<ж 43 ж 猫のおもちゃ                          ж40ж 焼物の名産地>

ж 40 ж 南へ北へ

 投稿日時 2010/12/19(日) 午前 9:18  書庫 鉄道の間  カテゴリー 鉄道、列車
 




 宇都宮線で上野から約1時間で列車は茨城栃木県境の利根川を渡る。左手、上流側には日光連山。旅心をくすぐる風景である。
 その青き山々の手前、川の左岸にポチッと高層ビルが見える。おや?あんな所に町があったかな?
 そんな風景を真横に見ながら利根川橋梁を渡り終えると列車は田畑住宅の間をガーッと走ってやがて高架2面4線の立派な古河駅。駅隣接の建物を見上げれば、「あっ、さっきの高層ビル」。

 以前にも書いたくだりではあるが、これから進むべきところが真横に見えるというのはなんとも不思議なような、まどろっこしいような、楽しいような。
 古河駅は栗橋駅に停まっている列車の真正面にある。よって本来であれば古河の高層ビルを見ることが出来るのは運転手だけ(それとその後ろにかぶりついている一部の人達)のはずである。それなのに線路は一度右へグイッと曲がって乗客に楽しい風景の提供サービスを行ってから左へグイッと進路をたてなおして古河へと向かうのである。
 もっと大きい目で見てみると、東北本線は大宮を出たところでグイッと向きを変えるがそれはまっすぐ目的の北関東を目指している。なのに途中2ヶ所でわざわざグイグイ曲がって遠回りをしている。1つは上記の栗橋~古河でもう1つは宇都宮~宝積寺である。

---東北本線は先に開通した上野~高崎の路線から分岐する形で建設されたので大宮でグイッと曲がる。上野からまっすぐ別線で、という案もあったらしいが、経済的理由によりこうなったらしい。余談ではあるが高崎線(上越線)と宇都宮線を結ぶ両毛線は高崎線の方が先に出来ていたので高崎に向かう列車が上りとなったとか。上毛野国と下毛野国(国名を漢字2文字にするとした諸国郡郷名著好字令によって毛が無くなり上野、下野に)を結ぶので両毛線。で高崎の方が上毛野国なので上りとも考えられなくも無いが---

 なぜこの様な形になったのか。
 もちろん乗客サービスの為ではなく、(そんな事で遠回りされたら旅行者ならともかく、毎日利用している人にとっては時間と料金面でたまったものではない)渡河の為である。後者は鬼怒川だ。
 橋は川に対して直角に架けるのが古くからのやり方である。斜めに架けるとその分長くなって余計に費用がかかるからである。ところが川は必ずしも目的地に向かって直角に流れているとは限らない。いや直角の方が稀である。よって、最短の橋を架けるべくその前後の距離を犠牲にして遠回りをするのである。
 渡河の場合はその前後の急カーブや目的方向が確認できる事によって遠回りさせられている事を認識しやすい場合が多い。しかし、もっと大規模な遠回りだとそれと全く気づかない事が多い。
 例えば、またしても東北本線であるが、盛岡~青森。
 盛岡までは途中多少のグネグネはあるがとにかくひたすら青森を目指して走ってくれる。ところがその先、八甲田の山並みが見えるころから進路は徐々に東へとずれる。八戸辺りではもう青森ではなく襟裳岬を目指しているような向きとなっている。八戸を出たところで線路は左へ折れやっと進路修正。野辺地を過ぎれば海岸線。あと少しこの浜沿いに北へ進めば青森、と思いやすいのだが実はこのあたりではすでに青森より北に来てしまっている。列車は海という方向を確認しにくい物でカモフラージュしてそれを悟られない様に密かに後戻りしているのだ。しかし、そのまま北から青森駅に着いたのではさすがに降りた乗客にばれてしまうので少し南へまた行き過ぎてから最後に青森駅手前でグイッと向きを変えてつじつまを合わせている。ここまでくれば乗客は下車&連絡船ダッシュの支度に忙しく、このグイッには気づかない。線路の敷き方失敗ごまかし作戦大成功。
 なんて訳は無く、これはただ単に八甲田山を迂回した結果である。
 更に足を延ばせば、津軽海峡線。かなり無理な話ではあるが、青森駅からまっすぐ函館駅までトンネルを掘っていれば現在の半分の時間で到着できたはずだ。
 その先の駒ケ岳には直登、直降ルートと回り道ルートが絡み合っていて、時代背景と列車出力の移り変わりによって複雑に使われている。
 急坂を駆け下りて、もしくはゆるりと山麓を廻りこめば目前は噴火湾。遥かかなたの対岸に煙る陸影は室蘭。ここまで開けっぴろげにやってくれれば納得がいく。覚悟が決まる。諦めがつく。列車がひたすら直進している様に思える。
 苫小牧からはまた後戻りする様に走って札幌。漠然と地図を見てみれば倶知安経由の方が距離は短い。営業距離で30Kmくらい違う。後戻りもしない。ここでふと疑問に思う事がある。それは営業距離はどのようにして決めているのか、である。
 地図上で測った距離と実際に使っているレールの長さは違うはずである。何故なら地図は二次元なのに対して現実世界は三次元。地図には高低差が反映されていない。山を登って降りればそれは上下に迂回している事になる。迂回があればその分距離は伸びる。はたして、長万部~札幌はどちらが遠回りなのであろうか 
 寄り道をしないで最果てを目指そう。札幌であからさまにUターン。また南千歳を通る。そして夕張山地を貫く石勝線へ。
 この線は滝川回りに対する道東への短絡線ではあるが、札幌からの短絡線ではない。札幌からなら栗山、夕張、そして夕張岳直下を通った方が真っ直ぐだ。石勝線は空路利用の人のためにある。だから列車利用の人は札幌~南千歳の無用な旅を強いられる。それが嫌なら南千歳で乗りかえれば良いと言われそうだがそうすると好きな席に座る事はまず出来ない。いや着座すら覚束ない。指定券を買っておけって?北海道ワイド周遊券では余計な出費になるでしょ。おっと今はゾーン切符か。
 新得へのグネグネは風景に気を取られているうちに通過。あとは平野と湿地をほぼ真っ直ぐ進んで根室着。岬へ向かうバスに乗るとあれれ、列車の進行方向とは逆に走り出した。最後の最後にもう1つトラップがしかけられていたのであった。
 これらは地理的な理由による迂回であるが、その他に人、つまり経済的理由による迂回もある。
 鉄道は人や物を運ぶ為にあるのだから町があれば目的方向とは少しずれていても回り道をして立ち寄る。
 例えば岐阜。東京~大阪というルートから考えれば岐阜廻りは迂回であり、新幹線のルートこそが妥当であり岐阜は高山本線の途中駅でも良かった様に思える。もっとも、その規模や歴史的理由からもしくは旧街道の概念から無視は出来なかったのであろう。
 両毛線。見事なWの字を書いて北関東の町々を結んでいる。小山から高崎を目指すにはかなりの千鳥足だ。もっとも、この鉄道は東北本線と、高崎線の短絡目的ではなく、町村を結んで、が目的だったのでこの形となっている。
 黎明期の鉄道では逆に町から倦厭されてわざわざ迂回して町外れに駅が出来たというケースもあった。汽車に対する偏見や既存交通事業者(人力車組合とか)からの反対によるものである。しかし、いざ鉄道が通ってみれば次第に便利な駅周辺に町の中心的賑わいが移ってしまった。でも、現在ではその賑わいも町を迂回して作られたバイパス道路沿いに移ってしまっている。それによりバイパスが混雑。その町をスルーする時はひっそりとしてしまった駅前を通った方が早いという皮肉な事になっているところもある。
 その様なところにある駅は時代に取り残されたようないいたたずまいを見せているものが多かったが、近年は駅周辺の人達の危機感からしゃれた建物に建て替えられたり、逆に諦めてしまったのか、プレハブもどきになってしまったものが増えてきたのは残念だ。
 黎明期以降は逆に経済的理由というより偉い人の個人的理由を主として迂回させられてしまった路線もある。代表的なものでは大船渡線の「鍋つる」と中央本線の「大八廻り」であるがもう由来を詳しく書く必要もないであろう。
 大八廻りは国鉄末期に塩嶺トンネルの開通をもって解消されてはいるがこれがJR化後であったなら辰野~塩尻は廃止もしくは切り離しになっていたかもしれない。辰野から塩尻へ行く場合旧線を通っても、岡谷からトンネルを通っても列車に乗っている時間は変わらないのだから。
 しかし旅景は旧線経由の方が各段に上である。岡谷からは諏訪湖より流れ出た力強い天竜川に沿って下り辰野で向きを変えて今度は細々と流れる支流の小野川を遡り善知鳥峠をくぐるとオメガカーブを曲がった先で姿を見せる北アルプス。
 かつて伊那地方へは県都長野や東京・名古屋からの直通急行が走っていた。が、いずれも山に阻まれて遠回りを余儀なくされていたが、みな味のあるいい列車だった。新幹線が味気ないのは自然を無視して大都市や利権都市にしか目を向けないからなんだろう
 さて、かような様々な理由で迂回させられる鉄道でもこれが一般市民に対してとなるとその多くを迂回させてしまう。
 電車が通り終わるまでじっと踏みきりで待ちなさい。嫌ならずっと遠くに陸橋があるので廻りなさい。
 線路を作るので家を削りなさい。ビルを壊しなさい。……。
 そう、一般市民に対しては。
 八高線の東福生~箱根ヶ崎に妙なプクンとしたカーブがある。辺りは全くの大平原で障害となる川や山、人家すらない(うっ大げさ)。それなのに迂回路線。おまけに平地なのにわざわざ小山を作ってトンネルまで掘ってある。
 かつてここは直線であった。ところがすぐ脇のある国のある施設の拡張によってクルンと迂回させられる事になったのである。トンネルはその延長線上にあって、もし何かがそれを行き過ぎる事故があっても列車を守る為、とか、列車の灯りが何かの目標と紛らわしいので、などといろいろな理由が噂されている。
 現在このトンネルは八高線の電化によってその天井部分だけが無くなっている。列車の窓のあたりは隠されたままだ。すると後者の噂が真実か……。
 そう言えば、東京のど真ん中にもミミズの様にグネグネと走っている地下鉄が一斉によけている場所があるなぁ。

 ところで、本線などから分岐する路線が目的地と反対側に出ていく場合がある。これも迂回と言えば言える。  

--第40号(平成20年10月5日)--

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 コメント(2)

 

 

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こんどこそ函館本線! ・・(森あたり?)でしょうか。。


・・「中山道本線」偉大です♪  
2010/12/21(火) 午前 10:09  哲ちゃん+Mc169
 
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哲ちゃん+Mc169 さん、
大当たり~。  
2010/12/21(火) 午後 6:14  NEKOTETU