【前面展望席&クロスシート】京急1000形20次車!1890番台1891-編成落成

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京急電鉄の新1000形は2001年度より20年近く製造が続けられています。

今年の新造車両も1000形ですが、外装・内装ともに従来車両とは大きく異なる“1890番台”として開発・製造が進められており、事前に発表されていたプレスリリースなどで注目を集めていました。

2021年3月3日夜(4日未明)、1891-編成が総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所を出場し、久里浜車両管理区に併設されている久里浜工場(旧:京急ファインテック久里浜事業所)まで試運転を兼ねて回送されています。

個性豊かな京急1000形

京急電鉄1000形(二代目)は、2001年度(2002年)より導入が続いている京急電鉄の最多両数を誇る主力車両です。

年次ごとに細部の改良が施されているほか、何度か車両の印象を大きく変える設計変更が施されており、初期の車両と現在導入されている車両では別形式のようなバリエーションの多さが特徴的です。

当初導入された1次車〜2次車では2100形に引き続き“歌う電車”として親しまれるドイツのシーメンス社製のVVVFインバータ制御装置を搭載した点が特徴的ですが、この走行音は機器更新で数を減らしています。

その後導入された3次車では走行機器の見直しでIGBT素子のVVVFインバータ制御装置となりましたが、こちらも当時の京急の“輸入物”積極採用の流れからかシーメンス社製のものを採用。600形4次車から続けられていた1M1T構成から、従来の京急車に多かった3M1T構成に逆戻りしています。

4次車・5次車では京急では初のフルカラーLEDの行先表示器の採用が目立ちました。後に在来車両にも波及しています。

そして、1000形にとって最大の変化となったのは2007年3月に姿を現した6次車・1073-編成でした。

1500形の製造途上で鋼鉄製からアルミボディに変更して以来、一貫してアルミボディに塗装をしてきた京急でしたが、この6次車よりステンレスボディに広い面積のラッピングを施すスタイルに変更されました。

走行機器類も抜本的に見直され、それまでのトレンドとなっていた輸入品の機器類構成を脱却して、主要機器も国産品が採用されています。

5次車までの車端部ボックスシートや、運転台直後の座席といったファン人気の高かった特徴も廃され、ドアもステンレス化粧板なし。当時は熱烈なファンが多かった京浜急行ですが、「安っぽい」「京急の電車に相応しくない」など、デビュー当時のファンからの不人気っぷりは相当なものでした。

この時点で8両編成は6M2T構成を維持しつつ、4両編成は中間付随車を2両挟むことで設計変更を最小限とすべく4M0T構成となりました。京急では久々の全電動車構成です。

逆風をよそに着々と増備は進行していき、2010年度では同年開業した成田スカイアクセス線対応の10次車が登場。600形以来となる京成電鉄の停車駅予告装置や液晶ディスプレイ方式の車内案内表示器を搭載しています。

次に印象を大きく変えたのは、2015年度に導入された15次車1800番台です。

従来は編成間非貫通とされていたこの形式で、初めて非常用ではない前面貫通扉を設けることで、4+4両の8両編成で地下鉄直通運用など8両固定編成同様の運用に充てられるよう改良されています。ただし、この機能はデビュー当初に少し運用された程度で、以降は一般の4両編成同様に扱われています。

この1800番台では、従来車と異なり側面をフルラッピングとして塗装車に近づけた外観とされました。この側面デザインは翌2016年度の16次車で8両編成・6両編成にも反映されています。

このデザインの変更が内外で好評だったのか、更に2017年度からは、ステンレスに塗装を施して更に「京急らしさ」を追求した外観となりました。これにより、関東では初・全国でも珍しいステンレス塗装車が登場しました。

1890番台の製造と運用計画

2020年度の京急電鉄の新造車両は8両であることは移動等円滑化取組計画書(バリアフリー推進のため、国土交通省に提出・一般公開されている)により判明されていましたが、その後設備投資計画により1000形4両2編成であることが判明していました。

今回登場した1890番台については1月中旬に総合車両製作所横浜事業所内で製造されている姿がネット上に流出。追って1月19日には、不法侵入をしないと撮影出来ない場所からの写真を公開したWEBサイトにより広く知れ渡ることとなりました。

翌日には京急電鉄から、製造中の姿という画像とともにその計画が明かされました(プレスリリース)。

これによりアナウンスされた1890番台では、従来の1000形とは外装・内装が刷新されており、大きな注目を集めることとなりました。

この車両では「デュアルシート」と呼ばれるL/C可変座席(ロングシート・クロスシートが変えられる車両)が採用されています。

関東大手私鉄だけでも東武鉄道50090型「TJライナー」・70090型「THライナー」、西武鉄道40000系「S-TRAIN」・「拝島ライナー」、東急6020系「Q-SEAT」と幅広く採用されていますが、関東大手私鉄で着席サービスを古くから実施していた京急電鉄では意外にも初採用です。

京急電鉄の3扉クロスシート車としては現在も活躍する600形(3代目)で採用実績がありました。

この600形では、2列と1列を切り替えられる「ツイングルシート」という独自機構を搭載した先進的な車両でした。しかし、その後はその取り扱いの煩雑さから4次車から一般的なクロスシートで製造して在来車も固定扱い、更に混雑対策でロングシート化をした苦い経験がありました。

なお、3扉クロスシートという車内レイアウトの制約(ドア間3列・車端部2列)に加え、ほとんどの車端部にはフリースペースなどを設けたため、座席定員は4両でわずか128名とされています。8両で539席とされる2100形の2両分にも満たない座席数です。

ドア間以外についても、ステンレス化の際に廃止された運転台直後の「前面展望席」復活をプレスリリースでわざわざ記載している力の入れようが興味深いところです。新1000形アルミ車もロングシートでしたので、本格的に前面展望を楽しめるのは600形・2100形以来の設備です。

そして、京急電鉄ではフラッグシップの2100形でも採用されていなかったトイレ設備を初めて設置しています。しかも、車椅子対応の大型トイレに加え、男子用小便器を設けた潤沢な構成です。

この1890番台の活用の1つに、貸切列車があります。

京急電鉄では以前よりビール列車などの喫食をするイベント列車・貸切列車を多く運行してきました。座席構成も柔軟で、4両と小回りも効くこの車両にトイレ設備を設けることで、今後のこれらの列車での活用の幅が大きく広がります。

また、その後に発表された定期運用についても長距離のwing号であることを考えると、あって困る設備ではありません。ただ、座席定員・路線長を考えると、新たに汚物処理をする環境を設けてまで導入したことは、かなりの大判振る舞いに感じます。

以上の設備、いずれも京急ファンにとってはかなり“熱い”設備となっています。トイレ設置などはファンの空想より“吹っ飛んだ”車両にも思えます。

このほか、ファン目線では引き続き車体が塗装となっている点や、前面ライト形状の変更などが目に留まります。

一般利用者目線では、抗菌・抗ウイルスの座席生地の採用や吊り手の改良、監視カメラの設置などより安心して乗車できる工夫が凝らされています。

久々の深夜出場

京急電鉄の新造車両は、自社の金沢八景駅から総合車両製作所横浜事業所まで線路がつながっているため、自走での出場回送が基本となっています。

川崎重工業など他社で製造された車両についても、線路幅の違いから一旦同事業所に取り込んで輸送用の仮台車から本台車に履き替える方法を採用しています。

乗り入れ先の都営・京成などの出場回送は夕ラッシュ後に実施されますが、京急車については日中時間帯に出場する車両がほとんどです。

今回の1890番台1891-編成は終電後の出場でしたが、これまでも例外的に夜間に出場する事例が存在していました。

2015年にPMSM(永久磁石電動機)の試験採用となった1367-編成が、2016年にはSiC(炭化ケイ素)素子のVVVFインバータ制御装置を初めて採用した1177-編成が製造されており、この両編成は京急電鉄の終電後の出場となりました。

両編成とも従来車両と走行機器構成が変更されていることが特徴で、誘導障害が発生する可能性があっての措置と考えられます。

「誘導障害」:鉄道においては、車両の走行機器から発せられる「電磁誘導」により信号機・踏切・保安装置などに影響を与えることを示します。機器の相性によってこれらの条件が変化するため、「誘導障害試験」と呼ばれる深夜試運転を重ねることが通例となっています。

今回の1890番台の走行機器類についてはプレスリリースでは特段記載されていません。

走行音からは1800番台などに近く、フルSiCとなっていた1177-編成〜1200番台などとは異なる構成と思われます。

夜間ゆえに細部の機器は不明ながら、先頭電動車がマストの京急では珍しく先頭車床下機器が少なく、中間車に機器が集中していました。

従来の1800番台は6両化を想定して全車電動車の構成でしたが、その必要がない1890番台では構成が見直されてたことは妥当にも思えます。

なお、横浜事業所からの出場は長年に渡り火曜日・木曜日のいずれかという傾向があるものの、京急と直通先の自走出場についてはこの慣例から外れます。

出場した1891-編成を見る

今回落成したのは、京急(新)1000形1890番台の4両です。

従来の付番規則とは異なり、1891-1,1891-2,1891-3,1891-4と付番されています。

この付番方式自体は京急電鉄でも600形や800形で実績があり、乗り入れ他社でも都営5300形や5500形、京成・北総・公団の最近の車両などが4桁+号車の5桁で採用されています。

ただし、形式内で付番方法を改めた事例はかなり特異と言えそうです。桁数が変わった事例は国鉄貨車や東武8000系などで見られますが、従来車の規則を踏襲したものでした。

京急1000形の外観は、これまでアルミに塗装→ステンレス→ステンレスフルラッピング→ステンレスに塗装と推移していました。この1890番台では引き続きステンレス塗装ながら、車体自体がレーザー溶接を使用した凹凸が少ない構体となっています。

総合車両製作所「sustina」シリーズで多く採用され、最近導入が進むJR東日本E235系や東急2020系など、最近開発・製造されているステンレス車両で多く採用されています。

凹凸が少なく艶やかな車体は1000形のアルミ車のようにすっきりした印象を受けます。

個性的な点は前面灯火にもあります。

従来の京急車では、600形・2100形・1000形と、細部寸法こそ異なりながらも“バルーンフェイス”と通称されるデザインが継承されていました。

800形や旧1000形の急行灯と後部標識灯を兼ねた機能・形状をリメイクしたものと推察できますが、従来の前面形状が定着していますので強烈な違和感を覚えます。

また、前面では車号プレートの表記も気になります。

従来の京急車では、切り抜き文字〜切り抜き文字風のステッカーとなっていましたので、プレートで車号を取り付けている車両は斬新です。特に前面については600形以上に文字が小さくなっており、視認性が悪い……と思いきや、意外としっかり車号が確認できます。

そして、1800番台の特徴である編成間貫通の前面形状も健在です。出場試運転では幌も設置された状態で運転されており、印象的でした。

車体構成としてはトイレの設置が特徴ですが、JRの近郊タイプの車両同様に非設置側には通常の窓が配置されています。

乗り入れ先では京成電鉄でスカイライナーにお手洗いの設備がありますが、このうち唯一地下鉄への乗り入れを想定されていた2代目のAE100形が都営浅草線を走行した経歴があるものの、回送列車での運行でした。

このため、当面はなさそうですが、仮に営業列車で都営線直通に充てられた場合は、都営地下鉄で初めてトイレ付きの列車が運行されることとなります。

また、車内設備の大きな特徴であるL/C可変座席はロングシートモードでも目立つ背もたれが特徴的で、出場試運転ではカーテンが下ろされていたものの、ドア窓などからクロスシートモードで出場したことや、その形状を見ることができました。

このほか、従来は日英交互表示の細長い行先表示器でしたが、1890番台では縦幅が大きく拡大されています。日本語が固定表示・下側に英語〜中国語〜韓国語の交互表示とされており、空港アクセス路線に相応しい仕様となりました。ただし、前面については従来車をトレースしています。

1890番台のチャームポイントは、自慢の“前面展望席”でしょうか。このような特殊な寸法の窓は初めて見ましたが、戸袋窓がない基本設計のなかでなんとか窓を設けようという苦肉の策という印象が拭えません。

ここに座る旅客は前で景色を楽しめばよいとはいえ、はたしてこの側面窓からどれだけ外の景色を見ることが出来るのかは疑問符がつきます。

床下機器や走行音などは動画でご確認ください。少なくともブレーキ緩解音が従来の京急車とは異なり、JR東日本の最近の電車辺りに近いものとなっています。

2021年5月6日デビュー予定

今回登場した1890番台は、2021年5月6日より「モーニング・ウィング3号」の三浦海岸駅・横須賀中央駅乗車用の号車としてデビューする計画とされています(プレスリリース)。

従来のウィング号は全て2100形8両で運行されていましたが、同日からこの列車に限り三浦海岸〜金沢文庫駅間を1890番台4両・金沢文庫駅〜品川駅を12両で運転する体系となります。

前後する格好で貸切列車での営業運転に期待が持てるほか、やはり間合い運用でロングシートモードでの運行があるのかが気になるところです。

それまでは性能確認などの目的で試運転をする姿を見かけることが出来そうですが、完全な新形式でない以上は乗務員訓練などは考えにくいでしょうか。

ファン目線ではかなり夢がある車両ですので、今後の展開に期待したいですね。

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コメント

  1. ゑ舵 より:

    >これらの構体で更に車体塗装という組み合わせは初登場となるかと思われますが
    レーザー溶接を用いたsustina車両で車体塗装されているのは、sustina S24シリーズの相鉄12000系で実績があります。