東京メトロの株式上場をめぐって | 書斎の汽車・電車

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 今日の『読売新聞』が報じたところによれば、国土交通省の専門委員会が、政府と東京都が持つ東京地下鉄(東京メトロ)の株式について、保有分の半数を売却し、上場することが適切であるとの答申案をまとめたといいます。

 

 東京メトロをめぐっては、元々できる限り速やかな株式売却の方針が明記されていました。政府としても早期の株式売却を目指していたといいます。ところが、もう一方の株主である東京都は、株式を保有し続けることで、東京メトロへの発言権を保持したい、将来的には都営地下鉄との経営統合を実現したいということで、株式売却の話はなかなか前に進みませんでした。

 この、東京都の東京メトロに対するスタンスがよくわかる本としては、後に東京都知事も務めた猪瀬直樹氏が、副知事時代の平成23(2011)年に著した『地下鉄は誰のものか』(ちくま新書)があります。この本、さすがに猪瀬氏の著作だけあって、今読んでも面白いです。

 

 東京都が、東京の地下鉄を何とか自らの手で一元管理したいという意向はわかりますが、これまでの経緯をみれば、なかなか難しいことがわかります。そもそも東京の地下鉄は、早川徳次の東京地下鉄道によりその歴史が始まっています。「官」よりも「民」が主導して生まれたものでした。東京市(当時)も大正末に4路線からなる地下鉄の免許を得ますが、着工することができず、免許の一部を東京高速鉄道に譲る破目になっています。現在の銀座線の渋谷~新橋はこうして誕生しました。東京市は結局自らの手で地下鉄を完成させることはありませんでした。それ故昭和10年代の「交通調整」でも、地下鉄に関しては主導権を発揮できず、保有する免許を、新設された「帝都高速度交通営団」に譲渡することと相成りました。

 東京の地下鉄は営団により建設、運行されていくことになりましたが、東京都も「粘り腰」をみせます。昭和30(1955)年9月、都市交通審議会の第1次答申において、東京の地下鉄網の早期実現をはかるために、東京都も地下鉄建設に参入することを認めました。かくして都営地下鉄が実現し、現在では浅草線、三田線、新宿線、大江戸線を運行していますが、営団の後身である東京メトロが9路線を持つのに比べると、都営地下鉄は今一つ地味な存在で、経営面でも少々見劣りがします。また、利用者にとっても、運賃制度など不便が残っています。

 

 ところが、今回の『読売新聞』の記事によれば、東京都が「都営地下鉄と東京メトロの統合はもう考えていない」と明言したことで、今回の答申案がまとまることになったといいます。また、「新規開業は副都心線が最後」として新線建設に消極的だった東京メトロも、政府や東京都の財政支援を前提に、新線建設を容認する立場に転じたことも大きいそうです。

 かくして東京メトロは、株式上場に向けて動き出すようです。また、この記事によれば、かねてから建設が望まれていた有楽町線の豊洲~住吉に加えて、南北線の白金高輪~品川の建設についても具体化しそうとのことです。もちろん、現在の社会情勢を考えれば、新線建設が何の障害もなく実現するとは思えませんが、東京の地下鉄の歴史を見続けてきた者としては、久しぶりに新規開業路線に乗れる日を心待ちにしています。