JR九州のローカル線、指宿枕崎線の将来が危ぶまれています。

同線は「JR最南端の駅」があることでも知られますが、どうなってしまうのでしょうか。

 

乗降客1日98人

 JR九州の指宿枕崎線について存続か廃止か、検討の対象になりそうだとの報道がありました。JR九州の青柳社長が同線に関し、将来的には区間によって存廃を考えることになると発言したと伝えられています。

 指宿枕崎線は鹿児島県鹿児島市の鹿児島中央駅と、カツオで有名な同県枕崎市の枕崎駅を結ぶ87.8kmの路線です。途中、砂むし温泉で知られる指宿を通り、観光列車「指宿のたまて箱」が走っているほか、「JR最南端の駅」西大山駅があることで知られています。

列車の後方は薩摩富士「開門岳」

JR日本最南端の駅・西大山駅は無人駅で、通学時間帯に学生さん達が数人乗車していました。

開聞岳を望む西大山駅。「日本最南端の駅」とあるのは、2003年に沖縄で「ゆいレール」が開業するまで日本最南端の駅であったため。現在はその上に「JR」の文字が入る。

 

「観光列車が走っているのに廃止?」と疑問に思うかもしれませんが、この指宿枕崎線、区間によって利用者数に大きな違いがあります。鹿児島中央~指宿・山川間は比較的利用があるのですが、路線の末端部分である山川~枕崎間は、乗客がガクンと減るのです。

 2008年度の駅年間乗降客数を比較すると指宿駅は509,684人、山川駅は184,753人ですが、枕崎駅は35,731人しかありません。単純に365で割って1日あたりに換算すると、それぞれ1,396人、506人、98人です。

JR九州 指宿枕崎線の単線線路の車止め!

枕崎駅のホームにある「北と南の始発・終着駅」看板!

 冒頭で記したとおりJR九州の社長が「区間によって」としたのは、指宿枕崎線の全線ではなく、利用客の少ない末端部分について存廃を考えている、という可能性が高そうです。

「青春18きっぷ」ポスターになった名駅が消える?

 指宿枕崎線の末端区間を廃止するとしたら、指宿駅か、その隣の山川駅から枕崎駅側が対象になると思われます。

 もしそうなると、全国規模で影響する点があります。「JR最南端の駅」がどうなるかです。

 現在、「JR最南端の駅」は指宿枕崎線の西大山駅です。間近にきれいな三角形をした開聞岳が見られる小さな無人駅で風情が良く、旅情を誘うことで知られる「青春18きっぷ」のポスターにもなりました。

 この西大山駅は山川~枕崎間にあるため、同区間が廃止されると「JR最南端の駅」も廃止になるというわけです。

 仮に山川~枕崎間が廃止になれば山川駅が、指宿~枕崎間が廃止になれば指宿駅が「JR最南端の駅」になります。また廃止ではなく、第三セクター鉄道として存続する可能性もありますが、その場合でも「JR最南端の駅」は西大山駅ではなくなります。

 ちなみにJR最北端の駅は北海道の稚内駅、JR最東端も北海道の東根室駅、JR最西端は九州の佐世保駅です。

 

 

廃止続くローカル線、観光列車は救世主となるか?

 JR西日本ワースト3の木次線、新たな一手

三江線の廃止が決まるなど、多くのローカル線でその将来が危ぶまれる現在。JR西日本で利用者数がワースト3の木次線で、未来に向け観光列車を活用した新たな一歩が踏み出されます。

 

「木次線名物」を外した木次線のツアー、その目的は?

「奥出雲おろち号」は、島根県松江市の宍道駅と、広島県庄原市の備後落合駅を結ぶJR西日本・木次(きすき)線のトロッコ列車です。おもに、木次線の木次駅(島根県雲南市)と備後落合駅とのあいだで運転され、同区間には松本清張の小説『砂の器』に登場する「亀嵩駅」や、鉄道ファンに人気の「3段式スイッチバック」(ジグザグに進むことで勾配を緩め、坂を上り下りする方法のひとつ)も存在。島根県の観光ランキングでも上位に入るほどの人気列車です。

1998年から木次線で運行されているトロッコ列車「奥出雲おろち号」

 

 また、日曜や祭日などは山陰本線の出雲市駅(島根県出雲市)から出発します。これは出雲市も参加する共同事業「出雲の國・斐伊川サミット」が「奥出雲おろち号」を支援しているためです。

 2016年11月6日(日)と20日(日)、出雲市駅発になる「奥出雲おろち号」を使った「木次線ワイン&チーズトレイン」ツアーが実施されます。ところがこのツアーは木次駅で下車し、そこで貸切バスに乗り換えです。おもな「奥出雲おろち号」の運行区間である木次〜備後落合間には乗車せず、そこにある「木次線名物」の亀嵩駅もスイッチバックも通りません。

日本海側の宍道駅と中国山地の備後落合駅を結ぶ木次線

 

 その代わりこのツアーは、雲南市のお酒と食事をじっくり楽しむ内容になっています。車内では赤白のワインが提供されるほか、木次駅下車後は貸切バスでワイナリーと酒蔵の見学、チーズ作り体験ができ、ランチタイムには4種類のワインを楽しめます。

 せっかく「奥出雲おろち号」に乗るというのに、亀嵩駅やスイッチバックといった「木次線の魅力」に立ち寄らないこのツアー。鉄道ファンから見ると不思議な内容です。しかし関係者によると、このツアーは「魅力ある木次線」を存続させる目的で作られたといいます。

JR西日本で3番目に利用者が少ない木次線、

お隣の三江線は廃止されました!

 木次線は1916(大正5)年に簸上(ひのかみ)鉄道として、宍道駅から木次駅まで開業しました。「たたら製鉄」で財をなした絲原(いとはら)家が、「近代製鉄によって製鉄が衰退しても、鉄道があれば新たな産業が生まれる」と人々に説いて出資し、足りない資金を集め、建設を推進しました。簸上鉄道はのちに国有化され木次線となり、沿線における次の産業「木炭」の輸送で地域を支えたといいます。

 しかしそれから100年がたち、木次線は新たな試練を迎えています。ひとつは「存続問題」、もうひとつは「奥出雲おろち号」の老朽化です。

 存続問題について、木次線はJR西日本のなかで3番目に利用者が少ない路線です。もっとも少ない三江線(島根・広島県)は2016年9月、廃止が決まりました。2番目に少ない大糸線(新潟・長野県)は、北陸新幹線のアクセス路線として需要が見込まれます。しかし3番目の木次線は「次の廃止対象になるかもしれない」という危機感があります。

 木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」は1998(平成10)年から運行を開始し、今年で18年目です。しかし中古車両を使っているため、機関車も客車も老朽化しています。記憶に新しいところでは、JR北海道「流氷ノロッコ号」の車両も、老朽化のため2016年2月いっぱいで運行を終えました。

Z型3段スイッチバックを通過する「奥出雲おろち号」観光列車。

木次線・出雲坂根駅の標高

「奥出雲おろち号」の車両は、昨年の定期検査で国土交通省の基準を満たしました。しかし、3年後の次の検査はどうなるかわかりません。万一、車両が使えなくなった場合は次の観光列車を考える必要があります。乗客が少ないうえに観光列車もなくなったら、木次線の存続も危ぶまれます。

 では、新しい観光列車、いつから始めれば良いのでしょうか。

 

「東洋のナパバレー・ワイントレイン」になれるか?

アメリカの「ナパバレー・ワイントレイン」というワインとチーズと食事を楽しむ観光列車。

 

 木次線で新しい観光列車を始めるべき時期、それは「いま」です。

「奥出雲おろち号」が走っているあいだに、ふたつ目の観光列車を走らせて、訪れた人々に知ってもらいます。「次は新しいほうに乗ってみよう」と思ってもらいます。そうすれば、いつか「奥出雲おろち号」が引退しても、新しい列車を選んでもらえるでしょう。

 そのためにも、新しい観光列車は「奥出雲おろち号」とは違う、新しい企画が必要です。

「観光列車ブーム」のなかでいま、新たな乗客が目立ってきました。旅行にかける時間も予算も多い人々、「鉄道の旅」に注目し、観光列車を楽しんでいます。木次線にもワンランク上の列車旅を楽しみたい人に向けた、新しい観光列車が必要です。

 

ツアーでは奥出雲葡萄園で地元食材を使ったプレートランチを提供

 

 いまや食事付きの観光列車はたくさんあります。そのなかで「魅力ある木次線」を存続させるため、このたび実施される「木次線ワイン&チーズトレイン」ツアーは、沿線の雲南市にある小さくておしゃれなワイナリー「奥出雲葡萄園」と木次乳業が参加しました。ワインとチーズは定番の組み合わせです。日本だけではなく、世界のワイン好きからも注目されるかもしれません。アメリカには「ナパバレー・ワイントレイン」という、まさにワインとチーズと食事を楽しみ、ワイナリーを見学する観光列車が走っています。木次線なら、「東洋のナパバレー・ワイントレイン」が成立するかもしれません。

観光列車を走らせても、木次線の赤字解消は無理 しかし…

 今回のツアーが成功すれば「ワインとチーズ」だけではなく、島根県奥出雲町の出雲蕎麦、地酒をテーマとし、ジグザグに進む「スイッチバック」にかけて「ほろ酔い千鳥足トレイン」もできそうです。雲南市は「たまごかけご飯の聖地」でもあるとのこと。木次線の沿線を見渡せば、観光列車に使える「たからもの」がたくさんあります。これらが成功すれば、「奥出雲おろち号」に新しい車両を導入したり、新たな観光車両を仕立てる可能性も高まります。

 全線で81.9kmと木次線は距離が長くはないため、観光列車を走らせても運賃収入は限られています。木次線の赤字解消には足りません。しかし、木次線の新しい観光列車に乗る人が全国から、特に近畿、山陽、北九州から、JR西日本の新幹線や特急列車に乗って来ます。これはJR西日本にとって見逃せない売り上げになります。そして、木次線の観光列車はJR西日本にとって必要な存在になり、その列車を走らせる木次線も、赤字とはいえJR西日本にとって必要な路線となります。

 このたび実施される「木次線ワイン&チーズトレイン」は、JR西日本で3番目に利用者が少ない木次線の存続と、「奥出雲おろち号」の次の展開を探るという「大きな目的」を持った「小さな一歩」といえそうです。

 

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