特急列車が遅延したときに、その遅れが2時間以上であれば特急料金が払戻し可能であるとか、寝台特急は寝台を午前6時まで使用できなければ払戻しされるというのは有名な話です。

ところが、このほかにも運転見合わせや遅延が発生したときには様々な取扱いがなされ得るというのをみなさんはご存じでしょうか。

今回は意外と知られていない運行不能時の取扱いをご紹介します。

※この記事でご紹介するのは、普通乗車券で旅行した場合の取扱いです。回数乗車券や定期乗車券、特別企画乗車券(「トクトクきっぷ」)、マル契乗車票(「ぷらっとこだま」など)の場合には異なりますのでご注意ください。



1.運転見合わせ・遅れ/通常通り旅行を続けるとき

これがおそらく最もスタンダードな事象だと思います。列車が運転を見合わせていたり遅れているが、このまま普通に旅行を続けたいとき。

この場合は乗車券の払戻しは受けられませんが、特急券は特急が2時間以上遅れたときには払戻しが受けられます。寝台料金は寝台を午前6時まで使用できなかったときのみの払戻しです。

また、都市の路線で並行する社局線がある場合は、振替輸送が実施されることもあります。ただし、運転を見合わせている場合で不乗区間の運賃と振替輸送区間の運賃とを比較して振替輸送区間の運賃のほうが安くなるときは、3で触れる「不通区間の別途旅行」の制度を利用したほうが得になります。

2.運転見合わせ・特定の遅れ/有効期間の延長

運行不能時や遅延により接続の列車を1時間以上欠くか着駅への到着が2時間以上遅れる場合には有効期間の延長を受けられます。

運行不能時はその日から5日以内で、再び旅行を再開するまでの日数、遅れの場合は1日が付加されます。

なお、このとき乗車券は駅に預けることとされています。

(有効期間の延長)
第283条 第282条第1項の規定により旅客が有効期間の延長の取扱いを請求した場合は、乗車券、自由席特急券、特定特急券、普通急行券及び自由席特別車両券について、次の各号に定めるところにより取り扱う。
(1) 旅客は、有効期間の延長を請求しようとする場合は、あらかじめ、関係の駅に申し出て、当該乗車券類を駅に預けるものとする。この場合、延長する有効期間は、次の期間 とし、この期間を原有効期間に加算したものを当該乗車券類の有効期間とする。
イ 第282条第1項第1号に規定する事由による場合は、当該乗車券類を預けた日か
ら開通後5日以内において旅行を再び開始する日の前日までの日数
ロ  第282条第1項第2号及び同項第3号に規定する事由による場合は、1日
(2) 旅客は、旅行を再び開始する際、乗車券類に有効期間延長の証明を受けたうえ、これを受け取るものとする。
(3) 旅客が、第1号の規定により延長できる期間を原有効期間に加算した有効期間内に再び旅行を開始しないときは、その乗車券類は無効として回収する。

3.運転見合わせ/他経路乗車・不通区間の別途旅行

この扱いは運転見合わせ時に限られ、遅延の場合には受けられません。他経路乗車と不通区間の別途旅行です。

まずは他経路乗車です。これはその名の通り、指定された経路とは異なる経路で旅行を継続することのことで、天王寺から福知山まで、京都・山陰本線経由の乗車券を所持する旅客が山陰本線の運行不能を理由に福知山線経由で乗車する場合などが挙げられます。

このとき、すでに支払った運賃は山陰本線経由で2,640円ですが、実際に乗車した福知山線経由の運賃は2,310円です。すると旅行を終えるときに差額の310円の払戻しを受けられます。

また、反対に福知山線経由で購入していたが福知山線が不通のため山陰本線経由で旅行するという場合、310円安く乗車できることになりますが、このときこの額の収受はありません。

なお、他経路乗車中でも、原券が途中下車できる乗車券の場合は途中下車が可能です。

続いて不通区間の別途旅行です。これは運行不能区間を別途旅行することを条件に、その区間の払戻しを受けられるという制度です。

例えば天王寺から備前片上までの乗車券を使用している旅客が、東海道・山陽本線の運行不能を理由として大阪(梅田)〜(山陽)姫路間を阪神・神戸高速・山陽電鉄線を利用して別途旅行をした場合などがこのケースです。

このとき、乗車しなかったJRの大阪〜姫路間の運賃1,520円が払戻しされます。もちろん別途旅行をした区間の運賃は払わねばなりませんが、大阪梅田から山陽姫路までの運賃は1,300円なのでこの場合は有利になったということになります。

今回のようなケースではおそらく振替輸送が実施されますので、不乗区間の運賃と別途旅行区間の運賃とを比較して、前者のほうが安ければ振替輸送を受け、後者のほうが安ければ別途旅行とするのがオトクです。

(他経路乗車の取扱方)
第285条
第282条第1項の規定による他経路乗車の取扱いは、次の各号の定めるところによる。
(1) 旅客は、その乗車券に表示された着駅と同一目的地(不通区間以遠の駅において途中下車を予定していた場合は、その駅を含む。)に至る他の最短経路による乗車をするこ とができる。ただし、定期乗車券又は普通回数乗車券を使用する旅客は、他の経路による乗車中に途中下車することができない。
(2) 旅客は、次に該当する場合に限って、他の経路を急行列車又は特別車両によって乗車することができる。ただし、のぞみ号等、グランクラス及びプレミアムグリーンにあっては当社が特に認めた場合に限る。
イ 急行列車に乗車した旅客が、列車が運行不能のため、他の経路を急行列車に乗車する場合。ただし、普通急行列車に乗車した旅客は、特別急行列車に乗車することはできない。
ロ 特別車両に乗車した旅客が、列車が運行不能のため、他の経路を特別車両により乗車する場合。この場合、特別車両に乗車できなかったときは、第290条の2の規定により払いもどしの取扱いを受けるものとする。
2 前項の取扱いをする場合は、既に収受した旅客運賃及び料金と実際乗車した区間の普通旅客運賃及び料金とを比較して、過剰額は払いもどしをするものとし、不足額は収受しない。この場合、原乗車券が割引乗車券であるときは、割引条件のいかんにかかわらず、 実際乗車した区間に対する普通旅客運賃をその乗車券に適用した割引率による割引の旅客運賃によって計算する。
3 定期乗車券又は普通回数乗車券を使用する旅客について第1項の取扱いをする場合は、前項の規定にかかわらず、過剰額の払いもどし及び不足額の収受をしない。
4 第1項第1号ただし書の規定により定期乗車券又は普通回数乗車券を使用する旅客が 他経路を乗車中に途中下車した場合は、他経路への分岐駅から下車駅までの区間に対する普通旅客運賃(特別車両に乗車した場合は、特別車両料金を含む。)を収受する。
(不通区間の別途旅行の取扱方)
第287条
第282条の規定により列車の運行不能のため不通となった区間を、旅客が旅客鉄道会社線によらないで別途に旅行し、乗車券の有効期間内に、前途の駅から乗継をするときは、あらかじめ係員に申し出て不乗証明書の交付を受け、不通区間の旅行を終えた後、 乗車券にその証明書を添えて前途の駅に差し出し、その証明書に記載された不乗車区間に対する旅客運賃の払いもどしを請求するものとする。

4.運転見合わせ・特定の遅れ/旅行中止

これまでの3ケースはいずれも着駅まで向かう場合でしたが、今回はそれを諦め、途中で旅行を中止する場合です。

旅行中止は旅客の任意でも行なうことが可能ですが、運行不能による旅行中止(事故中止)のほうが当然旅客に有利です。

例えば東京から博多までの乗車券を所持した旅客が、山陽新幹線の運行不能を理由として新大阪で旅行を中止する場合、不乗区間である新大阪〜博多間の運賃9,790円が払戻しされます。

なお、任意による中止の場合は東京〜博多間の14,080円から既乗区間である東京〜新大阪間の運賃8,910円と手数料220円を差し引いた4,950円が払戻し額となります。

また、特急券などの料金券は、前途の分など使用できなかった分が払戻しされます。

(旅行中止による旅客運賃及び料金の払いもどし)
第282条の2 前条第1項の規定により、旅客が旅行を中止し、乗車券類を駅に差し出して旅客運賃及び料金の払いもどしの請求をした場合は、次の各号に定める額の払いもどしをする。 
(1) 乗車券
旅行中止駅・着駅間に対する旅客運賃。この場合、原乗車券が次のいずれかに該当す るときは、それぞれに定めるところによる。
イ 割引乗車券であるときは、割引条件のいかんにかかわらず、旅行中止駅・着駅間に対する当該割引の旅客運賃とする。
ロ 着駅が第86条及び第87条の規定による特定都区市内及び東京山手線内に関連す
る乗車券であるときは、旅行中止駅・当該中心駅間に対する旅客運賃とする。
ハ 2駅以上を共通の着駅とした乗車券であるときは、旅行中止駅・当該最遠駅間に対
する旅客運賃とする。
 (2) 急行券
当該急行料金の全額。ただし、指定された急行列車(指定急行券以外の急行券又は未 指定特急券の場合は、乗車した急行列車)にその全部又は乗車後その一部を乗車するこ とができなくなったときに限る。
(3) 特別車両券 当該特別車両料金の全額。ただし、指定された特別車両(自由席特別車両券の場合は、
乗車した列車の特別車両)の全部又は乗車後その一部を使用できなくなった場合に限る。
(4) 寝台券
当該寝台料金の全額。ただし、当該寝台券に表示された寝台を、使用開始後6時まで の間に一部区間使用できなくなった場合に限る。
(5) コンパートメント券 当該コンパートメント料金の全額。ただし、指定されたコンパートメント個室車の全部又は乗車後その一部を使用できなくなった場合に限る。 
(6) 座席指定券
当該座席指定料金の全額。ただし、当該座席指定券に表示された座席を使用開始後一 部区間使用できなくなった場合に限る。

5.運転見合わせ・特定の遅れ/無賃送還

私が個人的に最適解と考えるのがこの無賃送還です。これは、発駅まで無賃で戻れるうえ、旅客運賃の払戻しが受けられるという優れものです。

例えば伊勢市から東京経由仙台までの乗車券を所持した旅客が、東北新幹線の運行不能を理由として東京で無賃送還を申出た場合、発駅である伊勢市まで無賃で戻れ、運賃も伊勢市から仙台までの全額が払戻しされます。

なお、途中下車していた場合は発駅までの無賃送還は受けられますが、払戻しは最終の途中下車駅から着駅までの分のみとなります。

例えば先ほどの例で津と名古屋で途中下車していた場合、伊勢市まで無賃で戻れるのは戻れますが、払戻しされるのは最後に途中下車した名古屋から仙台までの運賃のみとなります。

この無賃送還は、いわゆる一周乗車券を使用している場合などに大きな効力を発揮します。

一周乗車券とは、福井から東京へ行く場合に、単純に往復乗車券を買うのではなく、福井〜米原〜東京〜長野〜福井というように経路を重複させずに発駅まで片道で戻ってくる経路の乗車券のことをいいます。

この場合、東海道経由で東京へ行き、東京で途中下車して用事を済ませたのちに北陸新幹線が運行不能となった場合、この無賃送還の制度を利用すれば無賃で東海道経由で福井まで戻れたうえ、東京〜長野〜福井の運賃は払戻しを受けられるということになります。

あるいは、これはあまりよいことではないですが、大阪から福山まで往復する際、大阪から福山の一つ先で運賃の変わらない福塩線備後本庄までの片道乗車券を買っておき、福山で途中下車をしたうえでのちに福塩線が運行不能となった場合、福山〜備後本庄間の150円が払戻されたうえで大阪まで無賃で戻ることができます。

無論そう簡単に運行不能となるわけはありませんが、そうであっても単に福山〜大阪までの乗車券を買って帰るだけですので、損をすることはありません。いわば元手保証で投機をするようなものです。

(無賃送還の取扱方)
第284条 第282条第1項の規定により旅客が無賃送還の取扱いの請求をした場合は、次の各号に定めるところにより取り扱う。
(1) 無賃送還は、その事実が発生した際使用していた乗車券の券片に表示された発駅(当該乗車券が発駅共通のものであるときは、発駅共通区間内の旅客の希望駅)までの区間 (以下「無賃送還区間」という。)を最近の列車(急行列車を除く。)に乗車する場合に 限り取り扱う。ただし、次により無賃送還区間を急行列車、特別車両又はコンパートメント個室車により乗車させることがある。
イ 急行券を使用し乗車していた旅客については、急行列車により、当該急行券の発駅 までの区間。ただし、特別急行券以外の急行券を使用し乗車していた旅客は特別急行 列車に乗車することはできない。
ロ 特別車両券(グランクラス及びプレミアムグリーンに有効な特別車両券を除く。) 又はコンパートメント券を使用し乗車していた旅客については、特別車両(グランク ラス及びプレミアムグリーンを除く。)又はコンパートメント個室車により、当該特 別車両券又はコンパートメント券の発駅までの区間。ただし、乗車する列車に相当の 旅客車がないとき又は満員等により相当の旅客車に乗車できないときは、適宜の旅 客車による。
ハ グランクラスに有効な特別車両券を使用し乗車していた旅客については、グラン クラスにより、当該特別車両券の発駅までの区間。ただし、乗車する列車にグランク ラスがないとき又は満員等によりグランクラスに乗車できないときは、適宜の旅客車による。
ニ プレミアムグリーンに有効な特別車両券を使用し乗車していた旅客については、 プレミアムグリーンにより、当該特別車両券の発駅までの区間。ただし、乗車する列車にプレミアムグリーンがないとき又は満員等によりプレミアムグリーンに乗車で きないときは、適宜の旅客車による。
(2) 前号ただし書の規定にかかわらず、旅客が急行券を既に使用した場合であっても、係 員がその事実を認定したときは、当該急行券の発駅までの区間を、急行列車により乗車 させることがある。ただし、原乗車券の区間において途中下車をしていた場合は、最近 の下車駅までの区間に限る。
(3) 無賃送還は、乗車券の券面に表示された経路によって取り扱うものとする。ただし、 やむを得ない事由によって乗車券に表示された経路により無賃送還の取扱いができないときは、他の経路の列車により乗車させることがある。
(4) 無賃送還中は、途中下車の取扱いをしない。
(5) 旅客が、前各号による乗車を拒んだときは、無賃送還の取扱いをしない。
2 前項の規定により無賃送還を行った場合は、次の各号の定めるところにより旅客運賃 及び料金の払いもどしをする。
(1) 乗車券
イ 発駅まで無賃送還のとき
    すでに収受した旅客運賃の全額
ロ 発駅に至る途中駅まで無賃送還をしたとき又は旅客が無賃送還中の途中駅に下車したとき
(イ) 原乗車券が無割引のものであるときは、途中駅・着駅間に対する無割引の普通旅客運賃
(ロ) 原乗車券が割引のものであるときは、割引条件のいかんにかかわらず、途中駅・ 着駅間に対する当該割引の普通旅客運賃
(ハ) (イ)及び(ロ)の場合、着駅が第 86 条及び第 87 条の規定による特定都区市内及び 東京山手線内に関連する乗車券であるときは、当該中心駅を着駅とし、また、2駅 以上を共通の着駅とした乗車券であるときは、その最遠駅を着駅として計算した 額
ハ イ及びロの場合に、旅客が当該券片を使用して途中下車をしていたとき(ロの場合は、途中駅・着駅間内の駅に途中下車をしていたときに限る。)は、その途中下車駅 (途中下車駅が2駅以上のときは、最終途中下車駅)を途中駅とみなしてロの規定によって計算した額
(2) 急行券
第 282 条の2第2号の規定を準用する。
(3) 特別車両券
第 282 条の2第3号の規定を準用する。
(4) 寝台券
第 282 条の2第4号の規定を準用する。
(5) コンパートメント券
第 282 条の2第5号の規定を準用する。
(6) 座席指定券
第282条の2第6号の規定を準用する。
3 第1項に規定する無賃送還を行った場合、普通回数乗車券を使用する旅客は、当該券片をその後1回に限り、その券面表示事項に従って使用することができる。

よく「特急が2時間以上遅れないと仕方ない」という誤解がありますが、実際には上のように、運行不能や遅延のときにはさまざまな救済措置が用意されています。

本当は事故に遭わず予定通りに旅行を完遂できるのがいちばんですが、もし巻き込まれてしまったときは各々の状況にあった取扱いを請求してみてください。