前回の甲種輸送もそうですが、各種事業用車両もまた、昭和国鉄の時代には見向きもされなかった趣味コンテンツです。一部の “変わり者” が調査研究の対象にしていましたけど、基本的にはゲテモノ扱い。今は市民権を得るようになりましたけど、そういった先達の方々がいないと、こういう車両は陽の目を見ることは無かったと思います。

 

事業用車両には、郵便・荷物用車両を始めとして、工場入りする車両を送り届ける牽引車、事故等が起きた時にその処理を行う救援車、運転士や車掌といった乗務員の教育・養成に使う教習車などがそのカテゴリーに含まれます。そしてもう一つ、事業用車両に無くてはならない存在として、車両工場から車両基地へ、あるいは車両基地から車両工場へと部品を送り届ける重要な役目を果たす車両に配給車があります。

国鉄における、最初で最後の新性能配給車で、JRで最後まで生き残ったのが145系配給車。その最後の1本がJR西日本に籍を置いていましたが、この度、 “卒業” することが決まったそうです。

 

145系配給車はクモル145・クル144で構成され、車体こそ新調しましたが、足回りは101系の廃車発生品を使っています。それ以前はクモル23・クル29という、旧型国電を改造した配給車が活躍していましたが、首都圏のATC化に伴って、それに対応させる必要が生じました。しかし、旧国改造車はブレーキ性能も異なり、そこにATCの機器類を取り付けるということになると、改造箇所は膨大なものになり得策ではないという見解から、ATC対応の新しい配給車を新規に製造することになりました。それがクモル145・クル144です。時に昭和55年の事。因みにクモル・クルの “ル” は、 「クバル (配る) 」 の “ル” です。

 

17m級車体の1M方式で、クモル145に主電動機、電動発電機 (MG) 、空気圧縮機 (CP) を、クル144にATCの機器類をそれぞれ搭載しています。双方パンタグラフを取り付けていますが、クル144のパンタグラフは車両基地や車両工場における庫内押し込み用の補助パンタ。

この中で台車、断流器、空気圧縮機は101系の廃車発生品を再利用しています (まんま再利用もあれば一部改造もあり) 。そのため、主電動機は101系譲りのMT46でした。クル144が履くDT21Tも再利用ですが、ATCの速度検知用発電機を追加搭載しています。

 

屋根に覆われているエリア (有蓋部分) に雨に濡らしてはいけない部品や小型部品を、屋根が無いエリア (無蓋部分) に雨に濡らしても問題ない部品や大型の部品を積むように設計されている配給車独自の車体は前述のように新製しまして、前面形状はクハ103の高運転台車を彷彿とさせる顔つきになりました。また、踏切事故対策で前面は強化構造になっています。なお、双方にパンタグラフが取り付けられてるのと、ヒューズや避雷器なども搭載されていて冷房を取り付けるスペースが無いことから、非冷房になっています。

 

当初は首都圏のみの配置で全車が品川電車区 (南シナ) に配置されましたが、あくまでも書類上の配置で、実際は隣接する大井工場に常駐していました。

 

クモル145-1 (クモハ100-13) +クル144-1 (モハ101-24)

クモル145-2 (クモハ100-24) +クル144-2 (モハ101-23)

クモル145-3 (クモハ101-22) +クル144-3 (クモハ100-22)

クモル145-4 (クモハ101-12) +クル144-4 (クモハ100-12)

クモル145-5 (クモハ101-36) +クル144-5 (モハ100-34)

クモル145-6 (クモハ101-64) +クル144-6 (モハ100-58)

クモル145-7 (クモハ101-7) +クル144-7 (モハ100-7)

クモル145-8 (クモハ100-2) +クル144-8 (モハ101-2)

クモル145-9 (クモハ100-18) +クル144-9 (モハ101-30)

クモル145-10 (クモハ100-39) +クル144-10 (モハ101-46)

 

そして昭和56年には関西圏にも投入されました。

番号は続きでしたが、関西向けの車両にはATCは非搭載だった記憶があります。

 

クモル145-11 (クモハ101-85) +クル144-11 (モハ100-79)

クモル145-12 (モハ101-247) +クル144-12 (モハ100-241)

クモル145-13 (モハ101-242) +クル144-13 (モハ100-235)

クモル145-14 (クモハ100-128) +クル144-14 (モハ101-122)

クモル145-15 (クモハ101-13) +クル144-15 (クハ101-32)

クモル145-16 (クモハ100-73) +クル144-16 (クハ101-33)

 

関西向けの車は全て高槻電車区 (大タツ) に配置されていましたが東京同様、配置は書類上で、吹田工場に常駐していました。

16編成32両は揃いも揃ってJRに継承されましたが、皮肉にも配給者の活躍は減ります。

道路事情の改善と、通勤路線の過密ダイヤによってトラック輸送に切り替えたためで、平成に入って廃車が始まりました。

JR東日本は平成20年までに全車が廃車になっています。

一方、JR西日本所属車は高槻電車区の車両無配置化によって、常駐先である吹田工場 (→吹田総合車両所) に名実ともに配置されたものと、同所の京都支所 (旧・向日町運転所) に配置されたものとに分かれましたが、これも実際は吹田総合車両所にいたんでしょうね。

平成10年度に機器類の共通化ということで、主電動機の換装が行われ、113系等でお馴染みのMT54を搭載して、クモル145だけ番号+1000を振られました (クル144はそのまま)。未改造の6両は廃車されました。

 

画像は国鉄末期の姿で、関西向けのクモル145-11とクル144-11の編成です。種車は上記の通りですが、この車両は1000番代化改造未対象車で、平成11年に廃車されています。

最後まで残ったのはクモル145-1015+クル144-15で、8月6日から18日まで京都鉄道博物館で最後の特別展示を行うことをJR西日本がプレスリリースしています。行きたいけど、緊急事態宣言が解除されない限り、ちょっと無理だと思います。

 

長年、ゲテモノ扱いだったけど、最後の最後に拍手でその功績を労われるのは幸せなのかもしれませんね。

 

 

【画像提供】

イ様

【参考文献・引用】

鉄道ピクトリアル No.866 (電気車研究会社 刊)

鉄道ファン No.231 (交友社 刊)

ウィキペディア (国鉄145系職用車)