旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

いろいろな「物」を運ぶ貨物列車 揺れに弱いピアノでも電子ピアノなら

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 一度の多くの物を運ぶことに長けている貨物列車は、いまや多くの企業や団体が利用し、私たちの日常生活で使う物を運んでいます。その多くは一般のドライコンテナと呼ばれるコンテナに載せられ、長いと30時間以上もかけて旅をします。

 そのコンテナ列車ですが、とにかく乗り心地が悪いのです。かつて駅構内で入換作業をするコキ車のデッキに乗ったことがありますが、軌道の凹凸やレール面の細かな凹み、さらにはレールの継ぎ目など車輪が拾った凹凸は、そのまま台車を通して車体に伝わるので、下からガンガンと突き上げられるもの凄い振動なのです。これは台車の構造にも関係していますが、筆者が乗ったコキ50000が装着していたTR223は、枕ばねは硬いコイルばねでコンテナを満載した状態でサスペンションとしての威力を発揮します。空車時はばねの沈み込みがないので、線路や軌道の状態をもろに伝えてしまうのです。しかも、電車や客車の台車にはこの枕ばね以外に、台車枠から車軸を支える軸ばねを装着しますが、貨車用の台車はそうしたものがありません。これは、軸ばねを追加すると製造コストが高くなり、その分の保守もしなければならないので運用コストも上がります。また、ばねが多いことにより台車自体が支えることができる荷重が小さくなってしまうので、貨車用の台車としては不向きになってしまうので、軸ばねは装着しない直接接続式が国鉄時代に多く採用されました。この台車のおかげで荷重の重い貨物を載せても高速で走ることができました。

 国鉄時代は貨物列車には最後尾に緩急車を連結しなければならなかったので、このコキ50000にはコキフ50000という緩急車も用意されていました。しかし、このコキフ50000は製造当初は緩急車のないコキ50000と同じTR223を装着していました。硬いコイルばねの枕ばねに、軸ばねのない直接接続式の台車で、高速で走れば当然突き上げるような振動は激しさを増します。これの乗務した列車掛は、「あまりに酷い揺れに、乗務が終わる頃には腹を空かすか、それとも吐き戻すしかない」と言われるほど、想像もつかない揺れに悩まされていたそうです。

 こんな揺れがコンテナに載せた貨物にもいい影響があるはずもなく、積載する貨物によっては輸送中に破損してしまうことも考えられるでしょう。貨物輸送は「安全に」そして「確実に」運ぶことは当然ですが、「貨物を壊したり汚したりすることなく」運ぶのも使命でした。ですから、いくら製造コストを下げるためとはいえ、コキ50000のような揺れはけして好ましいものではなく、できればそれを軽減して貨物の破損を防ぎながら、高速で走ることが可能な貨車が望ましいのでした。

 

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コンテナ貨車用台車。上からコキ50000が装着していたTR223G(出典ウィキメディア・コモンズ:©Tennen-Gas, CC BY-SA 3.0,)。枕ばねにはコイルばね1個が使われ、軸箱は台車枠に直接取り付けられている。中段はコキ100系に装着されているFT1(筆者撮影)。基本的にはTR223とほぼ同じだが、枕ばねをコイルばね2個に増やし、オイルダンパーの取付方も異なる。さらに改良を加えたコキ106以降が装着するFT2(筆者撮影)。枕ばねは変わらないが、軸箱を積層ゴムを介して装着するように改良された。また、ブレーキ装置もユニット化して、検修作業の省力化を図っている。枕ばねの背後には、そのユニットブレーキが見えている。

 

 民営化後、JR貨物が新たに開発したコンテナ貨車であるコキ100系は、高速で走行でき、12ft5tコンテナを5個、20ft10tコンテナなら3個、30ftコンテナなら2個積むことができ、しかもISO規格海上コンテナも載せることができるように、床面高さを国鉄形より100mm低くしました。そして、台車も従来のTR223ではなく、新たに開発したFT1にしたのです。この台車は軸箱直結式ですが、防振ゴムを挿入して振動の軽減をはかりました。しかし、これでも振動は酷かったのでしょうか、コキ106からは軸箱を積層ゴムで支持するFT2へと代えました。貨車用の台車としては珍しい、軸箱支持装置がある台車になったのです。

 前置きがずいぶんと長くなってしまいましたが、貨物の中にはこうした振動を嫌うものもあります。割れやすい陶磁器などがそれで、そうした貨物は梱包が厳重にされています。

 精密機械などもそうですが、楽器もまた振動をもっとも嫌う物の一つだといえるでしょう。ピアノなどは楽器の中でも振動が天敵になる最たるもので、例えば引っ越しのときに家にピアノがあるときには、その移動にかなり悩むのではないでしょうか。

 一般の引っ越し専門業者も、中にはピアノだけは運べないと断るケースもあるかも知れません。下手な運び方をすれば、ピアノを壊さないまでも、音程を狂わせてしまい、最悪は使い物にならなくなってしまうでしょう。ですから、代わりにピアノ輸送を専門にする運送業者を紹介されることもあり、そうした専門業者はピアノを運ぶための技術だけではなく、専用のトラックを用意しています。そのトラックも、一般的なリーフサスペンション(板ばね)ではなく、振動の少ないエアーサスペンション(空気ばね)を装備しています。

 さて、こうしたピアノのような楽器は、残念ながら鉄道コンテナで運ぶのは適さない物の一つです。しかし、世の中には「例外」というのもあり、鉄道コンテナで運ばれているピアノがありました。

 ここまで書くと、「いっていることが違うのでは?」と感じられるかも知れません。

 確かに、ピアノは振動に弱いのですが、技術の発達とともに鍵盤のキーストロークを忠実に再現し、電子的にですが実物に近い音を出す「電子ピアノ」がかなりの数で普及してきました。この電子ピアノは大きさもそれほど大きくなく、しかも軽量で手軽に運ぶことができます。この電子ピアノなら、多少の振動なら神経質になる必要はありません。

 この電子ピアノを鉄道コンテナで運んでいるのは、ベストセラーの腕時計で知られるカシオの製品で、工場から出荷される製品の多くは鉄道コンテナで遠方へと輸送しているそうです。

 他にも、電子キーボードや時計など、多くのコンシューマ向け製品を鉄道コンテナに載せて出荷しているとか。埼玉県に構えている流通センターから、大阪と福岡の配送拠点までをコンテナ輸送を使っているそうです。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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