KSWeb

鉄道やバスなど、公共交通に関するディープな話題をお届けしています。

etc...

エトセトラ

2021.01.21

京急電鉄では、2020年度に新造を予定してた4両編成2本分について、デュアルシートを装備した新1000形1890番台を新たに導入することを発表した1)。プレスリリースなどからこの1890番台がどういった車両なのか考察してみよう。

Z18911.jpg

京急新1000形1890番台 イメージ

▲春より運行開始予定の新1000形1890番台。1800番台をベースとしながらも、デュアルシートを装備した新たな車両が登場することになった(画像は京急公式HPより)

まずは、1890番台についてプレスリリースで明らかになっていることを整理しておこう。大雑把にまとめると以下のような感じだろうか。

  • 形式は新1000形1890番台
  • 4両編成で、1891-1〜1891-4、1892-1〜1892-4、・・・というふうに付番。
  • 自動回転式シート(L/C腰掛、いわゆるデュアルシート)を採用。
  • 2号車にバリアフリー対応の洋式トイレを、3号車に男性用トイレをそれぞれ設置。
  • 防犯カメラを設置。各座席にコンセントを設置。
  • 乗務員室後方に前面展望席を復活。
デュアルシートを採用した1890番台

2001年度より製造が続いている新1000形。2006年度にはステンレス車、2015年度には前面貫通構造の1800番台が登場、2017年度の17次車からは塗装が復活するなどもはや同一形式とは思えない大きなマイナーチェンジを繰り返している同形式だが、製造20年目にしてまたまた驚きの新仕様が登場するようだ。自動回転式シート(いわゆるデュアルシート)を備えた1890番台である。

Z18912.jpg

京急新1000形1890番台 イメージ

▲車内のイメージ。2人がけの回転式シートが並ぶ(画像は京急公式HPより)

クロスシートについては2100形の存在がありながらも、1890番台でデュアルシートを採用した理由は、平常時はロングシートで運用しながら座席指定列車や貸切イベント列車などフレキシブルな運用にも対応するためとのこと。もとより京急には1800番台という線内のローカル運用から直通運用までをこなすマルチプレーヤーがいるが、1890番台は番号的にもそれをさらに発展させた存在と言えそうだ。

デュアルシートは扉間に3脚、車端部に2脚の設置であることがイメージから分かる。ただ、扉間に8人がけ、車端部に5人がけのロングシートを標準としている京急において、扉間6席、車端部4席というのはいささか少ないような気がしないでもない。ロングシートモードで一般の運用に入れた場合に、座席の少ないハズレの車両になってしまわないか心配である。

このほか、座席に関しては乗務員室の直後に前面展望席を設置することが明らかにされている。新1000形ではステンレス車から乗務員室直後の座席が廃止されていたが、デュアルシートの採用やフリースペース、トイレの設置などで座席数が極端に少なくなっていることに対する配慮のように思われる。前面展望席は2100形以来の復活となる2)

2号車と3号車にトイレを設置

デュアルシートの採用と同じくらい驚きの新仕様となっているのがトイレの設置である。2号車にバリアフリー対応の洋式トイレを、3号車に男性用トイレをそれぞれ設置し、長時間の乗車でも安心・快適に乗車いただけるとしている。京急でトイレ付の車両が登場するのは初めてのことになる。大手私鉄の通勤型車両にトイレが設置されるのは異例のこと。それも4両編成で2ヶ所なのだからやはり驚くばかりである。

トイレ付の車両を運用するには車両基地等に汚物処理施設が必要となるが、初めてトイレ付の車両を導入する京急の場合、こうした設備の新設を伴うことになる。単純に車両を導入する+αの投資が必要なわけだから、それ相応の覚悟でトイレ付車両の導入を決断したことがうかがえる。将来的には、例えば2100形の後継車両などもトイレ付きとなることが期待されよう。

なお、汚物処理設備は金沢検車区と久里浜検車区に新設されることが一部の報道3)で明らかになっている。

新構造のステンレス車体を採用

車体は都営5500形と同様の新構造のステンレス車体となっている。このステンレス車体はレーザー溶接で部材どうしを連続的に溶接することでせぎりと呼ばれる凹凸がなく、デザイン性やメンテナンス性が向上しているのが特徴である4)。外観は17次車から引き続き塗装としており、赤と白の京急らしい車両に仕上がっている。

前面は中央に貫通扉のある1800番台に準じた形態になっているが、灯具類などを一部改良して1890番台オリジナルのスタイルになった。特に、急行灯と尾灯が一新されている。プレスリリースでは急行灯を点灯させたイメージが掲載されているが、これは尾灯と兼用だろうか。

床下機器についても1800番台をベースにしていると思われるものの、プレスリリースで言及がほとんどないため変更点があるのかどうかはわからない。イメージも床下の表現が省略され、なおかつ3両目以降を端折っているので推測するにも難しい。細かいところは実車が出てきてからのお楽しみということになろう。

1890番台の車両番号について

そして、気になるのはその車両番号であろう。プレスリリースによれば、今回導入される4両編成2本は1891-1〜1891-4、1892-1〜1892-4というハイフン付の番号になるという。従来の新1000形は1001、1002、・・・という通し番号だったので、同一形式の中に異なる数え方の車両が出現することになった。京急でハイフン付の番号の車両が登場するのは、600形以来のこと。ハイフンを抜いて5桁の数字になる番号は初めての採用となっている。

番号の付け方を変えてまでハイフン付の番号とした理由はなんだろうか。考えられるとすれば番号の有効活用。従来の通し番号を採用した場合、1890番台では4両編成を2本製造した時点で使える番号が枯渇してしまう5)が、ハイフン付の番号なら最大で9編成の導入が可能となる。このことは1890番台が3編成以上導入される可能性の示唆でもある。

しかし、それなら1890番台ではなく1850番台などとすればわざわざハイフン付の番号にせずとも対応できてしまう。デュアルシート車を1890番台としたのは、1890という数字にこだわったためか、それとも1800番台のために番号を空けておくためか。それとも?

車両番号は17次車から引き続きプレート式での掲示ながら、側面についてはドアと窓の間の高い位置に変更されているようだ。これはホームドアを意識したものとみられる。

置換えの対象は1500形4両編成か

1890番台は平常時においてロングシートでの運用を想定していることから、1890番台によって置換えられる車両が発生する可能性が濃厚である。その本命は、やはり界磁チョッパ制御で残っている1500形だろうか。両者とも4両編成という点で一致するし、全編成を淘汰するのに7編成必要という点で1890番台をハイフン付の番号にしたところにも合致する。

新1000形1890番台をどうやって使うのか

さて、ここまで1890番台についてだらだらと書いてきたが、やはり気になるのはこの1890番台をどうやって使うのかどうかだ。前述のようにフレキシブルに対応すると書いてあるものの、具体的な運用方法を明らかにしていない。平時にはロングシートモードで一般の運用に入れるのはいいとして、クロスシートモードをどのように使うのか気になるところ。そこで、1890番台デュアルシート車の使い方を思いつくがままに妄想してみよう。

  • ウィング号を12両編成化(実現度:★★★★★)
    8両編成で運転しているモーニング・ウィング号およびイブニング・ウィング号に1890番台を増結し、12両編成とする。ウィング号はゆったりと座って通勤できる列車として人気があり、列車によっては満席となることも珍しくない。ウィング号の12両編成化は、着席通勤のニーズに応えるものである。
  • 貸切イベント列車に優先的に使用(実現度:★★★★★)
    京急ではさまざまな企業とコラボしたイベント列車を運行しているほか、2017年から貸切列車の一般販売も行っている6)。デュアルシートはイベントのさまざまなシーンに対応し、飲食を伴うこともあるイベント列車はトイレのある1890番台に打って付けであろう。
  • A快特の予備車として運用(実現度:★★★★)
    泉岳寺〜京急久里浜・三崎口を走る快特(通称:A快特)は、現在2100形の独壇場となっているが、検査等の都合で3ドアロングシート車で代走することがある。この代走に1890番台をクロスシートモードで充当させる。4+4編成でも貫通幌を繋げば泉岳寺に入線可能であり、2100形の代走でロングシート車が来たときのガッカリ感を解消できるはず。
  • イブニング・ウィング号の予備車として運用(実現度:★★★)
    イブニング・ウィング号は2100形での運用となっているが、1890番台をイブニング・ウィング号の予備車とする。現在のイブニング・ウィング号は、10本が在籍する2100形で8本使用のカツカツ運用。過去には2100形に運用離脱が相次ぎ、ウィング号の運用の一部変更を余儀なくされたこともあった。ただし、2100形と1890番台では座席数が異なるので、これをするためにはウィングチケット発券システム上で何らかの改修が必要となる。
  • 1800番台と連結して一部特別車(実現度:★)
    A快特の一部を1800番台と1890番台を併結した4+4編成とし、1890番台をクロスシートモードの有料座席として運用する。南海の特急「サザン」や名鉄の一部特別車のパクリとも言う。現在の2100形ウィングシート車両だけでもアレなのに、8両編成中4両が有料座席という地獄の列車ができあがる。
  • エアポート快特〜アクセス特急にクロスシートモードで充当(実現度: )
    都営浅草線や京成線でも1890番台に乗りたくない? 乗りたいよね。1800番台はすっかりご無沙汰になっちゃったけど、1890番台は直通してくれよな。マジで。

関連記事

京急1000形1890番台 登場

5月6日、話題の新車、京急1000形1890番台が営業運転を開始した。遅ればせながら実車の様子を見に行ってきたので、レポートしよう。さて、1000形1890番台については最初にプレスリリースが...

京急1000形1890番台 登場
京急新1000形SiC-VVVFインバーター車 直通運用へ

マイナーチェンジ仕様の京急新1000形、都営浅草線や京成線への直通運転を開始。5月16日、73H運行に新1000形1225編成が充当した。2016年度より導入されているマイナーチェンジ仕様の...

京急新1000形SiC-VVVFインバーター車 直通運用へ
京急新1000形 16次車マイナーチェンジ車両

京急電鉄では2002年より新1000形を導入しているが、このほど仕様を一部変更したマイナーチェンジ車両が2016年11月より走っている。この新1000形マイナーチェンジ車両について、特徴などを...

京急新1000形 16次車マイナーチェンジ車両
京急新1000形1800番台 直通運用へ

京急新1000形1800番台、運用範囲を拡大中。3月上旬に営業運転を開始した京急新1000形1800番台だが、6月中旬よりいよいよ都営線や京成線、北総線への直通運転に入っている。営業運転開始以来...

京急新1000形1800番台 直通運用へ
京急新1000形1800番台 登場

京急電鉄では2002年より新1000形を導入しているが、このほど車両デザインを一部変更した1800番台が登場した。3月4日より4両編成2本が営業運転に入っている。1800番台の最大の特徴は貫通形...

京急新1000形1800番台 登場

最新記事

京成グループ 車両の動き(2023年度)

京成グループにおける2023年度の車両の動きをまとめてみよう。まずは京成。ここ数年は列車無線のデジタル化に伴う予備車の存在や2度にわたる脱線事故の影響などでイレギュラーな車両の動きが続いていたが...

京成グループ 車両の動き(2023年度)
北総7500形 「北総1期線開業45周年記念」ヘッドマーク

北総線開業45周年記念。北総鉄道では、3月上旬より7500形おいて「北総1期線開業45周年記念」ヘッドマークの掲出を行っている。表題のとおり北総1期線(新鎌ヶ谷〜小室)の開業45周年を記念した...

北総7500形 「北総1期線開業45周年記念」ヘッドマーク
タイ国鉄 フアランポーン駅の現在

クルンテープ・アピワット中央駅に続いて、かつての中央駅、フワランポーン駅も訪ねてみた。2023年1月にバンコクの中央駅の地位をクルンテープ・アピワット中央駅に譲ったフアランポーン駅。中央駅の移転...

タイ国鉄 フアランポーン駅の現在
京成3400形 「桜に染まるまち、佐倉」ヘッドマーク(2024年)

今年も桜に染まるまち、佐倉。京成電鉄では、3月上旬より3400形3448編成において「桜に染まるまち、佐倉」ヘッドマークの掲出を行っている。佐倉市において毎年この時期に実施している観光キャン...

京成3400形 「桜に染まるまち、佐倉」ヘッドマーク(2024年)
新京成線 2024年3月23日ダイヤ改正

新京成線、久しぶりにダイヤ改正を実施。新京成電鉄では、3月23日にダイヤ改正を実施した。平日朝における列車増発と夜間時間帯の運転間隔見直しが主な内容となっている。それぞれについて内容を見てみよう...

新京成線 2024年3月23日ダイヤ改正