交通系ICカードは大江戸線で始まった? | 書斎の汽車・電車

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 最初に結論を言ってしまえば、交通系ICカード(スイカ、パスモ等)は大江戸線発祥というわけではありません。地方のバス会社等で採用実績があったようです。しかし、ごく早い時期に大江戸線(当時は都営地下鉄12号線)で、「実証実験」が行われていたのは事実です。

 新年最初の大江戸線噺は、読者の皆さんが日常的に使用されているであろう交通系ICカードの、都営地下鉄12号線における実証実験について取り上げます。

 

⑧都営地下鉄12号線における、交通系ICカードの実証実験

 とはいえ、私も過去にそのような実験が行われていたことは知っていましたが、手元には「実証実験」の詳細がわかる資料はありませんでした。このままではブログのネタにはできないなあと思っていたのですが、この「実験」に参加していた人がいたのを思い出しました。模型の塗装などをお願いしている「ベテランモデラー」氏です。

 彼に当時のことをいろいろ聞いてみようと思い立ち連絡したところ、物持ちのいい彼のことですから、当時、実験参加者に配布された資料を持っていました。そこで、今回は彼から拝借した資料をもとに、この実験を振り返ってみたいと思います。

 

・いつ実施されたのか

 平成10(1998)年6月30日から1年間でした。なお、実験の主体は「汎用電子乗車券技術研究組合」でした。

 

・実験が行われた路線は?

 都営地下鉄12号線(光が丘~新宿)

 都営バス新宿営業所管内の下記路線

  CH01 新宿駅西口~都庁循環

  田70  港区スポーツセンター~新宿駅西口

  宿74  新宿駅西口~東京女子医大

  秋76  新宿車庫~秋葉原駅東口

  四80  四谷駅~赤坂アークヒルズ

 

・実験への参加資格は?

 都営12号線の定期券を持つ方が参加できたようです。(12号線区間を越える区間の定期券は不可)

 参加希望者には、諸々の資料とともにICカードが送られてきました。このカードと定期券を定期券売り場(練馬駅または都庁前駅)に持参すると、定期券のデータをカードに移し替えたそうです。

 なお、カード本体には券面情報等の印字はされず、故に常にカードと磁気式定期券双方を携帯することが求められました。また、カードの裏側に氏名を自署する必要がありました。

 

・乗り越し、乗り継ぎについて

 例えば、練馬~都庁前の定期券所有者が新宿で下車する際には、自動改札機を出場すれば自動的に乗り越しが出来ました。(SFカードの残額がなければもちろんダメですが)また、新宿駅で都営新宿線、京王線に乗り継ぐ場合は「ICカードのりつぎ精算機」にカードを置き、乗り継ぎ路線(新宿線、京王線)を選択すると、乗り継ぎ先路線の初乗り区間分の乗車券が発券されました。従って下車駅によっては、さらに精算が必要になります。

 なお、練馬駅、中井駅での西武線、東中野駅でのJR線、中野坂上駅での営団丸ノ内線、新宿駅でのJR線、小田急線との乗り継ぎについては考慮されていませんでした。

 

・「積み増し」って何?

 このカードでも、定期券として使用するほか、先に述べた乗り越し、乗り継ぎや、バスでの使用のためにチャージをすることができました。

 ただ、資料を見ますと、「チャージ」とは言わずに「積み増し」と表現しています。

 「積み増し」は、都営12号線各駅の窓口に未使用のTカードとICカードを持参し、駅係員に積み増しをしてもらう方法と、新江古田駅か都庁前駅にある「ICカード積み増し機」を利用する方法がありました。「ICカード積み増し機」を使用する場合でも、未使用Tカードを使用することに変わりはなく、現金によるチャージはできませんでした。

 

 さて、このICカードの現物が残っていればと思ったのですが、実験終了とともに返納する決まりだったようで、ベテランモデラー氏の手元には残っていません。ただ、実験参加の「謝礼」として配布されたTカードは残っていました。また、中途にアンケートがあり、これに答えるとTカードがさらに貰えたようです。

 なお、ベテランモデラー氏に話を聞くと、「積み増し」は一応行ったものの、乗り越しはほとんどしたことがなく、新宿駅での乗り継ぎや都営バスの利用も記憶にないそうです。また、当然ながら、飲料水の自動販売機や駅構内のコンビニのレジでの使用などはできませんでした。

 これまでご紹介したように、この「実証実験」、やはり随分制約があったようですが、後年の交通系ICカードの特徴は、すでにこの時点で備えていたといえます。

 

 今回は、ベテランモデラー氏の全面的なご協力によりお届けすることができました。改めて御礼申し上げます。