【東急車にも影響?】ホームドア設置延期・直通先模索〜相鉄が中期・長期計画を発表

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相鉄グループでは2021年11月25日、「長期ビジョン“Vision2030”」「第6次中期経営計画(2022年度~2024年度)」を発表しています。

鉄道趣味目線では、ホームドア設置時期の延期・新たな直通先の模索などの記述が注目されます。

新たに発表された中期・長期計画

相鉄ホールディングスから2021年11月25日付けで『相鉄グループ「長期ビジョン“Vision2030”」及び「第6次中期経営計画(2022年度~2024年度)」策定について』(外部PDF)として、2030年度を目標とする長期・2024年度を目標とする中期の経営計画が発表されました。

グループ創業100周年に向けて策定されたされた2010年度〜2019年度の”Vision100”では、グループ全体の利益水準目標だった「連結当期純利益100億円超」を前倒しで達成しています。特に鉄道事業では変化が大きく、長年の悲願だった都心直通プロジェクトの第一弾となるJR東日本との相互直通運転の開始・デザインブランドアッププロジェクトとして「ヨコハマネイビーブルー」(YOKOHAMA NAVY BLUE)の車両・駅・制服の導入が目立ちました。

これに続く“Vision2030”については「“Vision100”のコンセプトを踏襲しつつ、直近の経営環境の変化を踏まえ、新たな長期ビジョン“Vision2030”を策定」としており、昨今の社会情勢の変化・特にコロナ禍での減収減益を反映したものとされています。

影響を受けるのは東急電鉄車両?ホームドア設置延期

転落防止幌非設置のまま製造が続く8両化用の中間車

鉄道趣味の観点では、中期経営計画において、以前から進められていた全駅へのホームドア設置を「2024年度までに海老名駅を除く全駅設置」「2027年度までに全駅設置」とされている点が注目されます。

決算説明会資料を振り返ると、2021年3月期の決算資料(外部PDF)の時点で2021年度末(2022年3月期)までの整備が「⻄谷、鶴ケ峰、希望ケ丘、瀬谷、相模大塚、さがみ野、かしわ台の7駅」・以後全駅と既に計画変更が伺える状態でした。2020年3月期の決算資料(外部PDF)の時点では2022年度末(2022年3月期)に「全駅」とされており、この間のどこかで変更されたものとみられます。

この変化で影響が発生するものと想像出来るものとして、東急電鉄所有車両のうち目黒線所属車両が挙げられます。

現在2022年度下半期開業に向けて準備が進められている相鉄新横浜線全線開業・東急新横浜線を介した東横線・目黒線への直通運転ですが、目黒線方面の車両については既にホームドア整備を完遂していた歴史的経緯により、目黒線所属車両(東急電鉄3000系・5080系・3020系)は車両連結部の「転落防止幌」が非設置となっていました(新造時に取り付けていた車両も撤去)。

車両間の転落防止幌については、現行省令で義務化されています。

「鉄道車両の連結部(常時連結している部分に限る。)には、プラットホーム上の旅客の転落を防止するための設備を設けなければならない。ただし、プラットホームの設備等により旅客が転落するおそれのない場合は、この限りでない。」

移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備並びに旅客施設及び車両等を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令(平成十八年国土交通省令第百十一号)

この基準に則れば、乗り入れ先を含めて全駅にホームドアが完備されている目黒線系統では転落防止幌を省略できます。一方で、かつての東横線・みなとみらい線直通の臨時列車「みなとみらい号」では、設置形式のみが使用される……といった制約もありました。

最近出場したばかりの8両化中間車(3000系:過去記事5080系:過去記事)についても同様の仕様となっており、相鉄線内のホームドアの設置時期が遅くなったことで、この基準に適合するためには、目黒線所属の8両26編成についても(西谷までの運用制限・何らかの特認とならない限り)新たに転落防止幌設置が進められることが予想できます。

両社にとって直通開始時点でホームドア設置を間に合わせることを前提に動いていたことは想像に難くないですが、向こう数年しか使用しない車両設備の取付はなかなか渋い印象です。

一方で、相鉄車は線内運用の既存車代替も兼ねているため、東横線直通用の20000系10両編成・目黒線直通用の21000系ともに転落防止幌を設置した状態で製造が進められています。

都営三田線6500形や東京メトロ南北線9000系についても、保安装置・無線装置が未対応であることに加え転落防止幌も省略されており、両形式8両編成の相鉄直通対応についても、ホームドア設置完遂に合わせて進展があるかもしれません。

課題は山積だが……相鉄が模索する新たな直通先

このほか中期経営計画の重点戦略の1つとして、「新たな相互直通乗り入れ先の検討・具体化」の記述が見受けられ、ファンの間で以前から様々な議論が飛び交う直通先の制約解消について、相鉄側としては引き続きの議論を進める意向であることが明らかになりました。

相鉄の都心直通を巡る建設時からの発表を総合すると、JR直通については品川・東京方面が本命だったこと、東横線直通は副都心線を経由して東武東上線・西武池袋線までの直通を理想としていたことが伺えます。

JR直通の運転方面を品川・東京方面へ

貨物線を走行するE233系7000番台

2019年11月に開業したJR東日本〜相鉄の相互直通運転では、初年度の利用者数は開業以来予想の半数以下と非常に厳しい利用動向となっています。

JR東日本とそのユーザーの目線では、混雑が激化して東急線と競合もしている、湘南新宿ラインの武蔵小杉駅〜渋谷・新宿間の補完的な色合いが強そうです。

一方で、相鉄とそのユーザーにとっては、(特に東急直通開始後の)品川・東京・上野方面の直通が望まれるところで、両者の間で利害が一致していないのが現状と推察できます。

相鉄側の意向だけを汲み取れば、品川駅以北で折り返し運行をされる常磐線直通と繋げるのが理想形に思えますが、障壁はかなり高い印象です。

現状では品川駅で線路が繋がっているものの、この経路で運転される場合は横須賀線・東海道線列車との平面交差支障が発生します。東海道線と貨物線が接続している鶴見駅の現行配線では、羽沢横浜国大から東海道線品川方面への転線は出来ず、仮にポイントを挿入したとしても平面交差となることには変わりありません。

現実的な落とし所として考えやすい行き先としては、横須賀線をそのまま走って品川止まりとする程度でしょうか。これについても、既存の武蔵小杉駅の利便性向上というメリットが薄れてしまいます。

横須賀線列車の湘南新宿ライン化(新宿発着の復活)で相殺できそうにも思えますが、日中毎時4本の横須賀線列車をこれ以上削った場合は新川崎・保土ヶ谷・東戸塚のユーザーへの不利益が大きくなってしまいます。

更に、JR東日本が現在建設を進めている羽田空港アクセス線では、事業許可が発表済の「東山手ルート」で上野東京ラインの運転系統複雑化が確定的です。「西山手ルート」として東京臨海高速鉄道りんかい線〜埼京線を経由する列車も構想されており、将来的に上野東京ラインと山手貨物線の運行本数はどちらも増加が想像出来る状態です。

様々な視点で考えても、現状ではJR東日本の理解を得る障壁はかなり高そうな状態で、今後も利用不振が続くことで現行の東京メトロ東西線〜総武線各駅停車のような平日朝夕のみに絞られたり、直通運転自体が終了しても不思議ではない印象です。

一方で、横須賀線の武蔵小杉駅の利用者数が更なる増加をする・JR東日本が難色を示している鶴見駅へのホーム設置が地元負担で実現する……といった外部要因で増発が検討されれば、大きく化ける可能性があります。

副都心線方面への運転範囲拡大

相鉄直通設備を持たずに落成した東京メトロ17000系

東急線直通では、現時点では目黒線系統が三田線・南北線両方向への直通が確実となっている一方で、東横線系統は渋谷駅までの乗り入れが現実的な状態です。

過去に20000系の報道公開した際、保安装置部分に「地下鉄」「東武」「西武」の記述があり物議を醸したのちに隠される……といった経緯があったように、相鉄側としては渋谷の“その先”への直通に強い意欲を感じます。

少なくとも「都心直通」である以上、副都心線の新宿三丁目・池袋駅への直通は相鉄にとって切望されているところでしょうか。

副都心線・東上線・西武線ユーザーは東海道新幹線に乗車する場合、東京駅か品川駅を使った方が早いことは明らかです。東急・相鉄新横浜線の強みである新横浜駅への直結も、蒲蒲線建設による羽田空港アクセス向上とは異なり3社とその沿線にとってのメリットとはなり得ません。

ましてや相鉄線沿線へ足を運ぶユーザーはかなり限定的です。相鉄線沿線の大学への通学需要などは想像出来るものの、多額の車両改造コストと遅延リスクを負う価値はないという判断がされるのもごく自然です。

JR・東急直通双方とも直通先の事業者のメリットが少ないことが言われているように、相鉄以外の事業者にとってのメリットをどのようにアピールしていくか・相鉄沿線の活性化による利用者増加がどこまで進められるかが今後の命運を分けそうです。

関連:相鉄21000系の動き

関連:東急車の動き

コメント

  1. ひろし より:

    上野東京ライン方面は羽田空港アクセスとの競合になるので難しそうですね。
    副都心線の方は、新宿三丁目折り返しで各社が妥協、とかならありそう。

  2. あまたつ より:

    東上線・西武線の私鉄沿線は東京・品川からの方が早いですが、新横浜利用の方が安く、乗り換えは便利なんですよね…
    路線案内でも時間帯によっては新横浜から乗車・下車を進められる場合もあるので、一定の需要はあると思いますね…

  3. 鉄分 より:

    簡潔にニワカ予想を
    埼京線→相鉄線直通を解消しスジは将来的に西山手ルートに転用

    西山手ルート→大崎〜羽田アクセス線分岐点までりんかい線の一部買収で早期実現できないか?(東京臨海高速鉄道は存続、臨海ルートは消滅してもいいので新木場は現状維持)

    JR直通→品川止まりにして常磐線と同一ホーム乗り換え(双方の平面交差問題のため直通運用はなし)

    品川以東→上記に加えて東山手ルートと競合するため、品川以遠は常磐線乗り換えと東急経由三田線直通でカバー

    尾久、赤羽以北→相鉄から直通するメリットがない、万が一利用するとしてもいくらでも利便性の高い乗り換え場所があるため不要。

    鶴見駅→可能ならホームが欲しい、停車ができれば京浜東北線乗り換えで品川以東を更にカバーしつつ旅客の分離もできる

  4. 鉄分 より:

    補足
    常磐線は一部を品川行きから東山手ルートに振替える→その空いた分を相鉄線の折り返しに利用?