【まさかり担いで】EH500形“金太郎”24号機が日本海縦貫線・上越線で試運転

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関東〜東北本線方面と北九州エリアを中心に活躍するEH500形。

2021年7月に入り、日本海縦貫線・上越線でEH500形を使用した試運転が実施されており、今後の運用拡大などの動向に注目が集まっています。

EH500形の運用変化を振り返りつつ、今後の展開を考えます。

首都圏〜北海道直通牽引用として登場

EH500形の試作機と3次形の重連単機

EH500形は、東北本線を中心に運行される東北・北海道方面の貨物列車について、黒磯駅・青森信号場での機関車付け替えを削減することで速達性・輸送効率向上を目的として開発されました。

比較的平坦な印象もある東北本線ですが、宮城県と福島県の県境付近(藤田駅〜白石駅=国見峠)や岩手県と青森県の県境付近(御堂駅〜奥中山駅=十三本木峠)では勾配の連続する路線です。

前者は丸森線(のちの阿武隈急行線)が勾配緩和を目的に計画された背景として知られているほか、後者は蒸気機関車が活躍していたころに奥中山の三重連としてファンから注目された区間でした。

いずれも車両性能の向上があったものの、重量が大きい上に速達化が求められていた近年の貨物列車では課題となっていました。ED75形の運用される区間のうち、県境越えをする列車を中心に重連仕業で運行されていました。

また、青函トンネルを含む津軽海峡線についても勾配が大きいほか、海底トンネル特有の湿度対策、将来の新幹線延伸を想定して導入されたATC-L形 自動列車制御装置への対応などの課題から、専用形式としてED79形が重連牽引する体制で運用されていました。

これらED75形・ED79形の重連仕業を解消するため、EH500形では2車体連結8軸の構成とされています。

1997年に製造された試作機である901号機、2000年に製造された1次形の1,2号機、2000年度に製造された2次形の3〜9号機と初期に製造された機関車は外観がそれぞれ異なり、民営化以降の機関車の中ではバリエーション豊かでファンからも人気の形式です。

10号機以降は目立つ外観の変化こそないものの増備が続けられ、2007年には九州の門司機関区へ新たに配置され、関門トンネル(幡生操車場〜北九州貨物ターミナル)での運用を開始。2011年には鹿児島本線の改良により福岡貨物ターミナルまで活躍の場を広げました。

2013年にはそれまでJR東日本へ運行を委託していた常磐線運用を代替して運用範囲を更に広げました。

北海道新幹線開業に先がけ、青森信号場以北の津軽海峡線内は2012年に試作車・2014年より量産が始まったEH800形に代替が進みました。これによりEH500形の運用範囲の北限が青森までとなりました。

当初のスルー牽引思想とは逆行する運用体系となりましたが、その後の2016年改正にて交直流境となっていた黒磯駅での機関車付け替え列車が全廃され(ごく一部が宇都宮貨物ターミナルで付け替えとされたほかは都心部まで牽引)、首都圏で見かける機会が大幅に増加しています。

このほか、短区間ながら青森から奥羽本線経由で秋田貨物ターミナルへの運用が設定され、日本海側での運用も開始しています。

「リダンダンジー」確保の一環

JR貨物の長期不通時の動きとして、2011年の東日本大震災で被災地にガソリンを届けるべく、日本海側を経由した貨物列車を運行したほか、2019年の岡山・広島集中豪雨災害でも伯備線・山陰本線経由の貨物列車を運行するなどのエピソードで注目を集めました。

2021年3月31日に新年度の事業計画がJR貨物より発表されましたが、このなかで「輸送機材のリダンダンシー確保の一環として、運用線区拡大のため一部機関車の改造に着手し、まず試作車1両を製作している。本年度は、試験走行を実施するとともに、今後の改造に向けた体制を構築する。」(PDF 7頁)といった記述があり、どの形式をどのような運用することを意図しているのかが注目されていました。「リダンダンジー」は「冗長性」を意味します。

その後のカーゴニュースの報道(外部リンク)により、EH500形を改良して日本海縦貫線でも運転できるようにすることが判明していました。

日本海縦貫線(北陸本線〜信越本線〜羽越本線〜奥羽本線)については、EF81形淘汰後はEF510形の牽引、上越線系統の貨物列車もEH200形の牽引としています。

日本海縦貫線の大半の区間では、EH500形を運用した実績がこれまで行われておらず、EH800形投入で余裕が生まれた2016年改正より青森信号場から秋田貨物ターミナルまで延長されたのみとなっていました。

これは、同系統では東北本線ほどの最大出力を求められないため、6軸でEF210形同様に製造・運用コストを適正化されたEF510形の投入に至ったことが背景です。

また、上越線系統についても、国境越えで山岳機であるEF64形からEH200形へ置き換えられています。こちらも運行線区に交流電化区間が含まれていないことから、同じ8軸機ながら直流専用で中央線の狭小トンネルに対応した機関車となりました。

JR貨物の主力路線としては、東海道・山陽本線とともに東北本線が挙げられます。物流需要が非常に大きい首都圏から東北・北海道方面の輸送の需要が非常に大きなものとなっています。

一方で、日本海縦貫線は関西以西から北海道を結ぶ経路としては最短経路となっているものの、首都圏を経由しません。上越線についても新潟から日本海側のエリア向けの列車としての需要はあるものの、大都市向けの経路とはなっていません。

今回の迂回運行の想定は、東北本線不通時に首都圏から日本海側を経由して青森・北海道へ、また南東北での不通時に青森から南下して盛岡方面へ輸送することと見られます。

一連の試験と乗務員訓練が完了すれば、都心部から高崎線〜上越線〜信越本線〜羽越本線〜奥羽本線経由で青森まで日本海側経由でのEH500形による迂回運行が可能となります(このうち高崎以南・秋田以北は運用済の区間)。

この経路といえば、かつての寝台特急「北斗星」「カシオペア」が東北本線での輸送障害時、常磐線経由や日本海側経由で運行されていたことを思い出す方も多いのではないでしょうか。こちらもEF81形がこの路線で運用可能であったことから柔軟に実施されていました。

在来線長距離列車・機関車牽引列車が旅客会社から無くなって久しい今、JR貨物が長距離迂回を出来る体制を組むことはファンにとっても熱い出来事です。

一見すると単純に迂回すればいいようにも思えますが、それだけのために機関車を多く配置するよりは、迂回運行時は本来東北本線で使用されるEH500形が使途を失うため、彼らが入線出来れば非常に合理的です。

ただし、EH500形にとっては交流線区での登坂は日常的ですが、直流の山岳線区は未知数です。

両機とも主電動機自体は共通形式ですが、主制御装置の方式などの設計が違う別形式ですので、試験項目は多そうな印象です。

この改造機の詳細は未だ明らかにされていないものの、上越国境は従来使用していなかった最大性能を解禁……することとなるかもしれません。EH500形が開発から25年程度経過した今、いよいよ本領発揮する姿が見られることはなかなか“熱い”展開です。

このほか、保安装置の違いも思い浮かびますが、新潟エリアで使用されているATS-Ps形は東北本線でも仙台エリアで採用されているため、こちらは特段支障とならなさそうです。

将来的な運用拡大も……?

EF510形500番台にとっては常磐線貨物列車に続く“置き換え”……?

上記のように運用可能な範囲を拡大しておくことは異常時対応能力が向上する一方で、日本海側の拠点に所属する乗務員の技量も維持する必要が生じます。

全部の代替とはならなくとも、一部の列車が次年度以降のダイヤ改正でEH500形に持ち替えられることが想像できます。

また、上越線の貨物列車の一部は長岡・新潟を超えて山形・秋田方面まで1つの列車として運用されています。これらの状況を考えると、一部の運用を日常的にEH500形としておくことのメリットが多く目立ちます

この場合はEF510形・EH200形の運用を置き換えることとなるため、これらの機関車の配置数削減・転用または運用範囲拡大など更なる動きが想像できます。

現在国鉄時代に製造された電気機関車は、EF210形によって置き換えが進められているEF65形・EF510形を投入することが発表されている九州エリアのEF81形とED76形・明確な置き換え機が登場していない登坂機EF64形1000番台が運用されています。

九州エリアの国鉄形代替については、同数のEF510形投入とせずに一部新造・一部転用で投入数が抑えられそうです。また、EH200形についても運用範囲の拡大があるかもしれません。

九州エリアや常磐線に続き、更に活躍範囲を広げそうなEH500形。

現在はセノハチ補機機能を追加したEF210形300番台が無縁の新鶴見にも配置が進んでいるように、今後も地域の垣根・従来のファンの予想越える面白い動きが期待できそうです。

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