【鉄道コネタ】牟岐線「廃止日」に最後の営業、実は珍しいケース 法的な問題は?



JR牟岐線の阿波海南~海部間(徳島県)と阿佐海岸鉄道の阿佐東線・海部~甲浦間(徳島県・高知県)で、線路と道路の両方を走れる乗り物「デュアル・モード・ビークル」(DMV)の導入に向け、工事や運営体制の変更手続きが進められている。

JR牟岐線と阿佐海岸鉄道阿佐東線が接続している海部駅。同駅を含む牟岐線の阿波海南~海部間はJR線としては10月31日に廃止された。【撮影:草町義和】

牟岐線はDMV導入工事に伴い、7月から阿波海南~海部間を含む牟岐~海部間が運休している。JR四国が代行バスを運行しているが、このうち阿波海南~海部間は、JR線としては10月31日に廃止された。同区間は今後、阿佐海岸鉄道の阿佐東線に編入され、本年度2020年度中には阿波海南~海部~甲浦間で阿佐海岸鉄道によるDMVの運行が始まる予定だ。

なお、JR代行バスは11月1日以降も引き続き牟岐~阿波海南~海部間で運行されているが、阿波海南~海部間はJR線としては廃止されて営業できない状態になったため、この区間のみ無料で利用できる。

■通常は「廃止日の前日」で営業終了

鉄道事業を廃止する場合、鉄道事業法に基づき事業の廃止を国土交通大臣に届け出なければならない。JR四国は8月11日、阿波海南~海部間の鉄道事業の廃止を届け出た。当初の廃止予定日は来年2021年8月31日だったが、国土交通大臣が廃止日の繰り上げを認めたことから、JR四国は廃止予定日を今年2020年10月31日に繰り上げた。

10月31日に廃止され、翌11月1日からは無料運行が行われているため、何の問題もないように思える。しかし通常の鉄道の廃止スケジュールと比べてみると、ちょっとおかしなことが起きている。

鉄道の廃止では通常、「届出上の廃止日の前日」までに営業を終了する。たとえば、JR西日本が運営していた三江線(広島県・島根県)は、届出上の廃止日が2018年4月1日だったが、営業列車の最後の運行は前日の3月31日だった。

災害で不通になり代行バスが運行されているJR北海道の日高本線・鵡川~様似間は、今年2020年10月27日にJR北海道が鉄道事業の廃止を届け出た。廃止予定日は来年2021年11月1日だが、同社は「(廃止の)繰上が認められれば同年4月1日(最終運行日:同年3月31日)に廃止予定日を繰り上げます」と発表しており、やはり廃止予定日の前日に営業運行を終える予定であることを明らかにしている。

ところが、牟岐線の阿波海南~海部間は廃止日である今年2020年10月31日も、代行バスの営業運行が行われ、無料運行に移行したのは11月1日。代行輸送とはいえ、廃止日に営業運行が行われるのは、非常に珍しい。

■国交省「問題あるとは考えていない」

現地を訪ねることはできなかったが、JRの指定席券売機で阿波海南→海部間の乗車券の購入操作を行ってみた。11月1日に有効の乗車券は「その条件では発券できない」との表示が出て購入不可。一方で10月31日有効の乗車券は購入できた。SNSなどに投稿された10月31日の現地の様子を見ても、10月31日に営業運行を行っていたのは確かなようだ。

廃止日の10月31日に有効な阿波海南→海部間の乗車券。

記者はこれまで「廃止日=路線が廃止された状態で営業運行はできない」ため、廃止日の前日に営業運行を終了しているものとばかり思っていた。廃止日に営業運行を行っても法的な問題はないのだろうか。

国土交通省の鉄道局に取材したところ、「事業廃止日は最終運行日の翌日として届出することが多いとは承知しているが、鉄道事業法においてそのような規定はない」とし、JR四国の廃止の届出については「当初よりこの日(10月31日)を同社(JR四国)による最終運行日、最終運行後に廃止として整理するとともに、利用者等へも周知していると聞いている。国土交通省としても、この取り扱いについて問題があるとは考えていない」と回答した。

廃止日の前日までに営業を終えるというのは、ある種の「慣例」に過ぎないということになる。利用者への周知が行われていれば、廃止日に営業運転を行っても問題ないようだ。

■終電の時刻によっては「廃止日に最終営業」も

そういえば、東京急行電鉄(東急電鉄)東横線の横浜~桜木町間は2004年1月31日付けで廃止されており、前日1月30日の終電をもって営業を終了している。しかし、この区間の終電は0時以降の運転だったから、「1月30日の終電」は厳密には「1月31日未明の列車」だった。

実際には1月30日有効の乗車券でも1月31日未明の終電に乗れたし、営業上は1月30日に最終運行を行ったものとして特例的に「解釈」したものと思っていたが、国交省の見解によれば、そもそも特例的に扱う必要はなかったことになる。

阿佐海岸鉄道は11月30日限りで阿佐東線での列車の運行を終了する予定。12月1日以降は、JR代行バスの運行区間が牟岐~阿波海南間に縮小されるとともに、阿佐海岸鉄道の代行バスが阿波海南~海部~甲浦間で運行を開始し、牟岐線・阿佐東線の乗換地点が変わる。阿波海南~海部間はDMV導入までのあいだ、引き続き無料で利用できる。

阿佐海岸鉄道が10月26日に発表したスケジュール。阿波海南~海部間はJR線としての廃止日である10月31日までJR代行バスによる営業運行が行われた。【画像:阿佐海岸鉄道】