コロナ禍の2020年、各地のSL運行も春から休止を余儀なくされた。コロナ感染が落ち着いたタイミングで運行が始まり、ファンを喜ばせた。


 しかし、これで「良かった、良かった」では済まされない。


    鉄道各社とも大幅な赤字決算である。たとえコロナが収束しても、リモート普及により人の移動の減少傾向は続くであろう。つまり、鉄道会社の経営基盤である鉄道事業本体の収益は先細る。

 これは何を意味するか。収益に結びつかない事業は見切りをつける経営判断を迫られる。SL運行が真っ先にそのリストに上がるのは想像にかたくない。
 
 現に、経営難のJR北海道はSL運行を大幅に縮小し、今や釧路湿原号を冬季限定で運行するのみだ。真岡鉄道も2両のカマを維持できなくなり、1両を東武鉄道に譲渡した。

 JR東日本は、磐越西線のほか、上越線、釜石線を合わせて3路線でSLを運行している。果たして、これを維持できるのか? 

 首都圏からの近さ、震災復興支援という大義などを勘案するに、もし3路線から縮小するとなると、磐越西線は分が悪い。鉄道撮影というファンの観点からすると最も魅力的なのは磐西だと思うが…
 
 阿賀野川に沿い、豊かな自然を縫って走るこのローカル路線は、どこを切り取っても絵になる。
 しかし、JR東日本が3路線のうち一つの撤退を迫られるとすれば、磐越西線を選ぶのではないか。
 沿線は風光明媚ではあるが、近くに大きな温泉地はない。そもそも非電化の赤字ローカル路線で鉄道維持そのものが岐路に立たされている。対してSL運行にかかる莫大な維持費、技術継承は大変な労力がかかる。

 気になる動きがある。さる9/14、JR東日本は、ばんえつ物語ファンクラブの新規会員募集を今年度限りで止めると発表し、会員特典が受けられるのは「2021年度の運行まで」と説明している。

 これはつまり…。21年度は運行するが、その先は停止すると受け止めるのが妥当ではないか。すでに経営判断としてはSL撤退は組織決定済みで、タイミングを計っていたのではないか? それをコロナ禍が後押しした可能性もある。

 すべては筆者の思い込みによる杞憂であることを願う。

 ただもし、SL運行の存続の可否をまさにこれから決断する時期に差し掛かっているのだとして、この拙稿をJR東日本の関係者の方がお読みいただいたのなら、どうか存続の別の手を地元自治体とともに知恵をしぼってほしい。クラウドファンディング的な手法で資金を募る手だってある。

 SL運行は一度撤退すると復活は難しい。それは、平成はじめに函館本線で奇跡の復活を遂げたC623のケースを見ればわかる。一部スポンサーに頼っていては長くは続かない。多くの支援者のカネが必要だ。磐越西線が、蒸気機関車という貴重な鉄道遺産を、この風光明媚な地で末永く残していくモデルケースとなることを願う。

 とくに撮影中心のファンの諸兄も胸に手を当ててみてほしい。マイカーで自宅から磐西にきて、追いかけをして撮影して満足し、大したカネも地元に落とさずに直帰してはいなかったか? なぜJRが、地元が、SL動態保存運行をするのか、その意味を立ち止まって考えてほしい。