笹本健次氏の都電写真集 | 書斎の汽車・電車

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 今回は、笹本健次氏の写真集『6×6で撮影した都電の面影』(ACJマガジンズ発行、イカロス出版発売)をご紹介します。

 笹本氏は「企画室ネコ」(現在のネコ・パブリッシング)を設立された方で、『Rail Magazine』誌の創刊編集長でもあります。笹本氏というと、私などは国鉄、それも蒸機の写真を撮っておられた方という印象が強いのですが、都電についても素晴らしい写真を残していらしたのですね。

 

 本書によれば、笹本氏の都電撮影は、大学入学のために上京した昭和43(1968)年の春から、大久保車庫が廃止され、同所で電車が解体されていった昭和45(1970)年5月の間に集中しているそうです。銀座線などは前年暮れにすでに廃止されていた時期ということになります。また、時間的、金銭的理由で遠出ができない折りに撮影した写真も多く、(当時の都電の写真はこのようにして残ったものが多いのです)全ての路線、形式を網羅しているわけではありません。

 しかしながら、銀座線等の廃止後に撮影をスタートしたというのが、本書の「売り」になっているのもまた事実です。というのも、銀座線廃止で都電の撮影に「一区切り」をつけてしまったファンが多く、その後の都電の写真は意外に発表されていないのです。本書が扱うのは、都心部の幹線は廃止されたものの、まだまだ一定の路線網を維持していた時期であり、車輛面のバラエティも豊かでした。

 

 笹本氏が最初に下宿したのが牛込柳町ということで、「地元」の13系統の写真がまず巻頭を占めます。新宿駅前ターミナルの様子、大久保車庫(廃車になったばかりの5000形もいます。また、入換用の4号という単車の写真は初見です)、専用軌道の情景など、13系統ファンの私としては、堪えられない写真ばかりです。

 13系統以外にも、興味深い写真は多く、例えば広尾車庫の2000形、錦糸堀車庫の1500形(著者が一番好きな形式だそうです)、錦糸堀や三ノ輪にまだ残っていた3000形など、従来の都電本では余り取り上げられることがなかった電車がふんだんに登場します。また、各車輛の形態の差異も6×6サイズの原版ゆえによくわかりますので、模型化に好適な資料ともなっております。

 後半には廃止間近の玉電の写真も掲載されています。大橋車庫の夜景写真は珍しいです。末尾には大久保車庫で解体される電車の姿が記録されています。辛い画像ですが目を背けてはいけない現実ということなのでしょう。

 

 本書は、近年出版された都電写真集のなかでも出色の出来であると思います。もちろん、あの路線、あの車輛も見たかったという気持ちはあるのですが、そうした地域的、時代的な偏りはあれども、都電ファンなら必携の1冊といえましょう。