【600形の失敗克服なるか】京急1000形20次車のクロスシート採用を考察

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既に公式リリースをされているように、京急電鉄が2020年度に導入する4両2編成の1000形は1890番台が付与され、ロングシートとクロスシートに変えられる「L/C可変座席」と通称される座席を搭載しています。

既に近鉄・東武・西武・東急と実績が多い方式ですが、京急電鉄では独自の機構で似たようなチャレンジをした歴史があります。

600形では3扉の可変座席を採用するも……

京急電鉄では、1500形の後期車・1700番台としてGTO素子のVVVFインバータ制御を搭載して製造されていましたが、新たな地下鉄直通の看板車両として新たに600形を導入しました。

「バルーンフェイス」などと通称される、現在まで文字通り「京急の顔」となるエクステリアデザインを初めて採用した形式です。

この車両は8両8編成・4両6編成が製造され、8両編成については現在も地下鉄直通の「SH快特」を中心に運用されています。

8両編成のラストナンバー608編成と4両編成の650番台が付与されたグループはその後製造される2100形を意識した「4次車」となり、走行機器構成が大きく変えられています。

さて、600形は登場当初、全席がクロスシートとして製造されました。

このうち、1〜3次車となる601〜607編成では、ドア間のクロスシートを一般的な2列構成・混雑時には1列構成で立ち席スペースを広く取れる「ツイングルシート」という独自の機構を採用しました。

今回話題の1890番台に近いコンセプトですが、故障や保守の煩雑さ・座り心地の悪さから4次車では一般的なクロスシートとされたのち、ツイングルシートの固定化、そしてその後はロングシート化が進められることとなりました。

「ツイングル600」の愛称で独自機構を採用した600形は同社にとっても乗り入れ先にとっても不都合の多い“失敗作”となってしまいました。

プレスリリースから考える1890番台

2020年度の京急電鉄の新造車両は8両となることは事業計画で明示されていましたが、この構成が4両2編成となることは「移動円滑化取組計画書」に記されていました。

今回のプレスリリースでは、新造されている1000形20次車が前面形状の変更・前面展望席の復活、そしてロングシート・クロスシート可変座席の採用とトイレ設置という従来車とはかけ離れた仕様で製造されていることが明らかにされました。

前面形状は1800番台の貫通顔を踏襲しつつ、先代の1000形のような灯火形状に変更されているほか、1800番台としては初となるステンレス塗装車。そして、アルミ→ステンレス→ステンレスフルラッピング→ステンレス塗装と変化してきた1000形ですが、初めてのレーザー溶接を多用した今時の車体設計に変更されています。

内装面も車端部2列・ドア間3列のクロスシートが並べられて、京急では初となる多機能トイレに加えて男性用トイレまで設けられています。西武秩父から元町・中華街まで10両1箇所のトイレとされた西武40000系の事例やJR東日本の近郊タイプの車両を考えても、かなり贅沢な仕様と言えます。

コンセントが設けられたことで、用途によってはフラッグシップの2100形以上の設備と言っても差し支えないでしょう。

そして、付番方式についても1891-1〜4・1892-1〜4とされています。京急の車両は千の位が0・1・2とされており、これは乗り入れ先の京成が3・都営が5・北総が7・公団が9……と被らないようにしていたことが背景です。

筆者個人としてはいよいよ使途が異なるなら2200形を名乗ってもいいような気がしますが、京急の“2”は2扉クロスシートの由緒ある系列ゆえに避けられたのでしょうか。

京急では800形や600形でハイフン付きがありましたが、5桁表記は自社では初となります。ただし、乗り入れ先の東京都交通局や京成グループで4桁ハイフン号車の5桁番号は採用実績があるため、特段問題は無さそうです。増備途中で桁数が増やされるのは“インフレナンバー”の東武8000系や国鉄貨車のようなイメージでしょうか。

もちろん本命は貸切列車

プレスリリースでも明言されているように、この車両の用途として最も適任なのは貸切列車運行でしょう。

ビール列車のような飲食をメインとした列車でトイレがないのは不便ですし、ロングシート構成の方が都合のいいイベント列車の用途もあります。4両・8両貫通と柔軟な編成構成が強みである1800番台の発展系として適任であることは間違いありません。

ただし、この用途自体は時折発生するものであり、これだけのために専用車両を開発したとは考えにくいところです。

この用途がメインであれば2編成あれば十分に思えますし、そうであれば1891〜1898という従来の付番体系で賄えます。

そのため、表向きの主目的は貸切列車としつつも、中長期的にはそれ以外の着席サービスでの運用を選択肢に入れていることと推測できます。

2100形の代走は困難

さて、今回登場することとなる1000形20次車。その独特な外観とともに、付番規則の変更・そして京急電鉄としては初めてのL/C可変座席採用となり、導入意図で様々な憶測を招いています。

まずはwing号などの京急2100形の後継車両としての活用ですが、座席定員があまりにも異なります。

2100形は先頭車50席・中間車54席(いずれも補助席を除く)となっている一方で、今回登場する1890番台についてはドア間6席・車端部4席構成。トイレ・フリースペース・車椅子スペース・運転台・ドアと座席定員は大幅に下がっており、1両あたりの座席数は30席程度でしょう。収容力が大きく異なるため、2100形の代わりとは言えません

もちろん、長期的な車両故障で運休するよりは定員が少ない1890番台を充てた方がマシ……という要素はありそうですが、少なくとも販売システムの改修など手間は大きく、突発的な代走は困難でしょう。

ただし、日常的に発生している日中のA快特の代走には登板可能です。10編成配置・8編成運用という2100形では、朝夕の有料列車を優先しており、日中の快特運用には一般の8両編成を一部に充てています。

今回のプレスリリースでは無料列車ではロングシートモードと読み取れますが、せっかくであれば4両普通車・増結車のような地味な運用ではなく、8両クロスシートモードで看板列車としての運用に期待したいですね。

モーニングwingの12両化?

さて、先述のように基本的には2100形の代わりは務まらない印象ですが、もしも有料のウィング号を増結するのであれば別です。

wing号の原点となる夕方下りのイブニングウィング号は12両編成非対応の品川駅3番線始発であり、発車ホームを変えてまで12両編成での運行とすることは考えにくいです。

一方で、朝のモーニングwing号は5号が泉岳寺駅行きとなっているほか、ラッシュのピーク直前に運行される3号はかなりの人気です。

朝ラッシュという運行時間帯を考えるとこれ以上の増発は困難かと思いますので、増結が選択肢に入ってくることは自然な流れと言えそうです。

金沢文庫駅や品川駅で増解結作業という煩雑さが増える一方で、ウィング号の着席定員増加というメリットがあるならば新車両を開発したことの辻褄も合います

そして、2列車分の増結車を繋げて下りの快特や特急、または回送で戻せば運用上のデメリットもあまりなさそうです。

……この辺りが京急の現状を考えると現実的な使い方でしょうか。車両の仕様が大きく異なる車両が混結して優等列車で使用される事例はJR西日本の281系と271系の例がありますが、もし実現するとしたらサービスレベル格差が気になるところです。

将来的には京急品川駅の移転工事が完了すれば2面4線・12両編成対応となることから、1890番台が“化ける”可能性自体は捨てきれません。

この頃には2100形の世代交代も検討されるでしょうから、次世代車もトイレ付きの貫通顔で製造、12両で2箇所のトイレで編成貫通……とすれば、設備を持て余すこともなさそうです。

少なくともモーニング全列車・イブニングの人気便の12両化を進めるべくもう数編成程度増備を見越しており、そのために新たな付番方法となるハイフンを含めた5桁方式を初採用としたものと推察できます。

2020年度としては4両2編成となっており、まずは3号または5号1列車で暫定投入、次年度以降増備が続けばモーニングウィング号全体の運転体系が変わってきそうです。

乗車時間が長い三浦海岸駅・横須賀中央駅の乗車分をトイレがある1890番台に押し込み、金沢文庫駅・上大岡駅乗車分を2100形として定員増加……といった活用も考えられます。

ただし、品川駅以北への乗り通しができないというデメリットを考えると、編成貫通もできないこの構成では、やはり何かと使い勝手が悪そうな印象が拭えません。

1/27にダイヤ改正概要が発表され、上記のモーニングウィング3号の12両化・金沢文庫駅以南を1890番台による運行という推測の通りの運行体系が発表されました(公式リリース)。

ファンとしてはアクセス特急・エアポート快特に期待したいが……

ファン目線としてやはり期待したいのは4+4の8両編成として羽田空港〜成田空港間のアクセス特急・エアポート快特としての運用でしょうか。

せっかくのトイレ設備を生かすなら、やはり長距離運用に期待したいところです。

しかし、現状としては4両2編成で予備車が用意できないこと、京成側はロングシートどころか荷物置きのために座席格納が出来る3100形の導入を進めていることを考えると、日常的な運用は現実的ではありません。

ベースとなった1800番台がアクセス特急として乗り入れた実績があり、イベント列車として乗り入れを行う可能性こそあります。

そもそも1800番台はデビュー直後に乗り入れて以降はアクセス特急どこか地下鉄乗り入れの運用にすら入っていません。このため、ロングシートモードで乗り入れるかどうかさえ怪しいところです。

以上のように、アクセス特急はおろか泉岳寺駅以北への入線だけでもクリアしなければならない課題があまりにも多く、当面は考えにくいでしょう。

京急の車両は個性的なものが多いですが、挑戦的な機構を採用しては失敗することも少なくありません。今回登場する1000形20次車が吉と出るか、凶と出るか。ひとまずは落成からデビューまでを見守りたいところです。

総合車両製作所(J-TREC)は構内撮影禁止

最後に、念のために記しておきますが、現在この車両が製造されている総合車両製作所については、構内撮影禁止となっています。

各社の新形式のプレスリリースは車両の落成という、比較的話題性が高くタイミングで出されることが最近の主流となっています。

2020年度だけでも、東京メトロ18000系と都営6500形は車両工場から出てくる2日前。最近話題のJR東日本GV-E197系電気式事業用気動車は陸送最終日=甲種輸送前日です。

何年も前から計画し、何十億円もの費用をかけて製造した自慢の工業製品ですので、広報戦略もしっかり練られていることは容易に想像がつくかと思います。

そのため、ほとんどの車両メーカーが構内の撮影を禁じています。テレビなどの取材が入る時でさえ、モザイク処理や画角調整などがされることが多いです。

近年ではSNSの進化の弊害として、これに理解のない稚拙な者により画像流出という極めて残念な事象が発生しています。

今回の1890番台についても、Twitterやアフィリエイトサイトで製造中の姿が流出した直後に出されており、そのタイミングから急遽プレスリリースを打ったことと推測できます。

総合車両製作所・京急電鉄にとっては損害となる事象ですので、少なくとも民事で膨大な費用が請求されて然るべきでしょう。

特に、この総合車両製作所の画像流出については「立ち入りはご遠慮ください」と看板で明示された私道から撮影されています。

刑事面での問題も挙げられますので、被害を受けた2社は今後のためにも動き始めているかもしれません。

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