阪急京都線特急の指定席 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

既報の通り、阪急が京都線の特急に有料の指定席を設ける方針であることが明らかとなりました。朝日新聞2021年2月17日号によれば、「専用の電車を設けるか、一部の車両を有料の指定席にすることを検討している」とのことです。

気になるのは、「専用の電車」と「一部の車両」の違いです。一般的には「電車」と「車両」はほぼ同義で用いられますが、ここでの「電車」は「列車」、すなわち編成を指しているのではないでしょうか。「一部の車両」は各編成中の何両か、と解釈するのが自然なので、「専用の電車」とは指定席車だけで編成された列車を用意するという意味だと考えられます。

しかし「専用の電車」はつぶしが効きません。他社の例を見ても、輸送力が小さいこの種の列車は、少なくとも朝ラッシュのピーク時には運用から外されるのが常です。先の新聞記事では、阪急の角和夫会長が「通勤時間帯にゆったりと仕事をしながら移動してもらうというのは、今の時代に悪くない」と述べていますが、その方針を十分に満たすのは難しいでしょう。

コスト面から考えた場合、指定席列車を新造せず6300系「京とれいん」を充てればリスクが低くなりますが、自慢の3・4号車の和風ボックスシートは通勤輸送に向きません。

 

また、検査時には7000系「京とれいん雅楽」を代走させることになるでしょうが、こちらは「京とれいん」に輪をかけて通勤輸送に不向きです。座席定員が少ない上に、シートによって座り心地が違いすぎるのです。特に2・5号車は、「坪庭という名のデッドスペース」を三密回避の観点から受容するとしても、座席は粗末なロングシートであり、通勤車両のほうがよほど豪華です。追加料金を徴収できる代物ではありません。

話をダイヤに戻すと、待避可能駅の密度が低い阪急京都線は、朝ラッシュ時に列車を増発する余地がほとんどありません。JRは言うに及ばず、京阪本線と比べても不利です。京阪を阪急京都線と比較する場合、枕詞のように「線形の悪さをサービスでカバーする」という表現が冠されますが、都市鉄道の第一条件は線形ではなく、線路容量です。

京阪本線は龍谷大前深草から香里園まで、正確に3駅に1駅の間隔で待避駅を備えています。次駅の寝屋川市が相対式ホーム2面2線であることが最大のネックですが、もう1駅先の萱島から天満橋までは関西の私鉄で最長の複々線が続きます。線路容量では阪急よりはるかに優れているのです。

京阪は、さすがに最ピーク時は避けているものの、朝ラッシュに全車座席指定の淀屋橋行き「ライナー」を走らせていますが、これも線路容量の大きさが成せる技です。加えて、朝ラッシュ時の混雑に耐えられず本来の運用に就けない8000系特急車を有効活用するという意味合いもあります。

では、輸送力の面で阪急が京阪より有利な点は何でしょうか。それは「連結両数」です。京阪の最大連結両数は8両ですが、阪急京都線の特急・通勤特急・快速急行の停車駅はすべて10両編成が停車できるホームを備えています。これを生かさない手はありません。

京阪は8000系の6号車を一旦引き抜いて改造し、3000系では新造車と差し替えて「プレミアムカー」を連結しましたが、阪急はそんな苦労をせずとも「増結」すれば済むのです。京都線で10両運転を行っているのは朝ラッシュ時の快速急行3往復だけであり、特急や通勤特急はすべて8両編成です。そこに増結するのであれば、それがどんなに定員の少ない指定席車であろうと、輸送力が低下する心配は皆無です。

 

しかも、京阪が成し得ていない「朝ラッシュ最ピーク時の指定席提供」が実現するのです。全車座席指定列車を走らせるのと、どちらの費用対効果が高いかは比べるまでもありません。



阪急京都線の9300系特急車

 

問題は「どこに連結するか」と「何両連結するか」です。まず前者についてですが、連結対象は9300系で異論はないとして、一部には大阪梅田側の先頭に連結すべきという意見があるようです。しかし、歯に布着せぬ表現が許されるなら、これは「言語道断」です。

 

大阪梅田のような巨大ターミナルにおいて、最も便利な位置に指定席車を連結するなどは、追加料金が支払われてもなお受け入れ難いものです。編成単位でみれば指定席車から得られる収入など、料金と運賃を合計しても微々たるものです。それを優遇し、大多数を占める一般車の利用客に不便を強いるのはあり得ない話です。

 

この点を誤ったのが、南海の空港特急「ラピート」です。「ラピート」は全車指定席で、横4列のレギュラーシート車4両と横3列のスーパーシート車2両から編成されていますが、あろうことか便利な難波側にスーパーシート車を配置してしまいました。

「2014 HAND BOOK NANKAI」を基に算出すると、インバウンド華やかなりし頃の2013(平成25)年度でも、「ラピート」のレギュラーシートの平均乗車効率47.7%に対し、スーパーシートはわずか9.4%に留まっています。当時の料金は前者が510円、後者は720円でしたが、その差額の210円を満たすだけの付加価値が認められなかったということです。

 

他社線から難波の長い通路を抜けてようやく正面の改札口にたどり着いても、レギュラーシートを利用するには最低でも2両分、約40mは余計に歩かなければならないことになり、これが「ラピート」の競争力を低下させていることは間違いありません。対策については「南海本線の特急政策(2)」の記事をご参照ください。

 

この事例からしても、阪急の場合は指定席車を京都河原町側の先頭に連結するのが妥当です。大阪梅田で他社線に乗り換えるには不便ですが、これはやむを得ません。

 

一方で、編成の端に指定席車を置けば、車掌室によって一般車両と遮断されるので、京阪の「プレミアムカー」のようにアテンダントを常駐させる必要がなくなります。もちろん、サービス向上の観点から任意に乗務させるのは構いませんが、それを自由に決められるのは大きなアドバンテージであり、人件費の削減も容易になります。

最後に連結両数ですが、以下の3パターンが考えられます。

1) 指定席車を2両連結する
2) 指定席車と、9300系に準じた自由席車を1両ずつ連結する
3) 指定席車を1両連結する

まず1) ですが、京阪の「プレミアムカー」の実績から考えても、供給過剰となる公算が大です。指定席車は各編成に1両で十分でしょう。

利用客にとって最も恩恵が大きいのは2) です。ただし、自由席車を増結すればその分だけ混雑が緩和され、指定席車の乗車効率を低下させる方向に作用します。阪急も私企業である以上、自分で自分の首を絞めるような真似をするべきではありません。

以上から、消去法で3) が残ります。9300系全11編成と、予備として1300系1編成の京都河原町側に指定席車を1両ずつ連結するのが望ましいという結論になります。御堂筋線との接続駅であり通勤特急の停車を検討すべき南方のホーム延長の限界が9両分である点から考えても、これが最適解だと思われます。

 

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