【天災で大忙し】全国各地の天候不良で戦う鉄道マン・ウーマンの皆様。お疲れ様です。

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全国各地で大雨による被害が続く日本列島。鉄道事業者の職員は、それぞれの部署ごとに異なる方面の課題と戦っています。

様々な災害の最中で闘う全国の鉄道マンを勝手に労うべく、大規模な輸送障害時に鉄道事業者で発生している動きをお伝えします。

最初に悩まされる指令(司令)

利用者・ファン目線で一番想像のつくところは、指令員(事業者によっては司令)の運休判断でしょうか。

鉄道では雨量規制が存在します。これは、築堤部分の法面(のり面)崩落や、切り通し部分の土砂流入などの地盤が緩むことによる災害を未然に防ぐためのものです。

短時間の規制量・累積の規制量を設けており、長年に渡り気象関連の事業と連携して予測精度向上の研究が進められています。

最近の事例では、京急1500形1701編成が廃車となった脱線事故が知られています。土砂崩れや線路陥没はひとたび発生してしまうと重大な事故を引き起こします。

2019年には北陸新幹線の長野新幹線車両センターの冠水が発生して大きな注目を浴びる格好となりますが、こちらについても対策が進められています。

設備の一部は復旧時に嵩上げが実施されたほか、周辺河川の数値から車両の避難を実施するか否かを判断するシステムの構築・実際に車両を避難させる訓練も実施されていました。

2021年8月の大雨では、事前に新幹線車両・保線機械を各地に“疎開”することとなっています。保線機械は最寄りの高架上の拠点へ・新幹線車両は管内各地へ“疎開”されており、夏休み期間の仙台駅に現れて利用者の注目を集める格好となりました。

このほか、同時に課題となることが多いのは強風です。

自動車免許をお持ちの方であれば、横風が強いとハンドルを持っていかれる……という怖い思いをした方も多いと思いますが、車体が大きい鉄道においても風は天敵です。

1986年の山陰本線余部鉄橋の脱線事故・2004年の羽越本線列車脱線事故など、列車が横転することで一度発生すると甚大な被害をもたらすため、風速計や防風柵の設置など、長年に渡り対策が行われています。

特に2004年の脱線事故を発生させたJR東日本では現在まで他の事業者より運転見合わせの基準が強化されており、これにより台風などの風が強い天候では“すぐ止める”こととなります。人類とは安直なもので、首都圏のJRはすぐ止まる……と感じてしまいますが、過去の事故の教訓に基づいた対策強化です。

中長期的には武蔵野線・京葉線など風の影響を受けやすい路線に防風柵を強化したことで、規制値が厳しく設定されていてもなるべく運転出来るように工事を行い、10年以上の歳月を経て“すぐ止まる”という汚名も返上しています。

長年の努力により少しずつ災害に強い鉄道網が築かれていますが、どこまで走らせていつ運転見合わせとするのかは、指令員の腕の見せどころであることには変わりありません。

車両部門も大混乱

車両についてもとりあえず最寄りの留置線に置いておけばいいや……となる場合とそうでない場合があります。

これは、鉄道車両には数日に一度“仕業検査”を実施する必要があり、頻度が多い新幹線や機関車などで72時間以内・最近のメンテナンス性能が向上した車両でも概ね6日以内に所属する車両基地や出先でも同様の検査が可能な拠点に戻さなければなりません。

特に天候理由の運転見合わせは、事前の予想に反して思わぬ場所で突如運転を見合わせる事例があります。

再開後にどの車両をどこへ持っていくかを考える必要がありますが、年単位で復旧に時間がかかるような長期不通では、陸送(トレーラーでの輸送)により立ち往生した車両を所属基地へ戻す動きもあります。

2011年には身延線が長期不通となり、運転再開出来た山梨県内へ車両を送り込み・返却して検査を回すため、JR東海の313系や373系が中央東線・西線を経由して静岡へ出入りする回送列車が仕立てられました。

JR東日本の長野支社所属の乗務員が甲府駅〜塩尻駅間の乗務・313系の乗務をどちらも可能であったことで成し得た珍しい事例で、乗務経験がないワイドビューふじかわ号の373系については、313系でサンドイッチする編成で対処しています。

運転再開時期を見極めつつ、再開後の旅客への影響を最小限に留めるべく、短時間で確実な車両運用を柔軟に組み立てる関係者の努力により、「通常通り」が成り立っていることは忘れてはなりません。

なんとかして帰路を確保したい

所属区所に戻さなければならないのは車両だけではありません。運転士・車掌も所属基地へ戻す必要が生じます。

国鉄系などを中心に、車両運用をA運用・運転士の運用をB運用・車掌の運用をC運用と呼ぶ事業者が多いように、乗務員の乗務行路も1つの運用であり、大きな輸送障害が生じればこれの組み直しは必須です。

鉄道業界では突発的な輸送障害により勤務スケジュールが大きく変更となること自体は時々発生します。大きいダイヤ乱れとなれば、列車の折り返しや運休などの変更に合わせて宿泊地や乗務路線までもが変更となる場合も存在します。

こういったイレギュラーに対応するため、大きい事業者では“予備交番”を設けている会社や、中小事業者であれば役職者が乗務出来る体制を組んでいる事例などもあります。

もちろん業種柄こういったトラブルに遭うことは各々想定内とはいえ、長期不通となれば、あらゆる手段を使って乗務員を所属する拠点に戻す手段を模索します。

会社としても特定の乗務員の超勤(いわゆる残業)が多くなること・休日の買い取りなどが増えることは避けたいところです。個々人としても、本来の退勤時間を過ぎても出先で拘留状態となることは勘弁して欲しいところです。

まずは他路線・他社線を使用した代替経路を模索します。日常的に他社列車便乗が見られるのはJR貨物くらいですが、輸送障害時は意外と多くの路線で見られる光景です。

途中駅のように身動きが取れない場所であれば、手段を鉄道に限らずタクシーや社用車を出してでも帰らせる必要があります。

そしてこれらの調整が大変なのは、長距離列車が挙げられます。特に運転士に比べて乗り通しが多い在来線特急の車掌は帰区するまでの移動距離が長く、代替経路が相当な遠回りとなる事例も珍しくありません。

新幹線不通・在来線は運行という事例は設備の違いからあまり見られないものの、在来線が不通であれば新幹線で移動する動きは比較的多くの輸送障害で見られます。

現在運行されている寝台特急サンライズ出雲・瀬戸では近年、通常の特急列車同様に区間を分けて会社・区間ごとに乗り継ぐ体制に改められましたが、それ以前・過去のブルートレインなどは、多くの場合は車掌が乗り通しが基本となっていました。この時代には便乗の移動距離も膨大なものとなります。

JR各社では在来線の定期行路に自社の新幹線便乗を取り入れている運輸区所が複数存在しますが、天候ゆえの輸送障害であればそれ以外の乗務員区所も同様の対応を選択することとなります。

会社が異なる東京〜熱海間・米原〜新大阪間・新下関〜博多間など並行している区間のほか、中央西線不通時の塩尻〜長野〜東京〜名古屋〜中津川のような、通常では有り得ないような経路を使ってでも乗務員を戻す経路を模索することとなります。

それすら困難であれば移動手段は飛行機も選択肢に含まれますが、大規模な震災のように陸路が全て絶たれた場合の最終手段の印象です。

この動きはパーサー・アテンダントと呼ばれる客室乗務員職も同様です。車内販売のワゴンや商品などは追々回収するとして、まずは人員の帰路模索を優先します。宿泊行路・設備が運転士・車掌に比べて少ないため、日跨ぎであれば沿線のホテルを手配する必要も生じます。

こういった天災起因の輸送障害は再開の目処の予想も難しく、思わぬ格好で振り回されて疲労困憊……といったハズレくじを引かされる乗務員さんも少なくありません。逆に、待機するだけで勤務が終了して楽になるパターンもありますが、運に身を委ねるしかありません。

長時間の不通のトラブルに見舞われたとき、もしお疲れの様子の乗務員さんを見かけたら、労うくらいの心の余裕を持ちたいものです。

実際に線路が支障すると保線・信通が大忙し

天災の影響を長期間受ける部署は、一般に広く“保線”と呼ばれる、設備系の職員です。

大雨で運転見合わせとなれば再開前の点検作業を行う必要が生じるため、天候不良が見込まれる場合は増員体制で災害に備えています。そして、損傷があれば、昼夜を問わず復旧作業が進められ、1日も早い運転再開に向けた作業が続けられます。

ひとたび設備の損傷が発生すれば、管内の拠点から一斉に作業車・作業員が現場に急行します。

線路自体は一見無事でも、電気回路が水没してしまえば電気・信号通信系の職員が苦労するなど、損傷の内容によりどの部門がどれくらい影響が起きるかは事前に読むことは出来ません。

これらの部門は最近では鉄道事業者が災害時の被害状況やその後の進行状況をホームページやSNSなどでアナウンスしている事例も増えており、大変な作業を短期間で進めている技術力の高さが少しずつ認知され始めた印象です。

損傷の種類・規模により対応がまちまちですが、路盤や橋脚の流失などの大規模なものとなると、数ヶ月から年単位となります。

特に最近では、深夜時間帯の利用者減少に関連して減便が行われた2021年のダイヤ改正に関連して、“働き方改革”の一環で深夜作業が多い保守部門が注目されています。

しかし、ファン層とてなかなか注目する方が多くないのも実状です。高度な専門技術と前提知識を求められる分野でありながら、労働環境から人手不足に悩まされている業種です。

運輸部門出身の筆者も、巨大インフラを維持する第一線は彼らが主役だと考えています。今後も鉄道を支える主役が保線・信通を支える職員であることを積極的に広報してほしいところです。

旅客は“迂回”出来るものの……

鉄道路線が長期不通となれば、旅客は振替輸送などの代替手段を使用します。一方で貨物列車では、当然ながら貨物自体が自主的に迂回してくれるわけではありませんので、迂回経路での輸送を確保する必要が生じます。

2011年の東日本大震災・2019年の岡山広島豪雨では、それぞれ磐越西線や山陰本線など貨物列車をしばらく運転していなかった路線に走らせたことで話題となりました。

それ以外の事例でも、通常の営業経路を増発する格好で代替路を確保しています。

特に近年では、従来の保有機の運行範囲を広げる「リダンダンシー確保」に力を入れており、最近では東北本線を中心に活躍していたEH500形“金太郎”の上越線・日本海縦貫線での試運転や、EH200形“Blue Thunder”の中央西線入線試験などが実施されています。

JR貨物としては中期経営計画で示しているように、今後もさらにこれらの動きは加速しそうです。これらについては別記事で細かく記していますので、ぜひご覧いただければと思います。

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