全国的に見ても非常に珍しい発駅乗越券を紹介する。そもそも乗り越しとは、下車する予定だった駅を通過し先の駅まで行くことを言う。では発駅乗越とはいったい何なのか?

東武
東武鉄道 鬼怒川公園 発駅乗越券 B型硬券

鬼怒川
当時の路線図
右端に鬼怒川公園駅がある

発駅乗越は旅客が予め所持している切符に記された区間の外方から乗車する場合に使われる用語だ。路線図で説明しよう。路線図の左側が東京にあたる。

普通なら乗車する直前に切符を買うため、その駅発の切符を所持している。しかし、鬼怒川公園駅には、となりの鬼怒川温泉駅を発駅とする切符を持った旅客が数多く現れるのであった。

古来より関東の奥座敷と呼ばれるほど有名な鬼怒川温泉は、都心からの観光客で賑わっていた。観光客の場合、予め旅行会社で往復分の切符を購入してやってくる。所持している切符(旅行会社なので船車券が多かったと思われる)の発駅は鬼怒川温泉となっている。

しかし、鬼怒川温泉駅から鬼怒川公園駅の間を徒歩で散策し、鬼怒川公園駅から帰路に就く旅客が多かった。もし鬼怒川公園駅が鬼怒川温泉駅より地図上の左側(都心側)にあれば、内方乗車にあたるため追加料金はかからない。ところが鬼怒川公園駅は地図上の右側にあり、鬼怒川温泉発の切符では区間の外方となり追加料金がかかることになる。

本来そのような場合は旅客の持ってきた切符を回収し、自駅発の切符に発行替えする乗車券変更という措置になるが、発駅乗越の旅客がよほど多かったのだろう、鬼怒川公園駅ではこの発駅乗越券を購入させ、所持してきた切符と一緒に持たせて乗車させていた。

観光地であり、券面区間の外方の駅であるという鬼怒川公園駅の特性が、この発駅乗越券を生んだと言える。