【ガソリン輸送】四日市のガソリンを首都圏経由で長野へ!中央西線不通

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大雨の影響により中央西線の不通が続いており、旅客列車とともに石油輸送が長期不通となっています。

8月18日から20日発の3日間、名古屋エリアから首都圏経由で南松本までの迂回列車が運行されています。

2021年8月の大雨被害

2021年8月中旬、秋雨前線の停滞により関東から中国地方にかけての広い範囲で大雨となりました。

鉄道への影響としては、本州の広い範囲で運転見合わせが発生しており、大きな損傷を受けた路線は復旧のため長期不通となっています。

このうちJR東海管内では中央本線古虎渓駅構内・倉本駅~上松駅間・木曽平沢駅~贄川駅間の3か所で土砂流入が発生しており、なかでも設備の損傷が大きかった南木曽駅〜塩尻駅では、復旧まで約1ヶ月(9月中旬の予定)を要することとなりました。

鉄道貨物輸送に頼る長野県の石油事情

道路網の拡充により車扱貨物(コンテナ輸送ではない貨車を用いた輸送体系)が大きく衰退したなか、内陸県向けの石油類の輸送は現代でも大きな力を有します。

国内の石油輸送はタンカーで輸入〜トレーラーで各地に輸送という体系が主力となっていますが、“海無し県”である長野県や群馬県は鉄道貨物での輸送が非常に活発で、最もシェアが大きい長野県下のガソリンの約8割は鉄道貨物輸送が担っています。

単純に重くて嵩張る上に輸送する量も多い石油類は鉄道貨物の得意分野ですが、特に長野県では特有の道路事情もあります。

一方で、陸路では中央自動車道の岐阜県〜長野県の県境にある恵那山トンネルが全長約8.5kmとなっており、可燃性燃料の輸送では使用することが出来ない(5km以上の長大トンネルが規制対象)ため、下道を経由する必要があります。

この区間を迂回するにも、歴史的経緯で高速道路は飯田経由・並行する国道19号線は中央西線と同様に南木曽・木曽福島など木曽山脈を隔てた反対側を通っており、中津川から塩尻まで高速道路を使用しない経路を選定する格好で、非常に効率が悪いものとなります。そのため、自動車による輸送が特に不利な経路です。

公益社団法人鉄道貨物協会発行の貨物時刻表を広げてみると、長野県内のガソリンは根岸・四日市から南松本・坂城へ発送されていることが読み取れます。運行本数で比較すると根岸2:四日市1程度です(需給に応じて運行される臨時列車の割合・列車ごとの編成長=輸送量の変化も大きく、一概には比較出来ない)。

直線距離としては四日市の方が有利なものの、輸送経路に非電化・単線・名古屋周辺の過密地帯を通過するダイヤ選定や輸送コストといった国鉄〜JR貨物側の都合、これらの情勢の変化に合わせた石油元売・輸送会社の設備投資の変化が重なり、現在のバランスに落ち着いているものとみられます。

長野県のこれらの地理的な要因から、現在も特急あずさ号・しなの号といった高頻度運行の特急列車の合間を縫って石油輸送が実施されています。

東海道・中央東線経由で輸送

今回の迂回輸送は、四日市から稲沢経由で中央本線を走行するところ、東海道本線を東進し新鶴見・八王子を経由して長野まで運行されています。JR貨物の発表では今回の“迂回貨物”について、記事公開日現在で3列車とされています。

今回迂回された3列車は、運転見合わせ前にタンク車への積み込み作業を終えていた列車分と考えることが自然です。

石油輸送は原材料が輸入に頼るものであり、必ずしも四日市から輸送する必要はありません。

需給によっては再び運行される可能性こそ否定できませんが、一般に冬場の方が需要が大きいとされる物資で、夏場の増産自体は能力としては対応可能であることが想像できます。

災害に負けず戦う姿は鉄道ファンにとっては心を動かされるところですが、2014年にも同様の事例を根岸からの発送で対応しており、再開まで日常的に運行されることはなさそうです。

復活を遂げる鉄道貨物輸送

2014年の長期不通の事例では、増発された臨時貨物列車に中央東線から撤退したEF64形1000番台が復活して注目されました。

今回も長期化が発表されており、次は機関車の采配でファンの注目を浴びるかもしれません。

旅客輸送各社が苦しむなか、モーダルシフトの推進・トラックドライバー不足などの社会的背景を受けてJR貨物は着実に成果を上げています。

最近ではEH500形の日本海側での運用・EH200形の中央西線での運用を目指したものとみられる試験も行われており、今後も災害時の輸送を確保する取り組みは続きそうです。

このほか、国鉄から継承した機関車の置き換えが近年加速しているほか、長年に渡り試験が続けられていた低床コンテナ貨車コキ73形(大型背高コンテナを運ぶため、低床構造貨車の試験車)の試験も本格化するなど、着実に進化を続けています。

国鉄時代に大きくシェアを落とした鉄道貨物輸送の復活劇、引き続き目が離せません。

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