翌1月10日、台北の天気は曇り。
板橋(バンキャオ)11時25分発の台湾高鐵に乗るには、朝は比較的ゆっくりしてもよかったのだが、9時前にはホテルを出た。

台湾元の両替をするためだ。

12年前の旅行で、なんと3,364元(日本円で1万円強)の通貨を使い残しており、今回の旅はこれで大部分を賄おうかと思っていた。
ところがガイドブックを見ると、私が持ってないデザインの紙幣が掲載されており、疑問に思ってネットで調べてみると台湾では、私がご無沙汰している間に旧紙幣が順次新紙幣に切り替わり、2002年7月以降は、旧紙幣の流通が禁止になっていたのだ(硬貨は50元硬貨以外は、当時のものが使用可)。
ホントに出発直前まで、気が付かなかった!

さらにネットで検索を試みると、旧紙幣から新紙幣への交換は現地の銀行の本店クラスのところでないと、受け付けてくれないとのこと(すべて台北市内にあり)。
前日に台湾の空港の両替所で、たまたま持っていた85USドルを2,718元に両替していて(日本円からの両替は、今回はなし。だってもったいないんだもん)高鐵のきっぷとか当座の食費はそれで賄えたが(ホテル代等は日本で支払い済み)、残金を思うと、前回の使い残しの旧紙幣分、3,300元分を早急に新紙幣に換える必要があった。

ホテルから歩いて10分ちょっとのところに、台湾銀行本店がある。
かつては台湾の紙幣発行を一手に代行していた銀行だ。
歴史の重みをたたえた建物の中へ入る。
「オ、オールド・マネー、エクスチェンジ」
入口のところに立っていた行員に、たどたどしい英語で用件を伝えると、彼は「ついてこい」とでも言いたげに目配せをして、黙って、右側の窓口のほうに歩き出した。
こうして、私が窓口の女性に旧紙幣3,300元分を差し出すと、そのままの金額分が、新紙幣で戻ってきた。
手数料も要求されなければ、パスポートの提示も何か書類を書くことも一切なし。
こうして、正味1分もかからずに、両替は無事終了した。

台北駅へ戻り、あらためて今日の旅程をスタート。
まずは新交通システム、MRTへの初乗車だ。
(この乗り物も、私がご無沙汰していた12年の間に新たに誕生していたものである)
今回は、MRT完乗というのも旅の目的に入っていたため、高鐵始発駅である板橋駅を通る板南線に乗って、いったん西側の終点の永寧(ヨンニン)駅へ行き、そこから板橋駅まで戻って、高鐵に乗り換える予定。

外国人観光客なら、1日乗り放題の200元の乗車券がおすすめと聞いたが、なんかよくわからないまま地元の人が並んでいた券売機で、500元のICカード(JR東のスイカのように、利用金額を随時チャージして使い回していく、プラスチック製のカード)を購入。
改札口の読み取り機にカードをかざして、バーを押しながら入場という仕掛け。

電車はステンレス製。

プラスチックの椅子がセミクロス形式で配されているというもの。
台北-永寧までずっと地下区間を走る。
終点の永寧駅周辺は、ごく平凡な郊外という感じ。

台北方面へ戻る電車へ。
下車駅、板橋駅のひとつ永寧寄りには、府中(フージョン)という駅がある。
「板橋」と「府中」が隣同士とは…。
まるでウチのすぐ近所に池袋がある感じ。
(すみません、例えが分かりにくくて)

板橋駅で下り、「高鐵」「台鐵」の案内表示がある3番出口のほうへ歩いていった。
すると、巨大な駅ビルの半地下のような、大きなコンコースにたどり着いた。

通路の横には土産物店などがいくつも並び、一角には高鐵のきっぷ売り場もあったが、果たしてそこは結構混雑していた。
昨日、台北できっぷを買っておいてよかったかな。

磁気のある面を上にして、高鐵の改札機にきっぷを挿入。
入場すると、簡単な待合いスペースがあり、その横にホームへ下りる階段とエスカレーターが並んでいた。
日本企業の広告の目立つこと。

11時頃、409車次列車が入線したようだ。
ホームへ下りると、オレンジと黒のラインを白地に載せた真新しい700T型式がそこに。
大勢の人たちが、記念写真を撮るのに余念がなかった。

カモノハシの形状をした、先端車両のほうへ回る。
ノーズ部分には、バードストライクの跡も生々しく。

しかし、私が「あっ」と驚いてしまったのは、ふと目にした、車両側面の上部にある電光表示。
なんと「自由座」と書かれてあるではないか。

「えっ、自由座って、『自由席』という意味だよね。英語表記で、"Non-Reserved Seat"ってあったし。
あれ? 台湾新幹線って、自由席どころか立席乗車券もない、全席指定って聞いてたんだけど」

あわてて各車両をチェックしたが、さらにビックリしたのは、編成の12両すべてが「自由座」表示になっていたこと。
もちろん、私が乗ることになっている5号車も。
じゃあ、前日の苦労して予約した座席指定、あれは何だったの!?

ちょうどこの時期は半額セールにあたってたから、実際は自由席であっても、決して不思議ではない。
でも現実に自由席にすると、かなり混乱するんだろう。
だから表向きは座席指定にしておくけど、現実には定員制ではあっても、座る場所はフリーとか。
そう解釈することにした。

それでも自分の指定された5号車、4Aの席へ行くと、3人掛け(高鐵はA~Cが3人掛け、D・Eが2人掛け)の窓側のAと、真ん中のB席に、中年のご夫婦らしき2人がすでに腰かけていて。
すぐ隣のC席は空いていたので、そこに座るのが筋なんだろうが、「これが自由座っていうことか」
幸い、同じ4番のD・E席には誰もいなかったので、途中で人が乗ってくるまで、E席に座ることにした。
誰か来たら、C席に移ればいいさ。

8割方の乗車率といった感じで、定刻の11時25分、409車次列車は出発。

すると、電車が動き出すやいなや、デッキと客室を隔てる半自動ドア(台湾では、冷房の効率を上げるため、あえてドアはボタンを押して開ける半自動式を採用しているそう)上の液晶表示が自由席から、指定席を示す言葉に変わった。

なんて人騒がせな。

単に、表示を間違えていたのね…

 

*記事の内容は、2007年1月当時のものです