【首都圏の南北軸】2001年12月1日の湘南新宿ライン運転開始から20周年

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2001年12月1日に運転を開始した湘南新宿ラインが明日、20周年を迎えます。

関東を都心主要駅を経由して南北に縦貫するこの系統の登場は画期的で、現在まで他社線を含めた首都圏の鉄道輸送に大きな影響を与えました。

細々と走っていた各線の列車

湘南新宿ライン開業前から運行されていたスーパービュー踊り子号の池袋発着。現在もE257系で同様の運転が見られる。

現在「湘南新宿ライン」の愛称で運転される線路は、北から東北貨物線(大宮〜田端)・山手貨物線(田端〜大崎・品川)・品鶴線(ひんかくせん;品川・大崎〜鶴見)といった路線名称が存在します。

これらの路線の歴史はいずれも非常に古く、いずれの路線も貨物列車と旅客列車を別の線路で運転する「貨客分離」を背景に建設されています。山手貨物線は1918年から1925年にかけて・東北貨物線は1927年から1932年・品鶴線は1929年に開業と、いずれも戦前に建設された路線で、長らく首都圏の膨大な貨物の輸送の南北軸として供用されていました。

その後、戦後の高度経済成長とともに首都圏の通勤時間帯の混雑が年々激化し、「5方面作戦」と呼ばれる線増計画により現在に近い線路構造となっています。

東北本線系統の赤羽〜大宮間では、1960年当時は貨物線を貨物列車が使用・それ以外京浜東北線,東北本線,高崎線が在来線特急の合間を縫って運行される体制で、これを3複線化しています。

東海道本線系統の増強は複雑で、大船駅以北で線路を共用していた東海道線と横須賀線を分離する「SM分離」に向けて複雑な工事が行われました。

主な工事は品鶴線の旅客化と新線建設ですが、新鶴見信号場〜鶴見間は旅客線建設・鶴見〜戸塚間は横浜羽沢経由の貨物線建設・戸塚〜大船間は線増で3複線化と区間により対処が異なります。

更に、品鶴線を経由していた山手貨物線を経由していた南北の貨物列車については、新たに建設する武蔵野線経由を中心としています。このほか、東海道貨物線についても平塚までの別線だったものを小田原駅まで線増しています。

これら一連の工事の結果、線路設備は現在に近いものとなりましたが、これらの工事が完遂した1980年時点では貨物線は貨物列車の運行という本来の使命通りに使用されていました。

その後は鉄道貨物輸送衰退により余裕が増えた貨物線を活用した旅客輸送の改善が進められ、1986年には前年に運転を開始した埼京線の列車が池袋から山手貨物線を使用して新宿駅まで乗り入れ(のちに恵比寿駅)・1988年に東北本線・高崎線の一部列車が東北貨物線・山手貨物線経由で池袋までの乗り入れを開始(赤羽駅以北は1984年から)しています。

一方で、南側については東海道貨物線が主要駅である横浜駅を経由しないことなどもあり、着席通勤需要に応える「湘南ライナー」「湘南新宿ライナー」の運転・特急「踊り子号」新宿発着・新設された空港特急「成田エクスプレス」など、有料列車や臨時列車に限定されていました。

5形式で賑やかだった初年度

置き換え途上だった小山の115系も運用(写真はイメージ)

現在でこそE231系とE233系が行き来するこの系統ですが、2001年12月1日の運転開始当初は115系小山車・211系高崎車・E231系小山車・E217系鎌倉車・215系田町車の5形式が使用されており、2ドア,3ドア,4ドア・グリーン車連結の有無など様々な車両が行き来していました。

これに加え、当時のE217系は分散配置となっていたため代走で幕張車運用・後述の池袋駅立体交差工事による区間運休では211系田町車の運用など、ファン目線では非常に魅力的な時代でした。

この時点では高崎線〜東海道線直通・宇都宮線〜横須賀線・新宿〜横須賀線の毎時3本構成で運行を開始しており、運転開始前から運行されていた池袋駅発着列車も残るなど複雑な体系となっており、この時点では黒磯駅発着・横須賀駅発着の列車も運行されていました。

この運転体系は後述の通りすぐに解消されていますが、現在でも211系一部編成の前面種別幕で残存していること・横須賀駅等で湘南新宿ラインの表記の跡が残っていることなど、僅かながら歴史の跡を見ることが出来ます。

共に進化した駅設備と大増発

行先表示器の表示内容が現在と異なる。

湘南新宿ラインの開業から現在までの20年間は駅改良工事と変化を共にしており、改良された駅は浦和駅・池袋駅・渋谷駅・大崎駅・武蔵小杉駅が挙げられます。

開業当初の湘南新宿ラインは大宮・赤羽・池袋・新宿・渋谷・恵比寿(・西大井・新川崎)・横浜と停車駅が少なくなっていました。

2002年12月1日には、同日に開始された埼京線とりんかい線の直通運転とともに大崎駅が停車駅に追加されました。

同時期に池袋駅では湘南新宿ライン開業と前後して埼京線と立体交差化が進められ、池袋駅目白寄りにあった平面交差を2004年の切替工事で解消しています。この工事のために池袋駅北側が一時単線とされていたことも解消され、2004年10月16日のダイヤ改正で湘南新宿ラインは今日まで続く毎時4本を基本とする運転体系に生まれ変わりました。

このダイヤ改正では使用車両も全て当時最新型のE231系に統一されており、これと同時にグリーン車の連結も開始されています。

なお、E231系のグリーン車連結開始から前日までは、上野駅発着列車で無料開放とする体制が組まれていました。グリーン車が既に営業している東海道線・横須賀線へ入線しないようにする措置とみられ、関係者の苦労が垣間見られます。

2010年には武蔵小杉駅横須賀線ホームの使用が開始され、湘南新宿ラインについても全列車が停車駅となりました。武蔵小杉駅は現在も下りホーム増設による混雑緩和工事が進められているように、利用者を大きく増やしています。

2013年には以前から進められていた浦和駅の立体高架化工事が進行したことで、貨物線へホームが建設。浦和駅も停車駅に加わりました。

最近では2020年6月1日に渋谷駅のホームが山手線と並列化され、同駅の利便性が大きく向上しています。

当面は現行体制?

2015年に湘南新宿ラインに運用拡大したE233系3000番台では、湘南新宿ラインの際は行先が橙色に

非常に便利な湘南新宿ラインですが、開業以来混雑する区間も多くなってきました。2019年の相鉄線直通列車により新宿・渋谷〜武蔵小杉駅間の最混雑区間が改善されています。JR東日本としてこれ以上の改良は現時点でなさそうですが、外部からは様々な要望が寄せられています。

湘南新宿ラインの運行の大きな障壁は旧:蛇窪信号場(大崎〜西大井・現在は大崎駅構内扱い)の平面交差支障が挙げられますが、こちらは現時点で解消の目処は立っていません。

以前より川口駅への中距離電車停車を望む声が大きく、特に京浜東北線から乗り換えが必須な状態の池袋・新宿・渋谷方面=湘南新宿ラインへの建設が理想的です。しかし、これまでの協議の推移を追う限り、実現したとしても混雑が激しい湘南新宿ラインには建設されず、上野東京ラインのみの建設に留まる模様です。

また、先日発表された相鉄の中期経営計画では、新たな直通先検討が触れられています。

相鉄側としては、開業前から品川方面への運行を希望していることが伺える状態で、開業後も品川・東京方面へ同一ホーム乗り換えが可能であることをPRするなど苦心している様子です。

何らかの事情で実現した場合は、再び湘南新宿ラインが極端に混雑することとなり、横須賀線列車・湘南新宿ラインのダイヤにも大きな変更が想像できます。

どちらの要望についても、あくまで希望しているのは外部の組織であり、JR東日本の意志で現行体制から大きく変更される可能性は限りなく低そうです。2001年に運転を開始・2004年には現行に近いダイヤを構築しており、当時の幹部陣の判断には感心させられます。

ライバルにも大きな影響

湘南新宿ラインの開業はJR東日本にとって大成功だったことは言うまでもありませんが、これに留まらず“ライバル”である並行私鉄にも大きな影響を与えた点も忘れられません。

渋谷〜横浜間の輸送で競合することとなる東急東横線では、新たな速達種別として特急を新設し、「東横特急」の愛称で積極的なPRを行いました。副都心線との直通運転具現化・渋谷駅周辺の再開発進行への効果も少なくなさそうです。

新宿〜藤沢・小田原で競合する小田急電鉄では、「湘南急行」で対藤沢の速達性を向上したのち、2004年に「快速急行」として藤沢・小田原駅双方の速達種別となりました。複々線化が完遂した現在では、ダイヤの骨格となる種別にまで進化しています。

その他の貨物線構想にも期待

首都圏近郊にはこのほかにも貨物線を使用した旅客列車が数多く運転されており、有名どころとしては武蔵野線の貨物線区間を活用した「むさしの号」・「しもうさ号」・「ホリデー快速鎌倉号」などが挙げられます。

先述の2019年に開業したJR東日本と相鉄の直通運転についても、山手貨物線・品鶴線・東海道貨物線と全て貨物線ルーツの経路を走行しています。

現在進行しているプロジェクトとしては、羽田空港アクセス線があります。こちらは1998年に休止となった大汐線と呼ばれた貨物線があったことが東山手ルート建設実現に大きな効果をもたらしました。

このほか、首都圏でも混雑が激しい路線として知られる南武線では、以前から並行する武蔵野南線旅客化構想・川崎市営地下鉄構想があったものの共に実現には至っていません。近くでは横浜市営地下鉄ブルーラインのあざみ野〜新百合ヶ丘駅間延伸が進むこととなりますが、南武線への効果は限定的な印象も否めず、武蔵野南線への期待の声は現在も多く聞かれます。

国鉄時代に建設された貨物線のネットワークは、今後も新路線建設などの際に思わぬ形で恩恵をもたらすかもしれません。

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