月組公演 ピガール狂騒曲-シェイクスピア原作「十二夜」より- | 続アメマのおとしもの

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2020年9月25日~11月1日 宝塚大劇場・月組公演

 

春にポスターが出来た頃から、植爺の前物同様に期待薄しで、ただドタバタしたコメディだろうなと思っていました。「十二夜」はこれまで結構宝塚ではやってて、あまり面白いとは思いませんでしたし、こういうとりかえばや話も、途中でなんのこっちゃわからんようになってしまうので、大きな期待はせず、軽い気分で見ました。

 

10月4日15時30分公演、1階21列目で観劇。※ネタバレ注意。

●ミュージカル「ピガール狂騒曲-シェイクスピア原作「十二夜」より-」 作・演出/原田諒

 

1900年、パリ。モンマルトルの丘の麓に位置する歓楽街ピガール。そこは多くの芸術家たちが集い、あまたの恋が生まれた場所でもあります。シェイクスピア喜劇の最高傑作と言われる「十二夜」の世界を、ベル・エポック(輝かしき時代)と謳われた古き良き時代のパリ・ピガールに移し、当時活躍した実在の人物を巧みに織り交ぜ描き出すミュージカル。

 

宝塚のコメディならではの、オーバーアクションと内輪受けもあったものの、意外とオシャレなコメディに仕上がっていて、私個人的には割と楽しめました。たまきちは前作の「赤と黒」みたいなのより、こういう軽いノリの作品の方がいいように思います。ホントは女性のタカラジェンヌが男役で、芝居では女性が男装の麗人に扮し、さらにその兄の男性役も演じるので、ややこしいようですが、気楽に見ても分かりやすかったので、これは原田諒の脚本の妙だと思います。ですが、最後の方で二役を演じてたのを、わざわざ別の生徒を出して、兄役にして声だけたまきちにするという演出法は、ちょっと蛇足的に思います。それなら後ろ向けにしておくか、とりかえばや話でよくある「ちょっと今同時に出るのは難しくて・・・」で笑いを取る方が、マシです。プログラムにもその配役が書いてないし・・・調べると蒼真せれんって子らしいですが。

あと細かいところをツッコめば、女衒から逃げてジャンヌが男として生きていくのですが、もっと遠くへ逃げりゃいいのに(笑) まぁ気楽なコメディなので、新喜劇的に見ればホント笑えます。

 

さて主役の珠城りょうは、ジャック(ジャンヌ)とヴィクトールの二役。ジャックはムーランルージュの裏方志望ですが、事情があって女ということを隠してます。なのにガブリエルに惚れられてしまいます。

ジャックは少し声を高めにして、やや女性的な仕草もあって、ヴィクトールとを上手く演じ分けていました。特にガブリエルに惚れられてしまった葛藤は、良かったと思います。ただ最後はシャルルと恋仲になったように見えたのは笑いましたがね。ヴィクトールは宝塚の男役らしく、粋でカッコよさも出ていたものの、人物的な背景が希薄なので、ご都合主義に見えてしまったのは残念です。フィナーレの黒燕尾も決まってましたし、さくらとのデュエットダンスもキレイでした。この日がたまきちの誕生日だったので、アドリブで祝ってもらってました(笑)

 

相手役の美園さくらは、作家ウィリーの妻ガブリエル。

夫のゴーストライターであることに嫌気がさして、ジャックのスカウトでムーランルージュで踊ることになります。現代っ子のさくらのキャラが、この時代の先進的な考えの女性という役にピッタリで、昨年のエマ・カーターみたいな癖のある台詞回しでなかったのも良かったです。衣裳の着こなしや、動きがキレイで、好感が持てました。芝居の最後にヴィクトールと結ばれるのですが、これが前述した替え玉の方のヴィクトールなので、芝居中のたまきちとのコンビネーションが最後に薄くなったのが残念。

 

二番手の月城かなとは、ムーランルージュの支配人のシャルル。

ポスターのイメージからすると、なにか企んでる悪役かと思ってましたが、これが全然違いまして、ちょっと暴走しがちなだけの、非常に踊り子や座員思いな人。月城のコメディセンスも大したもので、本人は至って真面目にやってるだけに面白いのです。吉本新喜劇なら西川忠志?(笑) 途中からはシャルルが主役かと思うほどでしたね。

ガブリエルの夫で作家のアンリ・ゴーティエ=ヴィラール(ウィリー)を鳳月杏

傲慢夫が嫁に逃げられた哀れな末路(笑) 弁護士を雇ったり、決闘を申し込んだりとめんどくさいオッサンですが、これまた全てが空回りで面白い。松浦勝家みたいな超悪役が鳳月の真骨頂ですけど、こういうちょっと変なオッサンも出来るのが芸達者な証拠。

 

暁千星はムーランルージュのダンサーのレオ。その役柄通り、カンカンなどセンターで踊って、ダンサーぶりを発揮。しかし物語にはほとんど絡まず、ホントにダンサーってだけ。勿体ないなぁ・・・。

ウィリーに雇われた弁護士のボリスに風間柚乃

コレ、かなり美味しい役で、間抜けな弁護士が女装してのカンカンはもう最高です。ここを場面の邪魔をしつつ、主役を目立たせるようにするのは難しいですが、風間はホントに上手くやってました。ある意味、暁よりも目立ってます。

 

娘役ではジャックにまず惚れる踊り子のミスタンゲットを天紫珠李。同じく踊り子のラ・グリュを海乃美月もやってますが、完全に扱いは天紫の方が上。風間にしろ、天紫にしろ、下剋上やな。

今回は結愛かれんちゃんも踊り子役だったけど、あんまり目立ってなかったなぁ・・・。でも初スチールが発売されてました。ちょっとぽっちゃりに写ってたけど。

他にもロートレックの千海華蘭、振付師の光月るう、特に女衒の元締めのマルセル役の輝月ゆうまなど、手薄だった月組上級生陣が少しづつ充実してきたようにも感じました。

 

 

フィナーレでは暁千星が下手花道セリより登場し、「赤い風車」を歌ってフィナーレの導入。そのあとは、106期生のラインダンスを「パリ・カナイユ」「ローズ・パリ」で、トリコロールカラーの衣裳で溌溂と踊ります。毎年初舞台生のラインダンスには感動しますが、今年はコロナの影響で半年遅れということもあり、さらに感動しました。

そして大階段で珠城が娘役たちに囲まれて、「パリ・ジュテーム」。芝居のフィナーレですが、なんかレビューを見てるなぁって気分に浸ります。そして黒燕尾の紳士の群舞へ。8か月ぶりの大劇場で見る黒燕尾の群舞にはなんだか涙が出て・・・。

ラストはトップコンビのデュエットダンスで「メ・マン」。五組中、一番地味な組だけど、コロナの影響で改めて宝塚の良さを感じ、出演する生徒も舞台を楽しんでるようにも感じ、非常に華やかな舞台でした。

パレードもホント涙が出ましたね。

 

コレ、もしコロナがなくて普通に公演してたら、ここまでの感想は出なかったかもしれません。世界中がコロナで大変になり、こういう演劇が中止に追い込まれ、生活にはまるで不必要とさえ言われるようになってしまいました。しかしこういうご時世で、いろんな感染防止対策を講じ、公演をするのは大変なことだと思います。実際、花組と星組は公演途中で中止期間が出たり、雪組も公演が延期になったりしました。

ですがこれまで当たり前に見れたものが、当たり前でなくなり、いろんな制約のある中で見る側も演者も意識が変わったと思います。演者はもちろん公演がなければ生活できません。観客は見なくても生活は出来るでしょうけど、糧になるものがなければ生活してても楽しくありません。

いつ収束するかわからないですが、今楽しめる時に楽しんでおこうと思ったのが、この公演を楽しく見れた一因かもしれません。原田氏の脚本や月組生の熱演はもちろんのことです。