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ж 42 ж きそば

 投稿日時 2011/1/16(日) 午前 6:44  書庫 鉄道の間  カテゴリー 鉄道、列車
 




 両毛線佐野駅。今は建て替えられて橋上駅になってしまったが、かつては広くは無い駅前広場に続いてデンと駅舎が有り、その駅舎から続くホームの上に一軒の蕎麦屋があった。
 店の名は解らない。ただ「きそば」と書かれているだけ。
 両親の実家へ向かう道中のまさに最後の1駅となったこの駅の蕎麦屋には妙に惹かれるものがあった。
 まだ幼少のみぎり。その店が多分蕎麦屋であろうことは解っていた。しかし、「きそば」とはいったい何なのだろう、といつも思っていた。そして勘違いをした。
 あれは「えきそば」の看板の「え」の文字が落ちてしまったものなのだろう、と。
 佐野駅の隣、富田駅の近くには大小山が有りその名を記す「大小」の文字が大きく山頂付近に掲げられていたのだが腐り落ちて「大」だけ(「小」だけだったかな?)になってしまっていた。それと同じように文字が1つ落ちてしまったのだろうと。
 その蕎麦を食べてみたいとねだった事があったように思う。でも食べた記憶は無い。それはもう目的駅の直前であったからという理由だけではないであろう。
 幼少時の私の記憶の中にある駅立ち食い蕎麦屋はこの佐野駅の物だけである。もちろん当時蕎麦屋が佐野駅にしか無かった訳ではない。乗り換えに時間があって食べるチャンスはいくらでもあったであろう上野や小山にも当然あったし、通り過ぎた幾多の駅にもその多くに立ち食い蕎麦屋があったはずである。
 しかし、記憶にあるのは佐野駅だけ。真の理由は何だったのかさっぱり解らない。


 という訳で今回は全国津々浦々の駅の立ち食い蕎麦の話。
 ではまず北海道。
 北海道の駅の蕎麦と言えば、言えば……。あれっ?
 じゃ東北。
 東北の駅の蕎麦と言えば、言えば……あらっ?
 あっ、ほ、ほら、やっぱり蕎麦と言えば信州でしょう。あれは美味い。そう、美味しかった。美味しかったはず……。ううっ。シクシク。
 何という事だ。あれだけあちこちに出掛けているのに駅の立ち食い蕎麦の記憶が無い。食べていないはずはない。貧乏旅行だったから食事はチャッチャッと立ち食いで済ませて、という事をしたはずである。いや、本当に食べていないのか……。
 旅先での豪華な食事には記憶がある。名物料理とか駅弁とか。
 えっ、駅弁が豪華なのかって?以前も書いたが貧乏旅行において一食千円近くもする駅弁は高嶺の花。出発前からそれに狙いを定めて一食や二食抜いて節約して念願の駅弁を買う。
 わははは。なんだそうか。記憶が無いのも当たり前。旅先では食事そのものをしていなかったのだ。
 蕎麦を食べた記憶はある。いや、記憶がある程度ではなく、結構積極的に食べている。しかし、それは駅立ち食いではなく駅を出たちゃんとした店での蕎麦である。
 頼むのは大盛りざるそばとビール。
 注文を聞きに来たおばちゃんがオーダーを厨房に伝えるとその足で冷蔵庫に向かうのでビールはすぐに目の前に置かれる。たいてい塩豆や漬物などの小皿が付いていてそれも嬉しい。
 で、ウグウグプファッをやっているうちに主役登場。
 蕎麦は、客が注文してから打ちます、という所を除けば概してさほど待たされずに供されるものである。だから大抵はまだピンにビールが半分ほど残っている頃に登場となってしまい、ちょっと急いでビールを片づけて、という悲しい状態になってしまうのだが、中にはこちらのペースを見てくれて、程良くビールが無くなる頃にすっと出してくれるところがある。最高の気分で蕎麦が食べられる。
 昨今では駅の立ち食い蕎麦の傍でベンチに座らせた子供の前にしゃがみこんだ母親がフーフーして食べさせてやっているなどというほほえましい?光景も見られるが、私にはそのような記憶は無い。食事はちゃんとした店に入る。たまにざるそばも食べた。薬味皿にはネギとワサビ、そしてウズラの卵。ワサビはパスして、ネギといつの頃からか薬味皿から姿を消してしまったウズラの卵を入れた蕎麦つゆにつけて食べる蕎麦はとても美味しくあっという間に蒸籠の上は空になった。で、期待してすのこをめくってその下にあるであろうはずの蕎麦が無くテーブルが見えるたびにがっかりしたものである。
 先日友人と話をしていた時にもそれが話題となり、彼もやはり度々がっかりしていたそうである。なぜざるそばはあれほどに量が少ないのであろうか。ラーメンで同じ値段を出せばそこそこ腹くちく(腹いっぱい)なるのにざるそばは2~3枚食べないとだめ。(ちなみにラーメン屋だとスープにも大変こだわっています、という所が多いのに蕎麦屋はつゆにもこだわってます、ってとこは無いよなー、なんて話でも盛り上がりました。)
 話が横道にそれてしまったが、そう、蕎麦は駅立ち食いではなく、ちゃんと店で食べるものなのである。だから私は駅立ち食いには寄らないのである。 
 なんてね。
 かつて私も駅立ち食いはよく利用した。かつて、というのは現在日常生活において鉄道を利用する事がなくよって駅立ち食いに接する機会がない環境にいるからで、学生時代はよく利用したものである。
 さあ、話が食い違ってきた。立ち食いを利用した記憶がないのに、よく利用したとは。
 初めて駅立ち食いを食べたのはいつの事だったか、これについては正真正銘記憶がない。おそらく高校生の頃であったであろう。
 高校はパスのみで通っていたが、素直に家と学校をバスで往復する毎日であるはずがなく、わざわざ遠回りをして繁華街に繰り出す、いやちょっと寄り道をする事が良くあった。そんな時利用したのが駅立ち食い。小田急「箱根そば」や東急「田園そば」が食べざかりの高校生の小腹を満たしてくれていた。
 大学生になると電車通学。二子玉川、溝の口、たまプラーザ。友人と「今日はどこにする?」「『二葉』より『田園そば』の方が好きだなぁ」云々云々。
 帰途だらだらと大学最寄り駅に着くと次の電車は各駅停車でその次が快速。「よしっ!ニコタマだ!!」先行する各停に乗り二子玉川に着くと階段をダダーッと駆け降りて立ち食いに飛び込んで舌を火傷しそうになりにがらガーッとかき込んで階段をタリャーッと登れば目の前に快速が滑り込んでくる。その間わずか3分。
 そう、旅行では駅立ち食いを利用する事はまずなかったが、普段使いは良くしていたのである。
 旅先の寒風吹きすさぶ駅のホームで温かい丼を抱え「ほっ」としていた記憶はある。しかし、それが何処であったのかはさっぱり解らない。でも温かな記憶は確である。ただしそれは駅立ち食い蕎麦ではない。駅立ち食い蕎麦屋を利用しているのに蕎麦は食べていない、またしても?
 食べていたのは実はうどんである。実を言うと私は温かい蕎麦は好みではない。蕎麦は冬でもざる。温かいものが食べたければうどんにする。で、残念ながら駅立ち食いのメインは「温かい」であってしたがって駅立ち食い蕎麦屋で食べるのはうどんばかりとなる。
 昔の駅立ち食い蕎麦屋で「冷たい」を出すところはまずなかったように思う。夏でも熱気をモウモウとさせながら温かいを突き進んでいた。
 店にしてみれば「冷たい」にする為には湯がいた麺を冷水にさらす手間がかかる。温かいなら湯を切った麺を丼にストンだけで済む。そしてそこにつゆと薬味を一緒に入れるだけ。しかし、「冷たい」はつゆと薬味の別容器が必要になり結果洗う手間等も増えてしまう。そこで「冷やし」という「冷たい」の各パーツを一緒盛りしたものが登場したのであろうが、やはり蕎麦はそれなりのところでゆったりスズッといきたい。私は江戸っ子ではないので「蕎麦は噛まずに飲め!!」なんていう心意気は持ち合わせてはいない。
 客の回転が命の蕎麦屋にあっては迷惑な話であろうが、そういう蕎麦屋においてうどんを頼む客も迷惑と思っているのかもしれない。温かいうどんは温かい蕎麦より食べるのに時間がかかるからである。私の体験からして。
 先程の二子玉川の蕎麦屋。まれに「温かい」ではなく「ぬるい」を出すような立ち食いが見受けられる中、ここは「熱い」であった。友人は蕎麦だったが私はうどん。見ていると蕎麦の友人はズズッズズッと食べているのにこちらはフーフーズズッフーフーズズッ。
 私は猫舌ではないので熱いものは大丈夫だがそれでもフーフーを省略するのは辛い。同じ鍋で湯がかれているので温度は同じはずである。考えられるのは麺の太さの違い。蕎麦は細い分つゆから引き揚げた時点ですっと程良く冷めてくれるのではないだろうか。駅の立ち食いが駅蕎麦であって駅うどんでないのはこの辺も理由にあるのではと勘繰ってしまう。
 そんな中にあって「うどん」をビシッとうたっているのは名古屋駅の立ち食い「きしめん」。ここだけはビシッと記憶にある。ホーム末端にある立ち食いスタンド。行きかう列車を眺めながら鰹節がうねうねと踊るうどんは美味しかった。
 関西方面で記憶にある駅立ち食いはこれが唯一である。駅ではなく宇高連絡船の立ち食いはかろうじて記憶にあるが。
 きしめんもそうであるように西に向かうとつゆの色が薄くなる。ダシに重きを置いた風味豊かなものではあるが、醤油どっぷり関東土着民の私にとってはやはりちょっと物足りない。もう食べ終わったと思っていたのに箸で底をさらったらまだ麺が隠れ沈んでいた、なんていうようなつゆで青春時代に味覚形成されたものだから、駅立ち食いを利用していたとしてもそれが記憶にしっかりと残るほどの味の印象がなかったのであろう。
 大阪では駅ではないが立ち食いうどんを食べた事がある。浪速っ子の友人に「キツネはキツネうどん、タヌキはキツネそば」とか言われてその辺の町中の店に連れて行かれたのだが、やはり記憶がもう吹っ飛んでいる。
 ちなみに私が好きなのは天ぷらうどん。もっとも、天ぷらは天ぷらでも立ち食いでよく出る野菜くずを大量の小麦粉で固めたような、初めこそ天ぷらなのだが食べているうちにタヌキに化けてしまうかき揚天ぷらである。
 考えるに、駅の立ち食い蕎麦は記憶に残るほど美味しいものであってはならず、生活におけるちょっとした空腹を満たす範囲の味であって良しとするものなのではないだろうか。最近は家庭向けに売られている蕎麦つゆなどもダシが大変よく効いた美味しいといわれる物になってきている。しかし、私の蕎麦つゆの原点は醤油と化学調味料たっぷりの真っ黒なあの昔の立ち食い蕎麦のつゆである。何となく満たされない。時々無性にあの懐かしいうどんが食べたくなる。
 昔よく行った立ち食い蕎麦屋のある駅を久しぶりに訪れてみた。便所の隣で10人も入れば満員になってしまったその店は、透き通るようなつゆにエビのしっぽが突き出すかき揚げの乗った天ぷらうどんをテーブル席で食べるきらびやかな駅中の店舗に代っていた。


 ところで「きそば」とは乾麺に対する生の蕎麦、「生蕎麦」だとずっと私は思っていた。しかし「きそば」の本当の意味はつなぎ無し蕎麦粉10割の蕎麦の事だそうだ。   


--第42号(平成22年2月7日)--

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 コメント(6)

 

 

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きそばについては、私も生蕎麦の意味だと思っていました…恥かしい。

北海道なら、音威子府かなと思います。もちろん「きそば」で殻も混ぜているとかで真っ黒いそばなのです。しばらく行っていませんが…

学生時代の思い出は、品川駅ホームです。そばのほか、カレーライスや「品川丼…確かかき揚げだった」なるメニューがあって、川崎球場へ近鉄バファローズの応援へ行く前に食べていました…

名古屋のきしめん、大阪のきつねうどん、宇高連絡船の讃岐うどんも食べていますヨ…  
2011/1/16(日) 午前 11:07 [ オータ ]
 
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昔々の鉄道旅行のころは、
朝昼夜とも駅蕎麦なんてこともありました(爆)

でも、
意外と駅蕎麦が安くはない、という事実を知ってからは急速に疎遠に(泣)

品川駅ホームにあった「常盤軒」の「お好み蕎麦」くらい費用対効果があれば別ですけど(爆)  
2011/1/16(日) 午後 1:38  LUN
 
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オータさん、
北海道で鮮明に覚えているのは根室駅売店でお湯を入れてもらい車内で食べたカップうどん。(涙)
品川丼は大垣夜行に乗る前に良く食べました。味もさることながら腹もちの良さが魅力でした。  
2011/1/17(月) 午後 6:54  NEKOTETU
 
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LUNさん、
牛丼の方が安いですね。特に今は(笑)  
2011/1/17(月) 午後 7:01  NEKOTETU
 
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小学生のころ、横川駅下りホームの「生そば」スタンドで、
「ナマソバください」と言ったら、立派にかけそばが出てきました。
(100%「ナマソバ」と読むと信じきっていました。。)

売り子のオバサンがニヤニヤしてましたけど・・


単に「キ」と読むのでなく、別物だったのですね。。(知りませんでしたぁ)  
2011/1/19(水) 午後 8:55  哲ちゃん+Mc169
 
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哲ちゃん+Mc169 さん、
茹でてないそばが出てこなくて良かったですね。

別物ですが、生どら焼き、が出回り始めた頃私はてっきり生の生地とあんこを売っていて、それを自宅で焼いて食べるものだと思っていました(笑)  
2011/1/20(木) 午後 6:10  NEKOTETU

 

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[ 線路巡礼♪ ] 2011/1/16(日) 午後 1:40
さよなら、品川駅常盤軒お好みそば(またも都会の紅葉付き)

あの富士ブサ君の昼寝が見られた、 東海道本線下りホームの東京方。 ここの駅そばが大好きなんです。 常盤軒。 お好みそば(うどん) トッピングし放題なんですぅ~ 昔から大好き。 とにかく山盛りにトッピングして♪ 結構有名な店みたいです。 鉄道好きにも有名らしい。 なにしろ、 店の前は、田町電車区の線路だらけですから!(笑) 突然の悲報。 ホーム工事のため、12月で閉店。 閉店で、工事後の再開もないそうです.