鉄道と政治の150年 | 書斎の汽車・電車

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 今回は、佐藤信之『鉄道と政治』(中公新書)をご紹介します。

 鉄道はどうしても、その時々の政治の影響を受ける存在です。それは、富国強兵、殖産興業が叫ばれた明治期から、政治家の票集めの道具となった後年まで変わりません。本書は、明治から令和に至る鉄道と政治の関わりを明らかにしていきます。

 

 第1部「政治と交通インフラ」(第1・2章)は、昭和の時代であれば歓迎される一方であった新幹線建設と、地元自治体の軋轢を取り上げています。具体的には、長崎新幹線(最近、西九州新幹線となったようです)と佐賀県、中央リニア新幹線と静岡県の事例が紹介されています。

 第2部「国・地方・民間」(第3~8章)が本書のメインです。明治から平成に至る鉄道史と政治の関わりを述べています。3・4章が主に明治期、5章が大正から昭和戦前、戦中期、6・7章が昭和戦後期、8章が平成ということになります。

 第3部「新しい潮流」(第9・10章)では、富山、福井、宇都宮のLRT導入や、東日本大震災後の復旧、今後の展望などが述べられています。

 

 本書第2部、確かに面白いエピソードも多く語られ、著者の意欲は伝わってきます。しかし、明治から平成までの鉄道の「通史」に政治を絡めて書くには、いささか頁数が足りなかったようで、個々の話題について、「掘り下げ不足」の感が強いです。「通史」を語るのではなく、いくつかの話題について詳述してくれた方がよかったのではないかと思います。例えば、「立憲政友会(原敬)と建主改従政策」「自民党政治と整備新幹線」「国鉄改革の政治過程」といった具合に。あるいは、明治から昭和までは思い切って割愛し、平成以後の「政治と鉄道」というのも面白かったのではないでしょうか。本書の第1・2章、第8~10章の読み応えがあっただけに、そんなことすら考えてしまいました。

 

 少々辛口のレビューとなってしまいましたが、本書は鉄道史、政治史に関心のある方でしたら必読といえます。個人的には、戦前期の私鉄経営者の多くが衆議院議員経験者であったというのは意外な発見でした。そして、政治史研究者の皆さまには、例えば「昭和恐慌期の失業救済事業と新線建設」(大阪の城東線は確かその一例です)とか、「自民党政調会、総務会と整備新幹線」(あるいは地方交通線)といったテーマに取り組んでいただけたらと期待しています。また、昭和戦前期、斎藤内閣以降の「挙国一致内閣」期でも、鉄道大臣のポストは政党人が就任することが多かったように思います。そのあたりを分析するのも面白そうです。「鉄道と政治」、総論、通史はもちろん大切ですが、各論も取り組み甲斐のあるテーマが多いのです。