その9(№5560.)から続く

今回は東京の港湾部に登場したAGTを取り上げます。
その路線とは「東京臨海新交通臨海線」。運営会社は東京都などが出資した第三セクターである「東京臨海新交通株式会社」。そんな名前聞いたことないぞ、と仰るあなた。それも当たり前です。だってそもそも、この路線を正式名称で呼ぶ人など誰もいませんから。長ったらしいのは勿論ですが、「東京臨海高速鉄道りんかい線」(埼京線が乗り入れる路線です)とも紛らわしいから。
こちらの「東京臨海新交通臨海線」とは、新橋と豊洲を結ぶ「ゆりかもめ」のこと。
ちなみに、運営会社の「東京臨海新交通株式会社」は、平成10(1998)年に「株式会社ゆりかもめ」と屋号を変更しています(以下では、単に「ゆりかもめ」というときは、路線としての名称を意味するものとする)。

「ゆりかもめ」は、当時東京都にあった「臨海副都心構想」の一環として、お台場などの臨海地区へのアクセス路線として計画され、平成7(1995)年11月に、新橋-有明間が開業しました。開業当初の新橋駅は仮駅で、現在より100メートルほどずれた場所にありました(平成13(2001)年3月22日に現在の駅設備が開業し本設化)。また、都営大江戸線と後に接続することになる汐留駅は、開業当時は駅設備だけ作られて未開業(全列車通過)の措置が取られています。これは汐留駅周辺が当時再開発工事の最中で、アクセスする道路がなかったための措置で、この路線の開業の5年後に全線開業した都営大江戸線も、汐留駅の設備だけ作って未開業の状態とされました。両者の汐留駅が晴れて開業したのは、平成14(2002)年11月2日のことです。

「ゆりかもめ」が平成7年の開業となったのは、翌年に「世界都市博覧会」(都市博)が臨海地区をメイン会場として開催される予定となっていて、「ゆりかもめ」がそのメイン会場へのアクセス路線として活用される計画があったことが理由でした。
しかし、「ゆりかもめ」開業と同じ年に東京都知事選挙が実施され、この選挙に「都市博中止」を公約にした候補者が出馬し、当選してしまいます。その候補者こそ、タレント政治家として名を馳せた、あの青島幸男なのですが、彼は都知事に就任すると、都市博中止を実行してしまいました。この「都市博中止」は、現在につながる「税金の無駄遣い論」や「公共事業悪玉論」と同根の発想ですが、確かに税金の支出は抑えられたものの、これによって中小の建設業者の倒産など、負の影響も少なからずあったということです。ちなみに都知事としての青島は、さしたる業績を残すことができず、僅か1期4年で退任してしまいました。これは青島の能力以前の問題として、当時の都議会がオール野党であったために、都政が円滑に進まなかったという、不運な要因があったことも確かです(※①)。
さて、このように都市博中止が決定してしまったことで、「ゆりかもめ」の利用状況が心配されることとなりました。一説には「年間40億円の赤字を出すのでは」とまで言われたほどです。
しかし、そのような関係者の心配も何のその、「ゆりかもめ」は開業以来、順調に乗客数をキープし続けます。その要因は、沿線にある多数のオフィスビルやマンションの通勤需要及び沿線にある多くの観光施設へのアクセス需要があったこと、そして「ゆりかもめ」がレインボーブリッジを渡るところなどから、路線としての「ゆりかもめ」そのものが観光資源として注目されたことなどです。

「ゆりかもめ」に用意された車両は7000系。電気方式は三相交流600Vですが、当初はサイリスタ制御・直流電動機とされました。平成11(1999)年度の導入編成から、VVVFインバーター制御・交流誘導電動機にモデルチェンジされ、こちらは車号が「72XX」となっていることから、オリジナルの7000系とは区別する意味で「7200系」と呼ばれることがあります(ゆりかもめの車両は、百の位と十の位で編成番号を、一の位で号車を表す。オリジナル7000系の最終編成・第18編成の車号が718Xだが、制御装置等を変更した編成の車号は719Xとはならず、721Xとなったため)。ちなみに、何故「7000」なる車号が選択されたかというと、これは「臨海副都心が7番目の副都心だから」という理由だそうです。

路線としての「ゆりかもめ」は、平成18(2006)年に有明-豊洲間が延伸され、「市場前」なる駅も開業、市場の築地から豊洲への移転に備えます。市場の移転自体は平成13(2001)年に決定しており、市場前駅の開設はそれを見据えたものだったのですが、豊洲への移転は遅れに遅れ、紆余曲折の末、実際に移転したのは平成30(2018)年の秋。これについても管理人は言いたいことが山ほどありますが、ここでは止めておきます(※②)。
このときに所要となる車両数が増加することから、車両が増備されますが、このときは7200系を追加投入しました。

その後、開業以来活躍してきた7000系の置き換えの動きが出始めます。代替車として投入されたのは7300系。この車両は、7000・7200系の客用扉が片開きだったものを両開きに変更し、さらに7000・7200系にはあったクロスシートをなくして全てロングシートとしています。全席ロングシート化は言うまでもなく、混雑緩和対策。そして勿論、VVVFインバーター制御となりました。また定員増加に伴う重量増を吸収するためか、7000・7200系がステンレスの車体だったのに対し、こちらはアルミ製とされました。
この7300系は最初の編成が平成25(2013)年に登場、その3年後までに実に18編成108両を導入し、開業当初の7000系を全て置き換えています。
さらに7200系の置き換えをターゲットにした車両が登場、こちらは車号が「75XX」とされたことから、7300系と区別して7500系といわれることがあります。
7200系は昨年10月までに全編成が7500系と入れ替わる形で退役し、現在ゆりかもめの車両は7300・7500系で統一されています。

ところで、「ゆりかもめ」の現在の終点・豊洲駅の先を見ると、豊洲交差点の真上で晴海通りに向かって右にカーブを描いていますが、あれは実は延伸を想定した構造だといわれることがあります。
実際に延伸計画も取りざたされているようで、具体的には勝どき方面への延伸が考えられていたようですが、今のところ動きはありません。その理由は、晴海地区へのLRT・BRTの整備計画と、臨海部への地下鉄構想という、全く異なる公共交通網の整備計画が浮上してきたから。
実際、平成28年度に出された交通政策審議会の答申でも、「ゆりかもめ」の延伸については、何ら言及がありません。
管理人は、都営バス「門19」のルートに沿って、門前仲町まで延ばせばいいと思いますが、地下鉄「豊住線」の計画が具体化した今となっては、こちらも望み薄でしょう。

次回は、東京にあるもうひとつのAGT、そして現時点で最新となるAGT路線を取り上げます。この路線は、東京23区北部の鉄道空白地帯を埋める役割を負っていました。

その11(№5574.)へ続く
 

【お願い】

※①の世界都市博中止と当時の都知事青島幸男氏の都政にまつわる話題、※②の豊洲市場移転問題とその顛末にまつわる話題に関しては、コメントをご遠慮ください。