2度目の住民投票 | 鉄道きさらんど

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いつも列車・バスなど公共交通の事ばっか考えてます。

いわゆる大阪都構想実現が党是の維新の会は前回の住民投票結果にもかかわらず2度目の「大阪市廃止・特別区設置」住民投票を実施し、またも否決された。前回と異なるのは大阪の地方議会での自民の弱体化、旧民主系の野党勢力の衰退、共産党も衰退し公明党が寝返った事でもはや最初から勝負ありといった感じでしらけムードになり、下馬評では楽に可決できるだろうという予測だったが反対派が巻き返しまたも否決。相変わらず賛否がくっきり分かれ反対票も51%取れなかったが、前回よりも低投票率なのに賛否の票差は1万票以上と前回より開いた。これは福祉に依存し情緒的に大阪市に愛着を持つ高齢者だけでなく案外30代以下の若者や女性にも反対が多かった。前回に続き賢明で冷静な審判が下されたと思うし、3度目はもうありえないのでは。

 

自分は大阪と縁ゆかりもない暮らしをしているので直接関係ないしこの件に深入りもしてないが、前回の投票結果についてはこういうエントリを書いていた。

 

今回の結果も同じだが、自分の感想も当時と概ね同じ。市が区になると税収が召し上げられる。あとから再配分をするにしても自分の財布から自由に使える金が減れば独自裁量で区がやれる範囲は狭まるのでは。また職員厚遇など大阪市役所の行政特有の問題にメスを入れるためとはいえほかの政令市が海外の特別市のような県から独立し市の権限強化を志向しているのに大阪市だけが府に頭の上がらない村より弱い区を設置しようとしているのが謎だ。今の政令市もみなおされるべきというが、都道府県の枠組みも見直さなければいけないと思う。5年前のエントリで触れたが国と市町村の間にある都道府県こそあやふやだし、住民から遠いところにいる。大阪市など政令市を特別区にすると住民自治という面からは一見基礎自治体を小分けすると国鉄分割の様に小回りが利いて末端の住民の目が届きやすくなるように見えるが独自財源などが召し上げられていると目が届いても独自になれることはなく、住民から遠い都道府県のお伺いを立てるしかなくなる。大阪府政や市政でなく国政マターになるが今の47都道府県こそ聖域だろうか?大阪都推進派は大阪市だけの枠組みにとらわれるな、大阪市だけでなくもっと府全体という広域的な視野で考えろとか都構想は関西や西日本全体を活性化させるというが、なら大阪府も府だけの利害にとらわれず広い視野他府県と合併すればいいとなる。それがかつてよく言われていた道州制だし、そのころは同時に行革論議・地方分権論議としては基礎自治体の強化が言われていた。大阪府の枠組みはかわらないが財源や権限だけが肥大化し、大阪府内の大阪(や堺)以外の自治体は法律的に権限や裁量や責任を強化しなくても府が旧大阪(や旧堺)エリアから召し上げた財源でインフラ整備などが強化される、大阪市(や堺市)といった政令市が基礎自治体として格落ちする、とかつて政治学や行政学をかじった自分からすれば大阪都構想はかつての国の行革論議の積み重ねとは関係ないところにある特異でガラパゴスな思想によって作られたとしか思えない。マスコミやネットの作った世論による市役所の公務員をバッシングする俗情に媚びる形で府知事だったころの橋下氏がいう事聞かない大阪市を府に併呑したいという野望がこの構想のもともとの狙いだったし歪な制度設計にしかならないのだろう。
 
それでも維新はなんでも反対に見える市政や府政野党と比べれば前向きで夢のあることをしていて大阪府内に繁栄を約束するような好印象で支持率が高かったしたぶん何もなければすんなり都構想も住民投票で可決できた可能性があった。それがそうなったのは社会情勢の変化、早い話がパンデミックで府内経済が沈滞したからではないか。コロナ禍は全国共通の問題。しかし大阪はインバウンドや昨年のG20首脳会談、5年後の万博といいイベントに依存する地域活性化のやり方である。観光振興は全国どこでもやっているが大阪はかつての製造業に代わる地場産業を地道に育てたり大企業や人材の流出を止める取り組みより派手なインバウンドやそのための箱モノやプロモーションに固執してばかりだった。それがコロナ禍で暗礁に乗り上げ、東京や愛知との差が今までより開き大阪市民が維新を素朴に支持できなくなったのでは。都構想では特別区の収支が良くなる根拠として大阪メトロの配当金を得られるようになることを当てこんでいたという。(https://www.asahi.co.jp/webnews/pages/abc_7793.html)


  また配当するという事は区ができるころまでに上場するという事であり、大阪特別区が持つ分以外の株の売却益があてこまれるはずだが、実際のメトロは観光需要の蒸発と地元住民の外出自粛やテレワークで大幅な業績悪化。またなにわ筋線などの新線も需要予測が狂い雲行きが怪しくなってくるだろう。維新のインバウンドやイベントやインフラに投資して観光コンベンション都市になるというビジョンが色あせてしまった。
 
そうなると大阪府を副首都にするという大風呂敷もたたまなければいけなくなるだろう。そもそも大阪副首都化論は東京一極集中で東京が有事の時にリスク分散が必要という観点だったがそれなら大阪がそっくり東京の機能を肩代わりする必要はない。先の大戦による戦災でも大震災でも首都機能や経済の拠点性は東京から不動だった。分散化させるにしても何か所に機能を部分的に分担させるというのがいいし、その過程で大阪が部分的に首都機能や企業の一部を引き受けるのはありだと思うが。そう、大阪市や大阪府は一地方都市として地道にやっていくしかないと思う。大阪も東京のスペアや並び立つ存在でなく東京等で代替できない魅力をどう打ち出すかが大事。経済や産業も固有の技術の会社とか、東京でできる本社の誘致ではなく地方ならではの職場や仕事があるかも大事。府や市の器をいじればどうにかなる話ではないはず。その前提に立って一都市として競争力を高めるためのインフラ整備はやるべきだが、これは5年前のエントリで書いたように権限や財政力が強い大阪市が一丸となって市内の開発をやるのがいいと思う。区への移行に役人が忙殺されていちゃそれどころではなくなる。自分のブログが鉄道ブログだから取り上げるというのはあるがやはり大阪市の産業振興や都市活性化の課題はうめきた地区の開発や難波筋線整備、そしてなんといっても新大阪駅とその周辺の拡張や充実化、北陸新幹線やリニア新幹線の延伸を受け入れること。大阪市が一体のままと区がバラバラのままでは、JRなどと交渉し用地取得とかで工事を住民へと説明し協力する自治体の数が増えるのと一つとでは難しさが違うので、大阪市を残したほうがいいに決まっているのでこれはよかったと思う。もちろん大阪市外の政令市でない部分も線路は通るので、府の役割も大きいが、新幹線設置で街を改造するための新大阪駅や梅田の都市計画を練って実行するのには大阪市に権限と財政力のある必要があるし、ターミナル周辺が整備されなければ線路も引っ張れないだろう。そう、大阪市内のターミナルと周辺の整備のためには大阪市があることが大事。二重行政で無駄があるというが、大阪市程の街だと昼間人口と夜間人口の差が大きく、昼間に市外から来る人を受け入れるのに必要なインフラは権限が肥大化し無駄っぽくても府だけでなく市が整備や維持をやるというのがいい。特別区の狭い範囲での地域密着にとらわれすぎると定住する人の意見ばかりに振り回され昼の住民の不便をもたらすのではないか。また新大阪駅は陸の空港的役割となる。名古屋などの様にターミナル駅が一極集中していない大阪だが新幹線が2本も来るとなると新大阪一極集中とは言わないにせよ拠点性が強化され、その恩恵を所在する特別区だけでなく市全体に波及させるための広域的な視野での2次交通網や道路整備、都市の施設の配置などを総合的な視野からするには肥大化していても大阪市があるほうがいい。東京ほどの大都市だと区でてんでバラバラでもいくつもターミナル駅があってもいいが、(東京品川上野、在来線のみだが新宿)さすがに大阪は大阪市エリアに小分けされた区が東京の様にターミナルと駅勢圏をいくつもあって競い合うというのは非効率。鉄道だと都市間移動者を受け入れるのは新幹線だと新大阪をメインにしてそこから市内へ行くというのが良くなるのではないか。(JR在来線だと天王寺駅や大阪駅、近鉄の難波駅がターミナルとしてあるが、道路整備や少子化と人口減少、インバウンド減少で在来線利用は減るし北陸新幹線開業で北陸特急も全廃なら大阪駅の拠点性も減るだろう)あと、やはり大阪市は地元民のみならず全国の、いや世界の人に知られる伝統ある都市。やはりこのネームバリューを捨てるという選択もないし、個人的にもリニアや北陸新幹線の発着する進化した新大阪駅のある町は大阪市であってほしいと思う。