交通新聞社では、同社の発行する「小型全国時刻表」について、今月発売の2021年8月号をもって休刊することを発表しました。

『小型全国時刻表』休刊のお知らせ|交通新聞社
『小型全国時刻表』は前身の『総合時間表』発売以来、60年以上の長きにわたり、皆さま のご支持をいただきながら発行してまいりましたが、このたび諸般の事情により、2021年8月号の発売をもちまして休刊させていただくこととなりました。
(上記発表資料(https://www.kotsu.co.jp/information/files/pdf/0703cc8c607bcb056a98ecf29d9e025896c97011.pdf)より引用)

交通新聞社の小型全国時刻表、8月号で休刊に - 鉄道コム
『小型全国時刻表』が休刊。ハンディタイプの全国時刻表が姿消す | タビリス
交通新聞社、「小型全国時刻表」と「高速バス時刻表」を休刊 - TRAICY(トライシー)
「小型全国時刻表」、今月号をもって休刊に | 鉄道プレス


今回休刊となる「小型全国時刻表」は、上記引用のとおり、1960年の「総合時間表」から通算して61年の歴史を有する時刻表でありました。
B6変形版というサイズは、現在発売されている全国版時刻表では最小サイズで、一部線区の駅は割愛されているとはいえ、JR線全線区が掲載されているコンパクトな時刻表として親しまれてきました。

しかし、今月号をもって休刊することなので、私も休刊前の最終号を購入してみました。

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最終号のデザインはご覧のとおり、「総合時間表」創刊号を現在版に復刻したものとなっており、中央には当時最新鋭の特急型電車「151系」がデザインされたものとなっています。

最終号であるのと、この復刻デザインが目当てだからなのか、書店でもかなり残部数が減っているように見受けられました。
ほどなく売り切れも予想されるので、購入される方は早めに書店等で手に入れた方がよいかと思われます。





さて、今回休刊した「小型全国時刻表」は、休刊の理由を「諸般の事情」としています。
とはいえ、時刻表を取り巻く環境は従前より厳しいものが続いているのは周知のところであります。

その理由としては、インターネット技術の進展により、鉄道の時刻を調べることが容易になってきたことが大きな原因といえるでしょう。

特にスマートフォンが普及し、それに合わせて時刻検索のアプリも日進月歩の発展を遂げてきた現在、紙媒体の時刻表をパラパラめくってあちこちの路線の時刻を調べて、乗換ルートを考える、という作業から多くの人が解放されました。
その反面、時刻表を必要とする機会が大幅に減り、発売部数も大幅に減っていることは、想像に難くないことでしょう。

では、現在時刻表はどの程度発売されているのでしょうか。
参考となる記事を見つけましたので、適宜引用したいと思います。
紙の「時刻表」が今も月5万部も売れている理由…スマホ検索が絶対に勝てない点とは?

上記記事では、現在の時刻表の販売実態や展望について、鉄道ライターの枝久保達也氏へのインタビューした記事を記しています。
この中で、時刻表の販売部巣について触れている箇所がありました。

「JTB時刻表」の発行部数は、最盛期(86年3月)には200万部を超えていたという。それが、スマホなどの登場で年々減少。「JR時刻表」の方は10年前の発行部数は約12万部だが、現在は約5万部となっている。
(引用元:https://biz-journal.jp/2021/01/post_205055.html、下線及び太字は管理人による。)


昭和末期に200万部規模(JTB時刻表)で売れていた時刻表が、現在は5万部規模と、単純比較では40分の1に落ち込んでいるという、これまた驚異の落ち込みであります。
しかし、10年前の時点で12万部で、更に10年後にはその半分と、落ち込むところまで落ち込んでいる、と言わざるを得ないでしょう。

とはいえ、逆に言えば雑誌不況のなか、また乗換案内のスマホアプリがこれだけ普及した現在であっても、月5万部(年間60万部)も売れているのは、意外といえば意外かも知れません。


では、今後、乗換案内のスマホアプリから、「MaaS」と称されるシームレスな交通サービスでストレスなく公共交通が使える時代がやってくれば、時刻表もその役割を終えるときが来るのか、といわれると、それもまた極端な予想なのかな、とも思います。

時刻表の将来について、上記記事では以下の様に枝久保氏は述べています。
「時刻表は、ある時期の鉄道のダイヤが記録された“データベース”です。対して、一般の人が必要としているのは、どの列車に乗ればいいかという“データ”です。かつて、一般の利用者は、やむを得ずデータベースからデータを探していたわけですが、運転間隔や追い抜きなど運行ダイヤそのものを俯瞰的に見る、つまりデータベース自体を把握したい人にとっては時刻表が必須です。また、統一フォーマットで記録されてきた時刻表は過去との比較も容易なのです」
(引用元:https://biz-journal.jp/2021/01/post_205055_2.html


鉄道の時刻を「データ」として一覧として把握できるツールとしては、スマホアプリやMaaSがどれだけ発達しようと、時刻表に勝るものにはなり得ない、という意見であります。
このあたりは、個人的にも同感するところで、列車の時刻全体を俯瞰し、最適な乗換ルートを探し出すには、やはり一覧性に富んだ媒体が必要であり、それが可能なのは、「紙」という媒体でしかない、と思えます。

似たような話は、紙媒体の「地図」でも同じようなことがいえるのかも知れません。
こちらも、スマホアプリに加え、カーナビの普及により、紙の地図を利用する機会はぐっと減ったかも知れません。
一方で、地形の全体を把握するためには、引き続き紙という媒体に勝るものがなく、その結果、現在でも書店の一角に道路地図や地形図が、現在でも販売され続けていますが、それと同様なことが「時刻表」でもいえるのではないかと思います。


閑話休題、その鉄道の時刻に関して「一覧性を求める需要」が、今後どの程度で落ち着くかは分かりませんが、鉄道ファンや鉄道現業、鉄道以外の運輸事業者、旅行業者や、はたまた交通関係の研究者、大学・公立図書館といった需要は、一定の規模で残り続けると考えられますので、即座に「時刻表」という媒体が消滅する、ということはないのではないか、とも思えます。



とはいえ、これは「時刻表」という媒体全体の話であります。
一方、現在販売されている個々の時刻表が、今後も同様に刊行され続けるのか、というのはまた別の問題であります。

今回休刊となった「小型全国時刻表」は、ハンディサイズである反面、掲載内容に限りがあり、紙媒体の優位点である「一覧性」を発揮しにくいサイズであるとも考えられます。
そのため、スマホアプリ等が台頭する中、今後の生き残りが難しい、と判断されたのは、容易に想像がつくかと思います。

では今後、「時刻表」がどのように生き残っていくのでありましょうか。
その鍵としては、既に実現しているものもありますが、一つは「大型化と小型化」、そしてもう一つは「季刊化」ではないかと思っています。

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上記の画像に並べたのは、いま手元にある時刻表です。
左から順に、
「小型全国時刻表」(B6変形版)
「JTB小さな時刻表」(B6版)
「JTB時刻表」(B5版)
「文字の大きな時刻表」(B5版)
と並べてみました。

このうち、「JTB小さな時刻表」は「JTB時刻表」をそのまま縮小したものであります。(一部ページは割愛。但し時刻表に関する部分は全掲載。)

JR各線のページはもとより、会社線、航空、フェリーのページもそのまま縮小しており、旅行に手軽に持ち歩けるサイズとなっています。
実際、旅行先で急に旅程を調べる時は、スマホで一々調べるよりも、紙媒体の時刻表が手っ取り早い場合が多いのですが、逆にB5版の時刻表を持ち歩くには荷物になる。
そしてコンパクトな時刻表が求められるが、サイズを小さくすると掲載できる情報量も減らざるを得ない。

そんな中、文字が小さくなることを承知の上で、あくまで旅行先での利用に割り切ったサイズとして販売されているのが、この「JTB小さな時刻表」といえるでしょう。
情報量は「JTB時刻表」そのままで、それが旅先でも使える、となれば、鉄道ファンや旅行好きには人気を集めるのも当然で、2012年初刊でありながら、現在でも年4回発行が続いています。


一方の「大型化」は、上述の「小型化」とは逆で、文字を大きくして読みやすくしたものであります。
上記の画像では、交通新聞社の「文字の大きな時刻表」を例に挙げていますが、JTBからも年1回の刊行で「JTB大きな時刻表」が発売されています。
こちらは、更に大きなA4版で、「JTB時刻表」の内容をそのまま拡大したもので、細かい字が読みづらい人にとっても、時刻表の情報を読み取ることができるようになっています。

かくいう私も、40代中盤を過ぎようとしている中、老眼の進行に悩まされており、時刻表の文字が読みづらい、ということをようやくにして実感しているところです。
今後、団塊ジュニアの世代が50代に近づくにつれ、「時刻表が読みづらい」といった声も増えてくるのかも知れません。
ただ、「JTB大きな時刻表」「文字の大きな時刻表」ともに以前にくらべて発刊頻度が下がっているのが気になるところですが、ニーズが高まれば発刊頻度の回復もあり得るのかも知れません。


これら「大型化」「小型化」でも触れましたが、今後の時刻表では、「月刊」から「季刊」への流れも避けられないのかな、とも思われます。

現在、月刊で発売されているのは、全国版でいいますと、
・JTB時刻表
・JR時刻表
・コンパス時刻表

(・小型全国時刻表・・・2021年8月号で休刊)

となっています。

上述のように、時刻表を取り巻くニーズが先細り・特定の需要となる中、月刊誌として3タイトルも生き残れるのか、といった懸念はあります。
また、臨時列車についても、春夏秋冬の各シーズン毎で列車が発表されている中、従前のように毎月発行し続ける体制を果たして出版社側で維持する必要があるのか、あるいはできるのか、という懸念もあります。

究極のところ、「JTB時刻表」「JR時刻表」までもが季刊あるいは隔月刊といった時代もやって来ないとも限りませんが、逆に言えば、毎月発行されるものであるから、安心して使えるわけでもあり、そういった読者が期待する「信頼性」との兼ね合いで、各出版社がどのように判断するのか、今後注目したいところです。



以上、「小型全国時刻表」の休刊に寄せて、「時刻表」の話を色々と書いてきました。

ところで、時刻表の話をすると、必ずといっていいくらい出てくるのが「JTB派か、JR派か」という論争?でもありましょう。
現在、全国を網羅する時刻表で、JR線のみならず会社線等も収録している時刻表は、JTBパブリッシングが発行する「JTB時刻表」、そして交通新聞社が発行する「JR時刻表」であります。
そのどちらが時刻表の機能として優れているのか、といった議論が、事ある毎に出てきます。

ここで個人的感想を記すとすれば、どちらも、上述の枝久保氏の言葉を借りれば「データ」を掲載しているだけであり、その「データ」の見せ方が違うだけであります。
掲載しているデータが基本的に違いが無い以上、どちらが良いかは、個々人で、どちらがより見やすいかの感性の問題に行き着くのかな、とも思います。

極端な話、初めて使うのであれば、「索引地図」の見やすい方で判断しても構わないと考えています。

「索引地図」の違いでいえば、JR時刻表では、実際の地形をある程度維持した上で路線図を掲載していますが、JTB時刻表では逆に、実際の地形をある程度犠牲にしてでもよりも路線や駅を忠実に反映することを主眼に置いています。

どちらが良いかは、それこそ編集方針の違いといえますし、時刻表でよく使うページが索引地図、であることを考えると、これがより自分にとって使いやすいのか、を考えて、判断するものなのかな、と思います。

繰り返すようですが、「優劣」の問題ではなく、「使い方」あるいは「好み」の問題と私は考えています。

ちなみに私は、「会社線の情報が充実している」という理由で以前から「JTB時刻表」を使っていました。
下記のとおり、索引地図のリニューアルで、民鉄の全駅・停留所が掲載されたのは、乗りつぶしを目標としている私にとっても朗報であったのは確かで、今後も引き続き「JTB時刻表」を購入し続けるものと考えています。



でも、これはあくまでも一例で、「索引地図の地形が見にくい」という理由で、JR時刻表を好む方もおられるかも知れませんので、それぞれ利用する方が、実際に手にして、どちらが良いか判断していただければ、嬉しく感じます。


世間は4連休が始まりましたが、また同時に夏の「青春18きっぷ」のシーズンも始まりました。

旅行にこれから行かれる方も、予定のない方も、本屋さんで「時刻表」を手にしてみて、ものの試しに一冊購入してみて、色々眺めてみたり、使ってみていただく際に、少しでもこの記事が役に立てればと思っています。



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