2021年3月の東急田園都市線のダイヤ改正を探る

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2021年3月に大幅にダイヤが見直された東急田園都市線。世間では終電の繰り上げが話題となりましたが、日中時間帯のダイヤパターン刷新など、他にも注目点があります。そんな田園都市線のダイヤを解析してみました。

写真1. 日中時間帯のダイヤが大幅に変わった(渋谷で撮影)

ダイヤ改正の要点まとめ

東急田園都市線に着目すると、ダイヤ改正の概要は以下の通りです。

・朝ラッシュ時直前の速達性向上のために準急を急行に変更

・日中時間帯の渋谷発着の本数を毎時14本から毎時12本に変更
 ※具体的には、毎時2本設定されていた渋谷発着の各駅停車がなくなります

・終電繰り上げと夜間時間帯の本数削減

では、その3点の変更内容を細かく紹介します。

朝ラッシュ時直前の準急を急行に変更

具体的には、渋谷着7:47の準急から渋谷着7:44の急行に変更します。ダイヤ改正前後の主要駅の時刻は以下の通りです。

(改正前)中央林間6:54 → 長津田7:05 → 鷺沼7:18 → 二子玉川7:30 → 渋谷7:47
(改正後)中央林間7:00 → 長津田7:07 → 鷺沼7:20 → 二子玉川7:31 → 渋谷7:44

もともと朝ラッシュ時でも急行が運転されていましたが、混雑平準化のために準急に変更した経緯があります。しかし、大井町線というバイパスを活用するなどして、近年は(社会構造の変化がなかったとしても)混雑が緩和する傾向にあります。混雑が緩和したならば、混雑が比較的ゆるい時間帯については速達性を向上しても問題ありません。そのような意図で、ラッシュ時でもピークを外した時間帯は速達性を重視するようになってきました。今回の速達性向上もその流れでしょう。

所要時間をよく眺めると、準急から急行に変更以外によるスピードアップも判明します。現に、長津田→溝の口と二子玉川→渋谷で全列車1分ずつスピードアップしています。駅停車時間の適正化などで若干ながら所要時間を短縮したのでしょう。

このようなスピードアップは、乗客側は通勤時間の短縮、会社側は経費の削減とwin-winの施策です。

日中時間帯のダイヤパターン変更

東急電鉄の公式発表では、「本数の適正化」という文言が用いられています。従来渋谷断面で毎時14本の設定があったところ、毎時12本に変更しました。

従来は、地下鉄半蔵門線内は毎時12本、田園都市線内は毎時14本と2本のずれがありました。その差の2本の毎時2本は渋谷発着の各駅停車として設定されていました。当該の各駅停車は比較的空いており(特に準急の後追いとなる下りが顕著)、あまり機能していない一面も認められました。この毎時2本の各駅停車を削除した格好です。

とはいえ、以前の15分間隔の急行、その間に15分に2本の各駅停車というダイヤでは、渋谷から鷺沼以遠の先着列車が急行だけとなり、急行に乗客が集中してしまいます。

そのため、従来とは全く異なる20分サイクルのダイヤを採用しています。1時間当たりの本数は以下の図で表されます(図1)。

田園都市線日中時間帯パターン

図1. 田園都市線日中時間帯パターン

従来は急行4本、準急2本の合計6本だったのが、急行3本と準急3本の構成に変更されました。また、半蔵門線直通の各駅停車は毎時6本のままで、渋谷発着の各駅停車が削減された格好です。

本数整理という観点では、急行、各駅停車双方の10分間隔という手もありました。しかし、現実には準急を混ぜています。これは、準急は渋谷-二子玉川の各駅に停車するので、比較的利用の多い世田谷区の各駅に10分間隔の各駅停車だけでは不足するという理解もあったのでしょう。

また、大井町線急行は二子玉川で渋谷方面の各駅停車と連絡します。このことで、渋谷(各駅停車)二子玉川(大井町線急行)中央林間方面という利用ができ、大井町線急行は渋谷方面の準急と同等の役割を果たしていることもわかります。

なお、各駅停車の半数を長津田発着にすることもできましたが、今回は全列車が中央林間発着です。このことで、乗客の多い渋谷-二子玉川よりも乗客の少ない長津田-中央林間のほうが本数が多いという現象が発生しています。長津田での折り返しを廃止することでオペレーションを統一したかったのでしょうが、やや不自然な感覚です。

終電の繰り上げ

線路の保守点検の時間を確保するため、終電が早まることになりました。従来の「人をかけて短時間で作業をこなす」方式から「人をかけないために、作業時間をかける」方式に変化するということです。

これに伴い、中央林間までの終電が0:23から0:01に(いずれも長津田で先行の各駅停車に乗りかえ)、長津田までの終電が0:32から0:10に鷺沼までの終電が0:42から0:25にだいたい20分程度の繰り上げされます。

仕事を経験した人であれば、作業時間に限らず、準備時間と終末時間は一定ぶんかかることはわかるでしょう。そのような意味で、線路点検の本作業に充てる時間が20分繰り上がるだけで作業性は大幅に改善することでしょう。

また、働き方改革などで終電付近の利用が減っているという社会的変化も見逃せません。「深夜特急」などの列車を設定して始発駅の時刻をあまり変えずに終電を確保する手もありましたが、今回はそのような措置はなされませんでした。

列車時刻から変化を探る

写真2. 最近はSDGsという概念も宣伝されるようになってきた

さて、列車時刻から変化を探りましょう。まずは、渋谷の発車時刻(平日のもの)を示して、どのような変化が生じているかを示します(表1)。

表1. 渋谷発車時刻(上段が改正前、下段が改正後)

田園都市線渋谷発車時刻

赤字は急行、緑字は準急、斜字は二子玉川で大井町線急行に連絡する各駅停車

基本的に日中時間帯を除いてダイヤは大きく変えられていないことがわかります。日中時間帯は別として、以下のことに気づきます。

・朝や夕方の中央林間行きの割合が減り、長津田行きの割合が増えている

・22時台の本数が減少し、23時台の速達列車が減少している
 ※22時台は各駅停車が毎時11本から毎時9本に減便(急行は毎時5本のまま)され、23時台は全体の本数は毎時14本を維持

・23時台以降の急行が準急に変更されている

社会情勢の変化で利用が減っていますが、朝夕は本数が維持されています。意地でも維持しようという意図なのでしょうか。そうはいっても、コストダウンは必要です。その主要なターゲットが末端区間の長津田-中央林間で、ここの本数削減に踏み切ったのでしょう。

22時台の本数減少も社会情勢の変化が理由です。(東急ではありませんが)東武鉄道では「23時以降はおおよそ40%減少」(※)と調査結果が示されています。23時前であっても減少率は変わらないことでしょう。

※緊急事態宣言ではない日付、同じ曜日、と比較的良心的な統計結果です。

なお、東急電鉄では17時台の本数増加をうたっていますが、実際には19時台からのシフトでしかありません。

日中時間帯のダイヤパターンの詳細な解析

写真3. 二子玉川で大井町線急行に接続

では、日中時間帯のダイヤパターンはどのように変わったのでしょうか。上で本数を示しましたが、もう少し詳細に解析します。

渋谷発時刻は美しい5分間隔です(渋谷着はそうではありません)。急行から急行までを1サイクルとすると、以下の順序で発車します。

急行 → 各駅停車(二子玉川で大井町線急行に連絡) → 準急 → 各駅停車(桜新町で急行の通過待ち)

準急は中央林間まで急行よりも先に着きますので、中央林間まで20分に3本の先着列車が設定されていることになります。

残念なのは準急の前の各駅停車が二子玉川で3分停車しているので、各駅停車に追いついてなかなか速度を出せないことです。これは、大井町線急行の発車すぐに発車できていないためです。大井町線急行が二子玉川発車後すぐに田園都市線の線路に転線するのではなく、溝の口手前で転線すれば解決する話です。ポイントの場所を二子玉川の下り方から溝の口の上り方に変更するべきです。

上りの渋谷着の順番は下りとは異なります。急行から急行までを1サイクルとすると、以下の順序で発車します。

急行 → 各駅停車(桜新町で急行の通過待ち) → 各駅停車(二子玉川で大井町線急行から連絡) → 準急

下りは渋谷断面で急行と準急を10分間隔で発車させることを、上りは急行停車駅で速達列車が等間隔でやってくることを意識したダイヤです。

毎時14本から12本に減らすとなると、過密ダイヤが緩和してスピードアップが期待できます。では、実際にはどうなのでしょうか。急行の所要時間を比べてみました。

表2. 日中時間帯の急行の所要時間の変化

方向 ダイヤ改正前 ダイヤ改正後
鷺沼 下り 20分 21分
上り 19.5分 19分
長津田 下り 33.5分 32分
上り 31.5分 31分
中央林間 下り 40.5分 41分
上り 39分 39分

おおむね急行の所要時間は短縮されていることがわかります。ただし、下りの中央林間までの所要時間はかえって伸びています。これは、急行の到着2分前に上りの各駅停車が発車しており、入線待ちとなるためと推定できます。中央林間の配線は1面2線でやりくりに苦労している場面が想像できます。

なお、準急の所要時間は上り44分、下り47分とダイヤ改正前後で変わっていません。

急行と各駅停車の緩急結合は従来通り鷺沼と長津田です。一方、準急と各駅停車は緩急結合はなく、通過追い抜きです。具体的には、準急は梶が谷と江田で各駅停車を追い抜きます。このため、渋谷から江田、市が尾と藤が丘への有効列車は急行とその次の各駅停車(大井町線急行に接続)です。つまり、有効列車が最大15分開くということです。

渋谷から二子新地と高津への有効列車も同様に思えますが、準急が大井町線各駅停車(二子新地と高津に停車)に接続するので、有効列車が15分開くことはありません。

東急田園都市線のダイヤ改正のまとめ

終電の繰り上げ、日中時間帯の「適正化」が目立った2021年3月ダイヤ改正。どちらかというと、マイナスイメージがつきまとうダイヤ改正です。しかし、そのなかでも朝ラッシュ時のスピードアップなどプラスな面もあります。

今後ともに、「余計な時刻調整」を可能な限り省いて、低コスト(=労働時間や使用車両数の削減)で利便性の高いダイヤ作りを目指してもらいたいものです。

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