わたかわ 鉄道&旅行ブログ

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有終の美を飾る6時間31分の旅路へ…臨時快速「紀の国トレイナート号」ラストラン【御坊→新宮】

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みなさんこんにちは! わたかわです。

今回は、和歌山県内を年に一度だけ走る臨時快速「紀の国トレイナート号」のラストランの様子をご紹介します。

 

2021年11月6日(土)

というわけで、今回は紀勢本線御坊駅にやってきました。これより臨時快速列車〔紀の国トレイナート号〕に乗車して新宮まで向かいます。

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trainart.jp

「紀の国トレイナート」とは、毎年秋に和歌山県の紀南エリアで展開されるアートプロジェクトで、2014年に初めて開催され今年で7回目を迎えました(2020年は新型コロナウイルスの影響で中止)。期間中には沿線のアートを楽しみながら進む臨時アート列車「紀の国トレイナート号」の運行も恒例となり、「鉄道」(Train)と「アート」(Art)が一体となって盛り上がるプロジェクトとして地域の有志とアーティストの方々により展開されてきましたが、この2021年の開催をもって終了することが発表されています。

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ラストとなる2021年の運行区間御坊~新宮駅。その距離146.1キロ、特急ならば約2時間30分程度で移動できる距離ですが、何とこの列車は約6時間30分かけて新宮までを結びます。表定速度は22km/hほどで、とんでもなくゆっくり走る列車のように見えます。

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使用車両は225系(4両編成)。通常は主に和歌山~御坊・紀伊田辺駅間で運用される車両で、紀伊田辺以南へ乗り入れる機会はめったにありません。そして今回この列車は記念列車にも関わらず全車自由席の快速列車として運行されています。事前の予約や申込の類いは必要ありません。

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そしていよいよ御坊駅を発車。市長の発車の合図とともに、定刻通り一路新宮を目指し出発していきます。

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車内は2+1列の転換クロスシートが配置されており、これは四捨五入してグランクラスといえそうな気がします(流石に違う)。全車自由席ということでどれほどの混雑か想像がつかず不安でしたが、幸い発車間際の乗車でも何とか着席できました。

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紀の国トレイナート号の運行ダイヤは上記の通り。例えるなら「飯田線秘境駅号」のように、各停車駅では長めに停車時間が設けられており、各停車駅に展示されているアート作品を鑑賞できるようになっています。なお列車の運行はイベント期間中この1日のみで、しかも片道のみの運行となっています。

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まず最初の停車駅は印南駅。到着と同時に一斉に乗客がホームへ降り立ちます。

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印南駅の駅舎内には、カエルのアート作品がいくつも展示されています。立体的で、近くで見るとちょっとびっくりしてしまうくらいリアルな仕上がりになっています。短い停車時間内ではありましたが、作者の方が実際に居合わせ作品の解説をなさっていました。

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また、町役場の方も駅に赴き、観光パンフレットやキーホルダーを無料で配布していました。

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アートを鑑賞し終えたら、跨線橋を渡り急いで列車へと戻ります。紀の国トレイナート号では各駅でこんなことの繰り返しになります。

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列車は定刻で印南駅を発車。早くも車窓右手には海が見えてきました。ちょうど千里海岸沿いを走っているものと思われます。臨時列車ですがあくまでも「快速」ということで通過駅が多数あり、駅間での運行スピードは特段遅いようには感じられません。

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10:14に南部駅に到着。「なんぶ」ではなく「みなべ」と読みます。町名は「みなべ町」とひらがなで表記するのが正しいようです。

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南部駅前のロータリー中央には、アカウミガメのアート作品が展示されています。また地元のゆるキャラによる出迎えや巨大な絵本の読み聞かせパフォーマンスもあり、駅前は大賑わいでした。

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また、みなべ町は梅の産地として有名のようで、列車の乗客に向けて梅干しや梅ドリンクなどいろいろな特産品が無料でふるまわれました。特急券等が必要な列車ならまだしも、乗車券のみで乗車できる列車の乗客にこんなにも様々なおもてなしをしてくださるとは驚きです。

10:30に南部駅を発車。トンネルをくぐると、すぐに次の停車駅へと到着します。

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10:37に列車は紀伊田辺駅へと到着。ここは全ての特急が停車するほか、普通列車の運行系統が分かれる主要駅です。紀の国トレイナート号は約26分間の停車となります。

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ここでは駅前のロータリー内に「積木の茶室」と呼ばれる作品が展示されています。地元の木材を使用して造られた積木を重ね合わせて美しい幾何学模様が描かれており、少しだけですが中を覗くこともできました。

また、駅周辺では文字が書かれた白い風船をもった人があちこちにいます。これは「フキだしプロジェクトinトレイナート2021」と題し行われているプロジェクトで、今ここにしかない景色を目指し人と言葉の関係を考え直すことがコンセプトになっているようです。

さらに、駅前では特産品のみかんの配布が行われていました。印南駅・南部駅に続き、さっきから食べ物やノベルティを貰ってばかりです(笑)。

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紀伊田辺駅のホームに戻ってみると、何やら個性的な車両が停車しています。これはきのくに線227系を用いて行われた「デザイン列車プロジェクト2021」の最優秀作品で、「先の先の先」をテーマに全国の未就学児~高校生からデザインが募集されました。窓の上下に描かれたいくつもの矢印がまさにテーマを反映しているということでしょう(こなみ)。和歌山市内の小学校3年生の子の作品だそうです。

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側面の行先表示器には「快速 新宮」と表記されています。基本的に普通列車は全列車が各駅停車となる紀勢本線において「快速」の文字は極めて珍しいものでしょう。紀伊田辺駅からの「新宮行」の普通列車は1日に何本も運行されていますが、紀伊田辺始発ではなく御坊からやってきているというのもとても珍しいことです。

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11:03に定刻通り紀伊田辺駅を発車。ここからはかなり乗客が増え、車内はだいぶ混雑してきました。グループで乗車されている方も多いようで、快速列車とは名ばかりの団体臨時列車の様相を呈しています。

なお、この列車の車内では車掌さんによるアナウンスとは別に地元のラジオDJの方による各駅アート作品の案内放送が随時流れていました。

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11:11に到着したのは朝来駅。「そっけなく聞こえる駅名」としても有名なこの駅には、15分ほど停車するという案内がありました。

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朝来駅では「つむぐプロジェクト」というものが展開されています。これは一人ひとりが思っていることを用意されたカードに書き飾っていく参加型アート作品で、神社の絵馬のようなものに近いイメージでしょうか。トレイナート号の乗客のみなさんも思い思いの言葉や絵をしたためているようでした。

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朝来駅の発車は11:26の予定でしたが、何故か時間になってもドアが閉まりません。特に放送もなかったため原因は不明ですが、8分ほど遅れて11:34頃に発車しました。

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そして列車はすぐに次の白浜駅へと到着。定刻よりも7分ほど遅れて11:39頃の到着となりましたが、ここでは30分以上の停車時間が用意されているため遅延が後々まで響くことはありません。

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白浜駅の改札横には、1対のペンギンのパネルが展示されています。このペンギンの前に乗客が集まり記念写真を撮る「青空ペンギン写真館」というプロジェクトが予定されていたようなのですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のためこのイベントは中止おとなり、記念写真を撮影したい人は各自パネルの前で撮るというスタイルになっていました。

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紀南エリアの観光拠点とも言える白浜には、新大阪方面からの特急が続々到着します。紀の国トレイナート号が到着した直後、定刻よりも少し遅れてここ白浜駅が終着となる 特急〔くろしお3号〕が入線し、さらにその後続けて新宮行の特急〔くろしお5号〕も到着。どちらの列車からも大量の観光客の方々が降りていかれ、改札口付近はトレイナート号の乗客とあわせ大変な人だかりになっていました。日中は普通列車よりも特急の本数が非常に多い駅で、特にこの白浜どまりとなる特急がかなり多く設定されています。

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白浜駅を定刻通り12:10に発車し、引き続ききのくに線を南下していきます。海側ばかりを注目してしまいがちですが、山側はのどかな景色が広がります。

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続いての停車駅は周参見駅。12:34に到着し、ここでは約25分間の停車があります。

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周参見駅のアート作品は、駅舎内および線路沿いに掲げられている無数の顔のイラスト。かなりインパクトの強い作品ですが、この顔はどうやら特産品のカツオが掛かることで水面が跳ねる様子に喜ぶ周参見の住人のみなさんの顔を表現しているということで、カツオ漁法「ケンケン漁」にちなみこの作品の名前は「ケンケン」となっています。

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列車は周参見駅を12:59に発車。引き続き車窓の右手側には広大な太平洋の景色が広がります。実は御坊駅を発車してからここまでで何と3時間以上が経過しており、これでようやく半分ほどやってきたということになります。

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途中の和深駅には停車こそしないものの、ゆっくりと徐行しながら通過していきます。ホーム上に飾られている石造りのたまごは2015年のトレイナート作品だそうです。

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13:30には紀伊有田駅へと到着。ここでのアート作品は、駅舎そのものです。丸を基調とした鮮やかな絵で駅が埋め尽くされ、無人駅とは思えないような圧倒的な存在感を放っています。わずか15分間しか居られないのがもったいなく感じるほどです。

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紀伊有田駅を発車し、13:52にはすぐに次の串本駅へと到着。ここには特にアート作品はありませんが、ここでは何と14:40まで50分近く停車します。

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この停車時間の中で、希望する乗客のみ駅前の料理屋さんで名物の「鰹茶漬け」を食べることができます。列車内では随時整理券が配布されており、私もいただこうかと思いましたが、極貧大学生にはなかなか勇気のいるお値段だったので今回は列車の実況に徹しようということで諦めました。

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代わりに駅前のスーパーでお寿司を購入。名物の「一口さば寿し」はどう考えても一口サイズではなく、むしろ一般的な握り寿司よりも大きかったように思いますが、とにかくどれもとても美味しかったです。紀南にお越しの際は是非地元のスーパーに立ち寄ってみてください。

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ちなみにこのトレイナート号、アート作品が改札外に存在することも多いわけで、本来途中下車できない乗車券類を所持している場合は改札外に出た時点で前途無効となります。しかし今回アート作品を鑑賞するために改札外に出る際の乗車券の確認等はあまり行われず、JRとしても黙認しているように見えました。もっとも私は「どこでもきっぷ」を所持しておりましたので、グレーな判断とならぬよう常に所持して出入りしていました。

鰹茶漬けを堪能した乗客も列車内に戻り、14:40に串本駅を発車。

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その先の紀伊浦神駅では、列車行き違いのため5分ほど運転停車が行われました。またどうやら3号車では地元和歌山出身女性アーティストの方による独唱ライブが開かれていたようです。

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まもなく列車は紀伊浦神駅を発車。駅を出てすぐ、列車は海岸線のすぐそばを走ります。この先の太地駅周辺にもアート作品があるようですが、今回この列車では通過となります。

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15:14には湯川駅に到着。ここでの停車時間は約12分間でやや短めです。

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海岸からも程近いこの湯川駅には2種類のアート作品が展示されています。まず海岸沿いに一見無造作に置かれているようにも見えるラグビーボール状の作品がありますが、これは「時の舟」と呼ばれる作品です。内側は細いワイヤ―が張ってあるのみで、互いが互いを支えるようにして成り立っています。また、湯川駅自体は現在無人駅ですが、かつて宿直室として使われていた暗い部屋の中に巣穴のような白いドーム状の作品があり、こちらは「nest to」と呼ばれる作品とのことです。

どちらの作品も近づいてじっくり見てみたかったですが、そうすると列車が発車してしまいますので遠巻きに鑑賞するだけにしておきました。

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ここでちょうど新宮からやってきた新大阪行の特急〔くろしお30号〕と行き違いも行ったところで、トレイナート号は15:26に定刻通り湯川駅を発車していきます。

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終点まで残り約30分となり、ここで面白い光景が。何とこの紀の国トレイナート号は、全列車停車駅であるはずの紀伊勝浦駅を颯爽と通過していきます。特急・普通列車を問わず定期ダイヤでは必ず全ての列車が停車し客扱いを行う主要駅で、名古屋方面からの特急はここを終着駅とするほどですが、お客さんをのせたこの4両編成の225系が運転停車さえも行うことなく通過していく光景は違和感しかありません。

特に紀伊勝浦駅にアート作品があるわけではないといえ、これは貴重な体験をすることができました。

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そして15:34には最後の途中停車駅である那智駅に到着。ここでは約11分間の停車となります。熊野那智大社へのアクセスにも便利な駅となっており、駅前からバスに乗り換えて行くことができます。

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那智駅にも2種類のアート作品があります。駅舎内にあるのは「紀伊半島を巡る掃除道具とコンフェッティ・タロット」という作品で、この周辺に由来するものを掃除道具とリンクさせているみたいです。個人的には数ある作品の中でもこれがコンセプトとしては特に難しく感じ、アートの奥深さを感じることができました。

また駅から少し歩いた海岸沿いにあるのは「ショッピングカート」。大きくカラフルな作品で、きのくに線沿線の自然やそこに住む人々の豊かな暮らしや文化がポップな色使いで表現されています。

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那智駅では、紀の国トレイナート号を降りて後続の普通列車へと乗り換える人が一定数居ました。この先の三輪崎駅にもアート作品があるのですが、紀の国トレイナート号は三輪崎駅では客扱いの停車を行わないため(運転停車はある)です。アート鑑賞目的でこの列車に乗車してきた人がどっと降りた印象で、最後の一区間だけですが車内は鉄道ファンが中心になりました。

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15:45に那智駅を発車。最後に念押しで車窓右手に太平洋を望みながら、列車はまもなく終点の新宮へと到着します。

終盤の車内では、「紀の国トレイナート2021」実行委員長などから熱い思いのこめられたメッセージが流れました。「ありがとう、紀の国トレイナート号!」という力強い締めくくりの後、車内からは盛大な拍手が巻き起こりました。

2014年に始まったこの「紀の国トレイナート」。毎年開催されてきましたが、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響でやむなく中止となりました。今年はそこから復活を遂げたという意味で、このイベントに携わる全てのアーティスト・関係者の皆様のより一層の熱い思いが込められた回のように感じます。「紀の国トレイナート」という形式ではなくなりますが、今後も紀南エリアでは芸術文化の発信が続けられていくということですので、是非今後とも期待したいところです。

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御坊駅を出発してから6時間31分、16:05に列車はようやく終点の新宮駅へと到着。真っ青な横断幕とともに出迎えられ、紀の国トレイナート号は無事にラストランを終えることができました。

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まもなくすると225系は紀伊勝浦方面に前照灯をともし、ゆっくりと来た道を戻るように回送されていきました。

 

というわけで、今回は紀の国トレイナート号のラストランの模様をお届けしました。

紀の国トレイナート号の運行はこの1日限りでもうありませんが、イベント自体は11月21日(日)まで続きますので、是非紀南エリアに足を運んでみてはいかがでしょうか。

長くなりましたが、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。