノ門ヒルズ」のアクセスのため、森ビルが建設費用の大半を負担した「請願駅」として、日比谷線全線開業後初の新駅として、昨年6月に開業しました。
建設・開業の経緯を見れば、単に企業としての森ビルが東京メトロに資金提供して駅を作ってもらっただけの話であり、五輪と何の関係があるのかと訝る向きもあろうかと思いますが、何故ここで取り上げるかといえば、この駅と直結したバスターミナルから、観客輸送のためのBRT(バス高速輸送システム)路線を運行する計画があったから。
この計画は、「東京BRT」として一部が実現していますが、肝心の観客輸送は、2020年東京五輪が1年延期され、なおかつコロナ感染対策の必要から無観客で開催されたため、全く本領を発揮できないままでした。これは、コロナ禍という全くの外的要因なので、「東京BRT」の責任ではないのですが。
管理人にとっては、「東京BRT」の運営事業者に京成バスが選定されたのは、少なからぬ驚きでした。以前のように、事業者ごとの営業エリアという「シマ」が決まっていた時代であれば、東京都交通局が運営主体になったはずだからです。京成バスの「シマ」は葛飾区や江戸川区など東京23区の東部であり、湾岸地区には営業路線を持っていなかった京成バスが、まさか(と言っては失礼か)「東京BRT」の運営事業者になるとは。お台場に乗り入れる関東バスといい、新橋駅に乗り入れる京王バスといい、事業者ごとの営業エリアの縛りが撤廃された効果といえるでしょう。もっとも、今のところ「東京BRT」はプレ運行中で本格運行ではありませんし、そもそもこれについて「BRTでござい」と胸を張っていいのかは、管理人自身大きな疑問を持っているのですが…。そのあたりは、次回に言及することとします。
「虎ノ門ヒルズ駅」に話を戻せば、駅名選定の経緯と日比谷線の駅ナンバリングに言及せざるを得ません。前者に関しては、前述のとおり、この駅が森ビルが資金提供した「請願駅」であることからして、駅名選定のイニシアティブが東京メトロにはなかったこと、後述する「高輪ゲートウェイ」と異なり公募の形を取らなかったことなどで、話題になることはほとんどありませんでした。他方、後者の駅ナンバリングに関しては、「虎ノ門ヒルズ駅」を「H06」とし、霞ヶ関-北千住間の駅のナンバーを1つずつ繰り下げていったため、利用者に混乱が生じることが危惧されましたが、さしたる混乱は起きなかったようです。この問題は、駅ナンバリングを採用している路線について、事後の新駅開業にどのように対応するかについて、一石を投じることにもなりました。

【JR東日本の駅の整備】
JR東日本にも、虎ノ門ヒルズ駅に3か月ほど先んじた昨年3月、「高輪ゲートウェイ」という新駅が開業していますが、こちらは五輪とは関係ありません。
しかし虎ノ門ヒルズ駅とは異なり、この駅の駅名が決定したことが明らかになると、鉄道趣味界は勿論のこと、一般世間からも囂々たる非難が沸き起こりました。この原因は、この駅の開業に際し駅名を公募しておきながら、得票数上位の候補を採用しなかったこと。もっとはっきり言えば「アリバイ作り」「出来レース」のために公募を実施したとみられたことです。ここでは、問題点の指摘のみにとどめます。
JR東日本が行った「TOKYO2020」対策としては、競技会場最寄りに該当する駅の改良工事が挙げられます。具体的には、千駄ヶ谷(中央緩行線)と原宿(山手線)の両駅。特に千駄ヶ谷駅は、オリンピックスタジアム最寄り駅でもあるため、改良は喫緊の課題とされました。
まず千駄ヶ谷駅では、1面2線の島式ホームについて、秋葉原・千葉方面行きの専用ホームに改め、新宿・三鷹方面行きのホームを新たに設けることにしました。新たに設けるといっても、全くの新設ではなく、かつて使われていた、島式ホームの外側にある臨時ホームをレストアして使うことにしています。
とはいえ、臨時ホームは長年にわたって使われていなかったためか、経年による劣化が進行しており、レストアというよりは撤去→再設置とみた方が正しいような気もしました。管理人は、千駄ヶ谷駅の改良前の臨時ホームを見たことがありますが、端の部分がボロボロで、そのまま使うには危険が伴う印象を受けました。
そして原宿駅は、特徴的な駅舎が有名でしたが、これが築100年に迫る古い建物であること、駅舎としては手狭になって久しいことなどから、JR東日本は新たな駅舎を建設することを決断、同時に1面2線の島式ホームも、内回り・外回りで1面ずつのホームに分けることにし、改良工事が実施されました。こちらはお正月(1月1日~3日)とメーデー(5月1日)のみに使用されていた、外回り線の外側にある臨時ホームをレストアして使うことにしました。このあたりは千駄ヶ谷駅と同じ手法ですが、こちらは年に何回か実際に使用していたこと、また明治神宮の森が間近に迫っておりそこを一部伐採する作業が必要なことが異なっていました。
かくして、千駄ヶ谷・原宿の両駅の改良工事が完成し、両駅とも列車の方向別にホームが分けられました。
しかし、千駄ヶ谷駅はもともと高架駅のため、改良工事が完成しても改札外からの見てくれはそれほど変わらなかったのですが、大きく変わったのが原宿駅。この駅は平日・土休日問わず常に混雑しており、内回り・外回りのホーム分離は確かに福音だったのですが、問題は駅舎。ガラス張りで採光に配慮された構造だったのですが、これが「原宿駅らしくない」「無個性だ」などという批判を浴びることにもなりました。そういえば旧駅舎の処遇はどうなるのでしょうか。管理人が聞いたところによると、以前の場所かそれと至近の場所で保存されるという話もあったような。

【その他】
その他、JR東日本及びJR東海では、五輪期間中は新幹線・在来線の終電を繰り下げること及び臨時列車を運転すること、東京メトロなど関東大手私鉄もそれに対応して終電を繰り下げること及び臨時列車を運転することなどを取り決めていましたが、肝心の五輪が無観客での開催となったことから、このような終電の繰り下げ措置、あるいは臨時列車の運転は行われませんでした。

以上が「TOKYO2020」をにらんで実施された既存鉄道インフラの改良ですが、次回は、この大会をにらんで計画されたはずの「銀座-晴海間のLRT計画」、これが何故潰えたのかを見てまいります。

-その11へ続く-