1966年9月発行の鉄道模型趣味誌(TMS)に、西武電車2題という記事がありました。
「武蔵野の名物の一つに雑木林があります。東京から埼玉にかけての一帯に木立が整然と立ちならぶ風景には、他の地方では見られない雰囲気があります。」
「あの初夏の新緑にかすむ中を、クリーム色とバラ色の車体を輝かせながら走り去って行く姿を模型で再現しようと、少しづつ西武の車両を作っていたのですが…。」
西武の501系4連、701系4連を作成した新井達朗さんという方が書かれた車両発表記事の冒頭の言葉です。
記事の中で新井さんは、西武電車2編成の模型を完成させた後、関西に転勤になったことについても触れられています。
慣れない地での生活で、心寂しくなったときに、模型の入っている箱を開けて電車を見ながら、武蔵野の雑木林を懐かしく思い出されていたであろうことは、想像に固くありません。
今日は、令和2年度の最後の日。
この日を境に、生活が一変、通勤、通学の路線にも変化が生じる方も大勢いらっしゃると思います。
じょうずに節目を乗り越えてください。
もともと、ペーパー車体の技法を極めて、身近な東急、小田急、京王、各線の電車を作りたいと思ったことからスタートした私の鉄道模型ライフ。
製作技法的な内容の記事とはひと味違う、新井さんの繊細な感性で語られる西武愛は、今でもいいなと思います。
西武鉄道を利用することは、これまであまりなかったのですが、やはり武蔵野を走る京王線沿線が急速に都市化され、ほとんどかつての面影をみられなくなってしまったことを思い出して、ここのところ急に、西武線と雑木林のことが気になりました。
この4月29日に引退か決まっている10000系 レッドアロークラシック。それに先立つ硬券の記念乗車券の発売など、話題に事欠かない西武新宿線に、緊急事態宣言も解除になったある日、乗車してみることにしました。
西武新宿駅から本川越駅まで、10000系ニューレッドアロー号で45分の快適な旅でした。
途中、武蔵野の雑木林の面影は残っていないか、車窓の景色に注意を払いながら乗車していたのは言うまでもありません。
小平を過ぎた辺りから、少しずつ残され自然を車窓からも垣間見ることができるようになります。
そして、志村けんさんの故郷の東村山、隣のトトロのもとになった所沢と駅近いところの発展ぶりが目につく中で、確かに、わずかですけれど、雑木林の痕跡を感じることができます。
途中下車して、少し散策するのもよいかもしれません。
旅は、終点本川越駅で下車し、川越の名所旧跡を見学することにしました。
駅前の観光案内所に入ると、川越観光のポイント、小江戸巡回バスが便利であること、さくらマップのことなど、慣れた口調で、細やかに教えていただけました。
観光の足は、西武系と東武系が競ってサービス向上に努めているようです。
由緒ある喜多院をじっくりと訪ね、時の鐘、蔵づくりのある街並みの賑やかさに触れて、久しぶりに観光地に来たという印象が残りました。
このまま、この賑わいが着実に戻っていってほしいものです。