三宮を迎えた五島は椅子に腰かける様に指示をした。
そして、諭すように語った。
「三宮君、多角化戦略は私鉄には必要だ。
しかし映画は駄目じゃな。
あの興行は合理主義等、全く通用する世界ではなかった。
俺も手を出して、半年もしない内に経営が行き詰まった」
「・・・」
「東映は何とか大川君のお陰で立ち直る事が出来た。
じゃが・・・
今後の展望はと言うと明確には出来ない。
来年度は売上幾ら幾ら等、数値が出せない。
幾ら名作を作りましたと言っても観て貰えなければどうにもならないからの」
三宮は大川の話が出た時は「ピクッ」としたが相変わらず無言であった。
「映画は経営では無かった。
あれは博打だったよ。
どの会社も業績が余り芳しくはない。
その様な映画会社が6社もある。
そんな中、もう一社増やしてどうするつもりだ?
潰し合いが増えるだけだぞ。
君もそんな事は解っている筈だろう?」
「彼ら(曾我や松尾)には義理があります」
この言葉に五島は激怒した。
「義理?
義理だと?
俺との義理よりもか?
お前は30年に及ぶ俺との義理より、昨日今日の義理を重んじるとでも言うのか!」
流石に五島を激怒させた事に三宮は我に返った。
「も、申し訳ございません。
会長との義理とは比べるべくもありません。
私が間違っておりました」
「お前は事の重大さを全く解っていない様だな。
そんな事は絶対に出来ないし、やったら取り返しのつかない事になるぞ!
日本中の私鉄が大混乱になる。
その私鉄全てを京王帝都は敵に廻す事になる。
もう少し思案が出来るかと思っとったのじゃが・・・」
そう言うと五島は席を立って出て行ってしまった。
表向きには日映への出資を断念したとき三宮は失踪騒ぎを起こすが、義理固い人物であり、騒動収束のためきちんと曾我や松尾と対面し、謝罪の上で京王社長を引責辞任することになったと伝えらている。