小田急の社長である安藤は些か不安気味であった。
西武との箱根戦争が激しさを増しているからである。
箱根戦争勃発当時五島は戦犯疑惑の為、表に立てないと言った。
今は疑惑が解かれていて問題は無い筈だ!
小田急だけが西武から圧迫を受けている。
少しでも分散・・・いや、もとい五島との本格的な共同戦線を早く望んでいた。
なのに未だに表に全く出て来ない事に安藤は疑心を持った。
「早々だが、伝家の宝刀を使う時かも知れない」
安藤は東急に連絡を入れる様指示した。
東急からの回答は「明日の夕刻に来て欲しい」との事。
次の日、安藤は細谷達を連れて東急本社に出向いた。
安藤達は東急本社の会議室へ案内された。
室内へ入ると安藤達は驚いた。
何時もの密会ではなかった。
会長の五島を始め息子の昇・大川・柏村・田中等、東急幹部達がズラリと顔を揃えていたからだ。
入室早々五島から「安藤君、いやにヤキモキしていそうだな」
と声をかけられた。
続いて「堤君との闘いはどういう状況なのかな?」
と問われた安藤は詳細に説明した。
そして、「西武側の圧力は想像を絶するもので、小田急だけではとても支えられません。
是非とも東急さんの援護射撃を頂きたい」と声を高らかに懇願した。
「安藤君達も大変だったな!
俺もようやく動ける事が叶った。
微力ながら安藤君達にその強力な援護射撃をするつもりだ!
俺は約束を守る漢だからな!」としゃあしゃあと言い放った。
この文言に小田急側は黙っていたが、東急幹部達が大笑いをした。
株の話を聞かされていたからだ。
「非常に力強い言葉を頂き、感謝に堪えません。
して、その強力な援護射撃とは?」
「うん、計画書を安藤君に・・・」
安藤は計画書を観るや段々と食入る様に読む様になった。
段々と顔が紅潮してきた所で安藤は、
「五島さん、何時頃から計画を?」
「極秘で幹部達と進めておった。
こんなもの大っぴらにやったら堤君は邪魔するからな!
この件は地元の代議士にも懇願され、国も絡んで進めていた。
そう遠くない日に世間に発表する事になるだろう。
これが始まれば堤君は挟み撃ちになる。
それまでの間は箝口令を敷く」
「非常に力強い計画に安堵致しました。
今迄煮え湯を飲ませられましたが、今度は煮え湯を飲ませてやりますよ!」
「そう、今後は東急と小田急の挟撃と行こう!
但し、もう一度念を押すぞ!
安藤、くれぐれも内密にな!」
「ハッ」
安藤は喜んで帰って行った。