【伊豆高原へ自走】元209系2100番台 伊豆急譲渡車両の輸送の見どころ

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2021年7月6日から7日にかけて実施されてトレンドとなった、JR東日本209系2100番台の伊豆急行への譲渡輸送。第一編成となる元C609編成は7日未明に伊豆高原へ到着しました。

始発駅から目的地まで、あまり見られない興味深い輸送体系となっています。特にファン目線で面白いポイントを4つピックアップしてお伝えします。

徹底的な目隠しが行われた幕張車両センター

地元ファンの方の目撃情報では、前日夜の時点でこの右側にて準備していたとのこと

最近の新車や譲渡の輸送では、商業誌に掲載されない・直前に公開される事例が増えてきました。

特にJR東日本では、かつては甲種輸送以外にも新製車両の配給輸送が扱われていましたが、現在では自社が荷送者・荷受社となる列車は商業誌に掲載されない・直前に公開される(E261系・キハ40形小湊鐵道譲渡など)がほとんどです。

今回の伊豆急行譲渡については、事前に察知されることなく輸送が開始されています。

甲種輸送では貨物列車として運行されるため、前日などに実施される特殊貨物検査の荷票で計画の存在が事前に明らかになることが多い印象です。

しかし今回の輸送は、連結器の改装やブレーキ仮設・反射板設置・特殊貨物検査まで、その準備が全て建屋内で実施されており、更に目隠しとしてか別の209系4両編成を中途半端な位置に留置される徹底っぷりでした。

事前にあった動きとしてはEF65 2088号機が新鶴見から蘇我まで送り込まれた程度ですが、これだけでは輸送の実態を掴むのは困難です。

そのため、今回の輸送が明らかになったのは、車両センター建屋から姿を見せた幕張駅発車直前となりました。

機関車牽引での輸送というだけでは譲渡先が明らかでないことから、当サイトでは伊東までの輸送が示された荷物票を資料として添付しています。

JR東日本社員がEF210形に乗車

幕張車両センター構内を走行するEF210形

一般に、通常貨物列車が運行されていない路線については、事前に乗務員訓練が実施されることが多いですが、今回の輸送ではEF210形の入線確認・JR貨物乗務員の訓練などの事前の動きはありませんでした。

総武線自体は定期貨物列車が運行されており、JR貨物の乗務員が日常的に運転を行う路線です。

一方で、JR貨物の乗務員はJR東日本の車両基地である幕張車両センターの構内配線を理解しているわけではありません。

電気機関車自体はJR東日本の配給輸送で時折入線していますが、過去に幕張車両センター発着とされたJR貨物が運行する甲種鉄道車両輸送は久しく設定されておらず、はるか昔のE257系500番台の新製時以来でしょうか。

このための処置として、(蘇我〜)幕張車両センター〜蘇我間において、JR東日本の運輸系の社員が複数添乗している姿が確認されています。

つまり、EF210形を操縦出来るが幕張車両センターの配線知識がないJR貨物乗務員と、幕張車両センターを熟知しているがEF210形を操縦したことがないJR東日本乗務員が共に乗り込むことで対処とみられます。

このような運転体制は、JR貨物の乗務員訓練が実施される際に時折見られる光景です。

2020年のしなの鉄道SR1系甲種輸送に先がけて実施された、EH200形のしなの鉄道北しなの線・えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインの乗務員訓練では、境界駅の妙高高原駅で両社の社員の乗り継ぎが実施されている姿が見られました。

本運転でいきなり……となると珍しい印象です。

JR貨物とJR東日本の乗務員が協力して運行

また、幕張車両センターから蘇我駅までの短区間のみEF210形“桃太郎”が登板した経緯も注目されるところです。

専用列車を仕立てている以上、牽引機は通常運用とは異なり、その輸送区間にあわせて機関車が送り込み・返却されるダイヤまで組まれる形が基本です。

しかし今回、幕張から蘇我までの短区間に登板したEF210 140号機は、蘇我駅を出入りする定期貨物列車の間合いで運用されました。

EF65 2088号機の送り込みは前日に済んでいますので、本来であれば全区間同機が充てられるのが自然です。添乗をしていたJR東日本にとっても、自社でも保有している形式の方が合理的だったはずです。

過去にEF510形0番台がJR発足20周年でブルートレイン客車を牽引した事例は、500番台投入の試験的な色合いがあったものと推測されています。また、2021年6月にJR九州がDD200形700番台を投入しましたが、こちらも過去のDD200形の九州地区試運転において多数のJR九州社員の添乗が目撃されていました。

しかし、既に電気機関車全廃を目指しているJR東日本がEF210形投入を検討している可能性は皆無で、あくまで今回のEF210形の運用はJR貨物の都合と考えられます。

推測の域を出ませんが、この背景の1つとして仕業検査の都合が考えられます

蘇我駅に隣接する千葉機関区は機関車を配置していない区所ですが、千葉方面発着の貨物列車の拠点駅としての機能を有しており、乗務員配置と機関車の仕業検査、貨車の交番検査を実施しています。

今回の209系が輸送に際して受けた特殊貨物検査についても、荷票から千葉機関区の出張で行われていることが分かります。

国鉄型電気機関車は72時間に一度、仕業検査を受けることとされており、5日の送り込みから7日の返却であればギリギリ範囲内となります。

ただし、車両故障などの列車の遅延に余裕を持って対処するため、実運用ではギリギリの設定は避けられています。

そのため、送り込まれた2088号機は千葉機関区で仕業検査を行い、定期運用の合間で時間があったEF210を短区間のみの牽引に充てた……といった処置が考えられます。

伊豆急行向けの甲種輸送では、横浜羽沢駅で長時間留置されて伊東線の終電後に伊東に到着する動きが通例です。この際、横浜羽沢駅到着後、いったん牽引機を新鶴見機関区へ戻す動きがあります。

過去の輸送ではこのタイミングで牽引機を差し替えることも多くありましたが、今回は再び2088号機が送り込まれています。先述のように、蘇我機関区で仕業検査を実施していると仮定すれば機関車自体の交換は不要です。日勤の乗務員と夜勤の乗務員の交代が主目的でしょうか。

いきなり自走!? 伊豆急行線を走行

運輸区に取り込まれる元209系

伊東駅到着後は機関車を解放したのち、反射板や仮設ブレーキ撤去などを行い、1時過ぎに通電されています。1時50分ごろに自走で伊東駅を後にし、35分ほどかけて伊豆高原駅に到着しています。

牽引車が伊東駅に留置されていない時点で確定的な動きでしたが、意外と感じた方も多いのではないでしょうか。

もちろんぶっつけ本番で自力回送というわけにもいかず、保線車両と同様の「線路閉鎖」の処置が施された上で低速での移動となりました。

JR東日本の管轄駅となる伊東駅とその構内となる区間では、全てのポイントと踏切前で一旦停止・汽笛吹鳴が実施されていた一方で、伊豆急行線内は停止せず最徐行で通過する体制となっていました。JR東日本管轄となる伊東駅南側の踏切では、駅社員が配置されていました。

伊豆急行の車両導入で自社線内を自走とされた事例は過去に113系・115系→200系などの導入時にあったようですが、こちらはそれ以前より113系の運用実績がありました。

この辺りは保安装置などの設備面をJR東日本と同等のものを採用し、最近の特急車両の入線もいきなり乗務員訓練からスタートする伊豆急行ならではの体制と言えそうです。

自動連結器や反射板用フックが印象的

到着後は伊豆急行の形式名への変更、カラーリングの変更などは少なくとも実施されますが、6両のまま運用するのか・4両に短縮して運用するのかが注目されます。

短縮する場合はトイレなしの電動ユニットが部品取りとなりそうですが、編成短縮がされる場合は「部品取りとして6両丸々購入し、納車の時だけ走行実績がある」という少しややこしい事例となります。

リゾート21で牽引も想定?

伊豆高原駅1番線に到着した209系と、イレギュラーな留置車両

伊豆急の車両運用では、上り・下りの伊豆高原止まりの最終列車(ともに3両編成)は同駅到着後は入庫せずに2番線・3番線に停泊させ、翌日の始発列車に充当する体制が基本です。

最近のTHE ROYAL EXPRESSやマニ50 2186の動きでは、8000系6両の牽引により伊豆高原駅3番線を通らせるため、これらの列車を1番線・2番線に振り替える着発線変更が実施されていました。

一方で、今回の自走回送では、通常通り空いている1番線を走行しているものの、2番線・3番線の布陣に変化が生じています。

暗い画像で恐縮ですが、2番線は8000系3両2編成が縦列で留置(連結はせず)、更に3番線には夕方に入庫していたはずの2100系R-3編成(キンメトレイン)が据え付けられています。

推測の域を出ませんが、今回の自走回送にあたり、故障時の救援車として待機していたことが考えられます。

これまで8000系牽引で輸送されていましたが、6両編成も3両ずつ回送されています。しかし、もし209系6両が立ち往生した場合、8000系6両では対応できません。

そのため、同じく電動車が4両ながら、100系譲りの設計で出力が大きく登坂能力などに長けた2100系を非常時救援に使用する狙いがあったのではないかと考えることが出来そうです。

単純に夜間に手狭になることも考えられるものの、これは翌日以降も同じ課題が発生するほか、それだけが理由であれば出庫時刻の早い8000系を据え付けておいた方が合理的です。

始発から終点までイレギュラーな動きがあった今回の輸送。

JR東日本で運用されていた車両が同社線を貨物列車として移動し、譲渡先の伊豆急行ではいきなり自力回送……と、全国的に見ても珍しい輸送体系となりました。

伊豆急行での車両形式、塗色などがどうなるのか・内装やワンマン運転対応などの設備に手が加えられるのか・最終的な導入数……など、引き続きレポートするつもりです。

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