国鉄ガソリン動車のGP・GPSブレーキ装置

 どんな分野においても注目されるものと注目されないものがあります。

 鉄道という分野にはかなり多くの趣味人がいると思いますし、その中の車両という分野にもそれなりの数の趣味人がいることでしょう。しかし、車両の構造に興味を持つ人となると「車両好き」の中の一部でしょうし、さらに車両構造の中でもブレーキ装置に興味を持つ人となるともっと人数が減ることでしょう。ましてや「国鉄の」「ガソリン動車の」と限定された分野のブレーキ装置という話になると、いくら鉄道好きといっても注目する人はかなり少ないのではないかと思います。

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写真1 表紙

 注目する人が少ないのならそれをやる価値があるだろうと思い、現在写真1のような電子書籍をまとめつつあります。

 

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表2 ガソリン動車用ブレーキ装置

 まず国鉄ガソリン動車のブレーキ装置の種類ですが、表2に記したようなものがあります。この程度しかないと思うか、車種の割に多いと思うか、意見の分かれるところだとは思いますが…。

 現在調べているのは表2中のG1ブレーキ弁についてですが、正直申して難航しています。90年ほど前のことを知ろうというわけですから難航するのは当たり前かもしれませんが、それでも国立国会図書館に蓄積されている情報(その一部ですが)を探すと徐々にわかってきました。さすが国立の情報収集庫だけのことはありますね。

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図3 入換機関車ブレーキ装置

 カギとなったのは、ある文献(鉄道実務者向けの構造解説書)に記されていた「入換ブレーキ弁を改造してハンドルを重なり位置で抜取れるようにしたものがG1ブレーキ弁」という内容でした。「入換ブレーキ弁」と書くと「入換用に使われる各種のブレーキ装置のブレーキ弁のうちのひとつ」程度の意味に思ってしまいますが、国立国会図書館デジタルコレクションに収録されている『標準空気ブレーキ精義』(著作権保護期間満了)に図3のような「入換機関車ブレーキ装置」なるものが記載され、さらにその中に「入換制動(ブレーキ)弁6」が登場します。標準化が好きな国鉄のことですから「入換ブレーキ弁」を何種類も作ることはないと思われ、固有名詞的なものだった可能性が高そうです。

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図4 大形軌道モータカーのブレーキ装置

 「入換ブレーキ弁」なるものは見つかりましたし、その内部の空気経路の概略も図3のごとくわかりました。しかし、G1ブレーキ弁の基となった「入換ブレーキ弁」の内部構造がどうなっているか…国立国会図書館デジタルコレクションを探しても見つかりませんでした。

 半ば暗礁に乗り上げた気持ちでしたが、ある日気分転換(?)のために自宅の本棚を見ていたら、『大形軌道モータカーの構造と取扱』という本が目に留まりました。「軌道モータカーのブレーキ弁ってどうなっているのかな?」と思いつつページをパラパラめくってみると、「入換ブレーキ弁」という単語が目に飛び込んできました。なんと、回り弁と回り弁座に関して掲載されているではありませんか!

 感動に打ち震えつつ(←大げさ)回り弁と回り弁座の組合せ状態を作図してみました。入換機関車用ブレーキ装置の入換ブレーキ弁と全く同じ動作状態になります。

 もちろん、①「G1ブレーキ弁の基となった入換ブレーキ弁」と②「入換機関車ブレーキ装置の入換ブレーキ弁」と③「大形軌道モータカーの入換ブレーキ弁」が同一であると断言はできません。入換ブレーキ弁の形式などが記載されていないため、証拠として今ひとつなのです。しかし、①~③それぞれの「入換ブレーキ弁」の用途と機能、そして登場年代を照合すると1本の糸で…というよりも太い綱でつながっているように感じられます。

 以上、G1ブレーキ弁に関する謎解き状態のご紹介でした。

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参考図5 直通空気ブレーキ概念図

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参考図6 自動空気ブレーキ概念図

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…