新幹線駅なくても超便利、奈良県ご当地鉄道事情 歴史ロマン香る奈良盆地に近鉄・JRの路線網が充実!

 
 全国47都道府県、たいていのところには新幹線の駅か空港がある。おかげで、東京や大阪といった大都市ともほぼ直接結ばれていて、逆から見れば全国どこにでも簡単に行ける、というわけだ。つまり都市部の通勤電車などを除けば、わが国の公共交通ネットワークはほとんどが新幹線と飛行機によって担われているといっていい。
 
ところが、である。悲しいことに47都道府県のすべてに新幹線駅と空港があるというわけではないのだ。新幹線は通っているところが限られるから仕方がないが、空港なら47都道府県、せめて最低1つずつはあってもいいような気もする。しかし、47分の4、4つの県には新幹線駅も空港もない。
 

■まずは京都と奈良を結ぶ2路線  その4つの県とは、山梨・三重・福井・奈良(いちおう福井県には福井空港があるが、今は定期便が飛んでいない)。今回はこの4県のうち、奈良県の鉄道を旅してみようと思う。  奈良県(に限らずほかの3県もだが)は新幹線も空港もないとはいえ、必ずしもアクセスが不便というわけではない。それはなぜか。隣接する府県に大ターミナルがあるからだ。新幹線の「のぞみ」が停まる京都駅と新大阪駅だ。このうち京都駅からは2本の路線が奈良県に向かう。JR奈良線と近鉄京都線、まずはどちらに乗るべきか。

 途中でどこを通るかを考慮しなければ、どちらを選んでもとくに大きな違いはない。どちらも奈良県の県庁所在地にして最大の都市である奈良市に向かう。ならば、鉄道ネットワークの中心は元国鉄、すなわちJRにあるという基本に従って、JR奈良線に乗ることにしよう。  奈良線はおおむね木津川の東側を南に走り、本来は京都府最南端の駅、木津駅を終点とする(なので奈良県に入らない奈良線、なのだ)。が、それではあまりに不便なので、関西本線(大和路線)に乗り入れて奈良駅まで向かっている。

奈良盆地内の鉄道概略図・近鉄線とJR線

 この奈良線の看板列車は“みやこ路快速”である。みやこ路、つまり2つの古都を相互に結ぶ快速列車。京都―奈良間の所要時間は約45分だ。これが長いか短いか。東京だったら45分の通勤時間などざらにある。だから2つの古都は以外に近いといっていい。

では、ライバルの近鉄京都線ではどうか。東京方面から奈良を訪れる人は、だいたい京都駅から近鉄京都線に乗り換えるという。京都駅の新幹線の改札口を出るとすぐ目の前に近鉄の乗り場があるから乗り換えが便利だというのもあるだろう。近鉄には特急があるから、というのも理由になりそうだ。

近鉄奈良駅は有名観光地に近い  全席指定で特急料金が必要だが、近鉄特急に乗れば京都―近鉄奈良間は約35分。奈良線のみやこ路快速に対して10分のアドバンテージがある。その上、近鉄奈良駅はJRの奈良駅に比べて奈良の中心地に近い。東大寺や奈良公園といった名所旧跡を巡る旅をするならば、近鉄奈良駅のほうが便利なのだ。  ただ、こうした事情だけをもって、近鉄京都線がJR奈良線より圧倒的に有利かというとそうではない。京都駅を発する近鉄特急はすべてが近鉄奈良駅に行くわけではなく、橿原神宮前ゆきの列車も多い。となると、奈良市内が目的地だったら大和西大寺駅で乗り換えねばならぬ。それは少々不便である。

 それに、近鉄奈良駅が奈良の中心市街地に近いといってもその差は微々たるものだ。それほど胸を張って「近鉄が上なんだ」というほどのことはない。近鉄京都線とJR奈良線、その差はほとんどないのである。  とはいえ、実際に地元に住んでいる人に話を聞いてみると、近鉄優位は揺るがない。むろん、JRのほうが便利だという人もそれなりにいるだろうが、奈良県においては近鉄の存在感は圧倒的だ。それはなぜなのか。

 

 答えはシンプルで、奈良県内の(といっても鉄道が通っているのは県北部の奈良盆地内にほとんど限定されているのだが)鉄道ネットワークは大部分が近鉄によって構成されているからである。

近鉄奈良線には阪神電車と近鉄鉄は神戸まで直通運転している!

 近鉄京都線は京都と奈良を結ぶ。そして大和西大寺駅を奈良盆地北部の要衝として、近鉄奈良線が大阪は難波と奈良を結び、南に降りる橿原線は大和八木・橿原神宮前という奈良盆地南部の要衝を抱える重要路線。大和八木駅では近鉄大阪線と接続しており、大阪はもちろん遠く伊勢志摩、名古屋までも結ばれる。  橿原神宮前駅ではこれまた近鉄南大阪線と吉野線と乗り換えられる。大部分が標準軌(レールの幅が1435mm、新幹線と同じだ)の近鉄の路線において、南大阪線や吉野線は狭軌(レール幅1067mm、こちらはJRの在来線と同じだ)。つまり近鉄の中では異端児といえる立場だが、存在感は大きい。

 何しろ、大阪方の起点は大阪阿倍野橋、つまりあべのハルカスのふもとにある。地上60階、高さは実に300mの日本一高いビル。東の東武がスカイツリーだとすれば、西の近鉄はあべのハルカスがシンボルだ。 ■奈良盆地は“近鉄ワンダーランド”  と、あべのハルカスについては本題とは逸れるのでこれくらいにしておくが、とにかく近鉄は3路線(けいはんな線という路線もあるがこれこそ異端児なので脇においておく)が奈良と大阪を結び、京都線が奈良と京都を結び、そして大阪線は奈良と三重の伊勢志摩・名古屋までを結んでいるのだ。

 

そしてこれらの主要路線の合間を縫うようにして、近鉄のローカル線が奈良盆地の中をゆく。たとえば田原本線、たとえば天理線、たとえば生駒線、たとえば御所線。

 すなわち、奈良盆地内と、その外を結ぶネットワークのほとんどを近鉄がカバーしているということだ。近鉄と聞けば大阪の通勤電車、というイメージを持っている人も少なくなかろう。また、「ひのとり」や「しまかぜ」といった近鉄特急もよく知られる。

 近鉄大阪線を走る近鉄特急「しまかぜ」

近鉄大阪線を走る近鉄特急「ひのとり」

近鉄特急の世界においては、奈良県内はほとんど通過するのみだと思われてしまうかもしれぬ。だが、むしろ奈良こそがめくるめく近鉄ワールドなのだ。  奈良県、奈良盆地を近鉄ワンダーランドにした決定的なポイントは、京都もそうだがむしろ大阪との連絡の充実にあるといっていい。奈良に都があった時代(平城京、そしてそれ以前の古代ヤマト王権の時代を含む)から、周囲を山に囲まれた奈良盆地はいかにして海のある難波に出るかが問題だった。

生駒山の頂上が奈良盆地と大阪平野の県境です、写真は奈良盆地側からの撮影、標高642m!山頂にはTV送信アンテナが林立!

 奈良盆地と大阪平野の間には、ご存じ生駒山地が横たわる。それほど高い山というわけではないが、急峻が故にその往来は困難を極めた。今でこそ、阪奈道路が2本通ってトンネルで貫いているが、徒歩で山を越えねばならぬ時代は艱難辛苦。急勾配が苦手な鉄道の時代になっても大きな障壁だった。  そこで鉄路は生駒山地を少しでも迂回すべく、1889~1892年にかけて、現在の関西本線(大和路線)が湊町(現・JR難波)―奈良間を開通させているが、生駒山地の南側、大和川に沿ったルートをとっている。そしてこの南側のルートは、近鉄大阪線と近鉄南大阪線も採用。つまり、勾配を極力避けようとすれば、必然的にこのルートになったということだろう。

それに対して、近鉄奈良線は生駒山地をズバッとトンネルで抜けるという荒業を実現している。関西本線はぐるりと南側を迂回するおかげで距離も時間も分が悪い。ところが近鉄奈良線はトンネルで生駒山地を貫いたおかげで、ほとんど直線的に奈良と大阪を結ぶことに成功したのだ。1914年に開業するや、たちどころに奈良・大阪連絡の主役に躍り出た。

 

 大阪線や南大阪線とともに生駒山地の南部を迂回する関西本線はJR発足以降に“大和路線”として通勤路線化が著しい。こちらの看板列車は「大和路快速」。

JR大和路線の王寺駅に入線する「大和路快速」

2019年からはおおさか東線の新大阪延伸に合わせて奈良―久宝寺―放出―新大阪間の直通列車の運行もはじまった。

大和路線の亀の瀬渓谷を通過し、三郷町駅を走り抜ける「臨時特急まほろば」

限定的ではあるが、臨時特急「まほろば」も運転される。

 

 生駒山地の北側を迂回するJR路線には学研都市線がある。学研都市線は正しくは片町線といい、長らくローカル色が強い路線だったが、1997年に大阪中心部にJR東西線が開通すると直通運転を開始して急成長を遂げた。  が、この路線も木津駅発着で実際には奈良県内はまったく走っていない。通勤時間帯に一部の列車が奈良駅から出発しているだけである。このあたり、やはり生駒山地を貫く近鉄とは埋めがたい差があるということなのか。

 

かように、奈良県内の鉄道は県北端の奈良盆地において近鉄がワンダーランドを展開し、対抗するようにJRのネットワークも勝負を挑む。結果、それが実に充実した鉄道網につながっているといっていい。新幹線も空港もない山に囲まれた奈良県だが、不便さを感じないのはこうした事情によるものなのだ。さすが、古都、日本のふるさと。どこに行っても柿の葉すしも買えますからね。

 ところで、奈良県は奈良市をはじめ北端の奈良盆地に人口重心が偏りすぎている県である。南部は険しい紀伊山地が横たわる鉄道不毛の地。人口も少なく、これから鉄道が通る可能性もほとんどないだろう。だから、鉄道の旅に限定すると奈良県南部を知る機会はほとんど得られない。法隆寺の近くに住む私は交通の不便を感じた事はありません

 

by  GIG@NET

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