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インドネシア、地方都市に広がる「空港鉄道」の波 建設や車両は国産化進むが、電化方式は日本式【気になるNEWS特番】

インドネシア、地方都市に広がる「空港鉄道」の波 建設や車両は国産化進むが、電化方式は日本式
2021/10/21 06:30 (東洋経済オンライン)



インドネシア、ジョグジャカルタ近郊の鉄道にとって2021年は歴史的飛躍の1年となった。2月のジョグジャカルタ―ソロ間の電化開業に引き続き、9月1日、ジョグジャカルタ国際空港と市内を結ぶ待望の空港鉄道が営業運転を開始した。

今年に入り、デルタ株を含む新型コロナウイルスの猛威に晒されたインドネシアであるが、新規感染者数もようやく収まりを見せ、まもなく一部観光地域から観光客の受け入れが再開される見込みである。ジャワ島随一の観光地であるジョグジャカルタの経済は、この1年半で大きく疲弊した。それだけに、空港と市内を直結する空港鉄道に対する期待は大きい。

市内から遠い新空港

ボロブドゥール遺跡、そしてプランバナン遺跡と2つの世界遺産を擁するジャワ島中部の都市、ジョグジャカルタには従来、市内中心部からほど近いアジスチプト国際空港が存在していた。離発着する航空機が市内の真上を飛び、騒音が気になることもあったが、その反面アクセスは良好だった。車でも30分あれば余裕で到達できたうえ、国鉄(KAI)のマグウォ駅とも地下通路で直結していた。

しかし、この空港は空軍基地を間借りする形での暫定的な空港で、一見国内線専用かと思えるほどターミナルが狭く、増える観光客に対応できずに問題となっていた。そこで、新空港として開業したのがジョグジャカルタ国際空港である。2019年5月から旧空港発着の一部便を移管、2020年3月に完全移行して本開業した。

ただ、新空港はジョグジャカルタ市内から40km以上も西に離れており、空港周辺は見渡す限りの田園地帯である。ようやく、ソロ―ジョグジャカルタ―新空港間を結ぶ高速道路の建設が着工したが、用地買収の問題もあり開業は当面先になる。現状、一般道経由ではタクシーや借り上げの車で1時間半、バスでは2時間弱を要する。

このような立地条件から、当初から空港ターミナルは鉄道の乗り入れを前提に設計されていた。2020年の時点で、鉄道駅はまだ姿を現していないにもかかわらず、構内には鉄道駅の案内表示がそこかしこに設置されていた。

この空港鉄道はKAI南本線のクドゥンダン信号所から分岐し、空港ターミナルまでの約5.4kmの全区間高架新線として、運輸省予算で1兆1000億ルピア(約85億円)が投じられ建設された。2019年12月に着工し、2021年8月17日に完工式典が開かれた。列車は南本線に乗り入れジョグジャカルタまで直通運転、空港―ジョグジャカルタ間が最速39分で結ばれ、利便性が大きく向上することになった。



なお、鉄道ターミナル乗り入れまでの救済処置として、空港最寄りのウォジョ駅との間をシャトルバスで接続する形で、ウォジョ(一部はクブメン)―ジョグジャカルタ間に空港連絡列車を設定していたが、こちらは空港鉄道開業と引き換えに廃止されている。

今後は30〜40分おきに

インドネシアでは7月、1日当たりの新型コロナウイルス感染者数が6万人弱まで急増したが、9月末時点では1000人前後にまで減少した。しかし、引き続き緊急活動制限(PPKM)下にあるため列車の運行本数は限られており、10月中旬現在、1日4往復のみの設定である。状況を鑑みつつ、今後は30〜40分間隔程度での運行になる予定だ。

運賃は開業記念プロモーションで当分の間、2万ルピア(約154円)に設定されている。正式運賃は現時点で未公表だが、この水準の運賃と所要時間ならば、コロナ明けには多くの観光客で賑わうだろう。外国人観光客にとって、果たしてどこを経由するのかも定かでない空港バスや、言葉が通じない可能性があるうえ、値段交渉の心配のあるタクシーに比べれば、ひとまず市内中心の駅まで到達できる鉄道の存在はやはり心強い。

さらに、この空港鉄道はKAI子会社のRailink(レイリンク)が運営するジャカルタの空港鉄道とは異なりKAI直轄の運行であるため、クレジットカードや電子マネーしか使えないジャカルタと違い、駅窓口にて現金でチケットを購入可能である。

また、KAI公式アプリ「KAI Access」から当日の最新の運行時刻が確認できる(チケットもアプリから購入できるが、決済方法が外国人観光客にとって難があるため、まずは駅で購入することをおすすめする)。ただし、定員制で運行されているため、発券枚数の上限に達した場合は乗車できない。

このように、一見非常に便利そうに見えるジョグジャカルタの空港鉄道であるが、初めて利用する場合は戸惑うかもしれない。というのも、とくにジョグジャカルタ駅から乗車する際には、KAIの運行する長距離列車、そしてインドネシア通勤鉄道(KCI)の運行する電車、気動車が入り乱れており、それぞれ切符売り場や乗車方法、改札口も異なるからだ。

KAIの列車は窓口またはアプリでチケット購入、QRコードをかざしてKAIの有人改札口から入場するが、KCIの電車はICカード(電子マネー)を自動改札機にタッチアンドゴーだ。1回券の発売はない。しかし、KCIの運行する列車でも、クトアルジョ方面に向かう気動車はKAIからの運行委託であるため、切符売り場はKCI、乗車はKAI改札口という具合に複雑だ。



筆者作成画像を基に編集部作成

2パターンある空港鉄道の運営

そして、肝心の空港鉄道はKAIの運行であるため切符売り場はKAIの長距離列車と共通だが、改札口は空港線専用改札が設けられており、こちらから入らなければならない。ジョグジャカルタ空港鉄道のオペレーターがKAIであることが、逆に状況を複雑にしているとも言える。



複雑なジョグジャカルタ駅の動線を示す案内看板(筆者撮影)

ただ、インドネシアは現在6都市に空港鉄道があるものの、空港鉄道会社であるレイリンクによって運行されているのはメダンとジャカルタの2カ所のみで、ほかはKAIによる運行である。

これは建設資金の出どころの違いによる。レイリンクはKAIと国営空港会社アンカサプラⅡの合弁会社であり、この2社からの投資、つまり民間資本(インドネシアの国営会社は筆頭株主を国とする株式会社であり、事実上の民間会社と捉えられている)で建設されたのがメダン(2013年開業)、ジャカルタ(2018年開業)の2路線である。そのため運営の自由度は高く、車両も公開入札で導入された。前者は韓国宇進産電製、後者はボンバルディアと国営車両製造(INKA)のコンソーシアムが落札している。ただし、運賃が非常に割高になり、いずれも利用者が伸び悩んでいる。

一方、その後に建設されたジョグジャカルタを含む4つの空港鉄道は運輸省予算が投入されており、KAIが運輸省に線路使用料を支払って運行するという形態をとっている。そのため運賃が割安で、一部路線には国からの運行助成金も投じられているので、さらに安い。その分、国の意向が反映され、いずれもKAIとINKAとの随意契約で車両を導入している。



今回、ジョグジャカルタ空港鉄道向けには、前述のウォジョ駅からの空港連絡用として2018年に製造されたINKA製電気式気動車2本が主に用いられ、今後の増発用のマイナーチェンジ車4本がINKAで製造中である。



ジョグジャカルタ空港鉄道で使用されているインドネシア・INKA製の車両(筆者撮影)

このような事情から、ひとえに空港鉄道と言っても、2つのパターンが生まれることになり、利用者にとっては少々わかりにくいものとなってしまった。しかし、今後新たな空港鉄道が建設される際は後者の運輸省予算方式、つまり国家プロジェクトとして、自国予算と自前の技術での建設に切り替わっていくものと思われる。

国内企業で完結する鉄道建設

インドネシアにとって、自国の予算と技術で着工できるならそれに越したことはない。スラウェシ鉄道マッカサル―パレパレ間(約150km)や、ジャカルタ首都圏の全線高架・自動運転方式(GoA3.0)のLRT Jabodebek(約45km)も国営企業が建設しており、来年には開業を控える。

鉄道技術に関してインドネシアは、INKAのほかに国営信号会社(LEN)も有しており、国営建設会社(ADIH、WIKAなど)が橋梁、トンネルを含めた土木工事を担うため、事実上、国内の企業で鉄道建設は完結することができ、近年ではこの方式でのプロジェクトが大半である。空港鉄道のような在来線の10km程度の延長ならば、なおさら容易である。

国家プロジェクトとして進んできたジョグジャカルタ空港鉄道はひとまず完成したが、路線は当初から電化を見越した設計で、現段階ではあくまで非電化による先行開業であり、早ければ来年にも電化工事に着工する予定である。

電化が完成すると、オペレーターはKAIからKCIに移管され、ジョグジャカルタ―ソロ間と一体的な運行が実現し、利便性が大幅に向上する。プランバナン遺跡最寄りのブランバナン駅までも空港から乗り換えなしになる。乗車方法も電子マネーをタッチするだけ、列車指定の面倒な乗車券購入も不要になる。

そして、2021年2月11日付記事「インドネシア鉄道、地方でも『205系』が快進撃」でもお伝えした通り、ジョグジャカルタ―ソロ間は直流1500V、架線支持はジャカルタ首都圏で実績のある、日本同様のシンプルカテナリー方式が採用されている。これがそのまま空港まで延長されることになる。



ジョグジャカルタ―ソロ間の電化区間を走る元JRの205系電車(筆者撮影)

この電化に関しては、日本製の資材がJR東日本商事を介して納入されている。事業主体はインドネシア国内企業で完結しているが、それらを支える裾野産業はまだまだ不足している。INKA製の車両にしても資材の現地調達率は4割ほどである。

電化工事については、ジャカルタ首都圏の需要を反映して施工会社自体は国内に複数存在し、架線金具も生産されている。それでも、日本製品が採用されたのは品質の高さにほかならないだろう。JR東日本商事によると、初の大型海外案件とも言えるジョグジャカルタ―ソロ間電化プロジェクトへの納入をきっかけに、ジョグジャカルタ空港線の電化についても日本製資材が使われることが想定され、引き続き部材の供給を目指しているという。

インフラ輸出は地道な積み重ねで

先述の通り、インドネシアは今後、鉄道インフラ開発を自国の予算と技術で進めていくことを前提としているため、我が国の円借款のような政府開発援助(ODA)案件は減少していくことが予想される。そんな中、日本の鉄道インフラ関連輸出を進めていくには、このような独自プロジェクトにも積極的に関わっていく必要がある。



ジョグジャカルタ―ソロ間電化工事の様子(筆者撮影)

JR東日本商事によると、ジョグジャカルタ―ソロ間の電化にあたっては、30年以上前の仕様を採用するインドネシア側と日本メーカーの最新仕様の不一致、資材数量の度重なる変更、また短納期の要求による緊急輸送などさまざまな苦労があったそうだ。また、同社はこのプロジェクトを通じてインドネシア側の電化技術の未熟さに気づき、現在は鉄道事業者の商社という点を生かしてJR東日本と連携し、設計、施工、検査、メンテナンスといった電化に必要とされる電車線技術の研修を有償で準備中とのことである。

このような現地の状況に合わせた地道な対応の積み重ねが信頼構築に繋がり、次の受注に繋がるに違いない。今後、観光にますます便利になるジョグジャカルタ近郊の鉄道網であるが、鉄道インフラ輸出という面からも注目していただければと思う。

著者:高木 聡

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