地域輸送の経営改善と運賃の見直しについて | 鉄道きさらんど

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いつも列車・バスなど公共交通の事ばっか考えてます。

(大手事業者のローカル線や地方の中小鉄道事業者の経営改善の一環としての運賃値上げ論議について)

 

・運賃見直しというと普通運賃の水準がどうなるかばかり取り上げられるが、定期券の割引率の見直しも必要だろう。特に通学定期は安すぎる。高校生の通学に必要だからだが、それは事業者自身が減収を辞さないで行われる割引という「経営努力」だけに頼らず、沿線自治体(教委)が高校生の家庭の家計を補助するための助成金を出すというような負担をするという形で生徒(の家族)の支払額を割り引く形に持っていくべきだと思う。

 

・通勤も通学も朝ラッシュ時に輸送力のピークを迎え、(今は時差通勤があるとはいえ)ピークの時間帯に一斉に乗る通勤通学での利用者は基本的にみな定期券で乗っている。そのピークの需要を捌くために車両や設備の改良による輸送力増強の投資、乗務員や駅員の雇用という形で事業者が負担しているが、通勤通学ラッシュに乗る客は定期券という割安価格で毎日乗っている。

 

・中でも国鉄は政策的配慮で割引率が高かった。角本良平によると国鉄時代は、「通勤一カ月について京都市の地下鉄は三割しか引いてないのです。国鉄は、国鉄なるがゆえに五割あるいは五割以上引くという法律が」あったという。

 

 

・これが通勤輸送に多額の投資をして乗客を増やそうとしても国鉄が破綻した一因ではないか。今はJRには法律でこういう縛りはないが、一番輸送力増強にコストがかかる通勤通学輸送の客の負担が見合っていないというのはJRでも民鉄でも大なり小なりおなじだろう。

 

・で、定期外の客は近距離でも遠距離の利用でも企画切符などはあるものの通常の運賃で乗る客が多い。特に中長距離利用はJRと一部の大手私鉄(有料特急や観光列車のない通勤輸送に特化した事業者以外を指す)は実質的に都市間移動をするためには運賃以外に特急料金・指定料金・特別車両料金を払っていてこれが鉄道会社の収益源となっている。JR東日本出身の福井義高は「それほど維持更新にコストがかからない在来幹線の都市間輸送利用者からたくさん取って、設備・車両に負荷をかける都市圏の通勤利用者には割安サービス提供するというのは、公平性だけでなく、価格弾力性の観点からいっても大いに疑問です」(『鉄道は生き残れるか』中央経済社231頁)と批判しているが自分もそう思う。

 

・コロナ感染リスクだけを考えればリスキーであろう県またぎ広域移動を誘発するGOTOトラベルは鉄道事業者救済のために行われたのだろう。観光、GOTOの対象ではないが出張などオンラインで済ませればいいじゃないかと追う人もいるが、不要不急そうな広域移動でもJRや大手私鉄の優等列車で移動すれば利益率がいいお客さんが増えることになるから、定期券利用の学生やエッセンシャルワーカーの通学や通勤の足を維持するために、特にJRの経営に助け舟を出すにはたくさん金をとれる新幹線や特急などの利用を誘発する政策が必要だったのだろう。

 

・しかし、GOTOも世論の反対で中断を余儀なくされ、再びJR各社は一時帰休、あのJR東海でさえも一時帰休と東海道新幹線の臨時列車運休による実質的減便をするありさまである。民鉄でも例えば近鉄は観光利用が減り稼ぎ頭の特急は減便。必要至急な通勤通学の移動での足を維持するためには国や自治体が通勤通学輸送に要るコストを負担するという形で定期券の割引の分の事業者の負担を補填してやっていくしかないかもしれない。