鉄道マンガの第一人者が挑む「もう一つの東京」 | 書斎の汽車・電車

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インドア派鉄道趣味人のブログです。
鉄道書、鉄道模型の話題等、つれづれに記していきます。

 当ブログでマンガをご紹介するのは珍しいことかと思いますが、作者が鉄道マンガの第一人者である池田邦彦氏といえば、読者の皆さんも納得していただけるのではないでしょうか。

 というわけで池田邦彦『国境のエミーリャ』(小学館)のご紹介です。

 

 作品の舞台は1962年の「東トウキョウ」。ポツダム宣言を受諾せずに本土決戦に突き進んだ挙句、東西に分割されてしまった日本という設定は、これまでも様々な小説等で目にしましたが、本作では東京が東西に分割され、ベルリンの壁ならぬトウキョウの壁が築かれています。

 主人公の杉浦エミーリャは、「東側」の押上に住み、「十月革命駅」と名を変えた上野駅構内の「人民食堂」の給仕係をしていますが、裏の顔は「脱出請負人」。東側市民の西側への亡命を手助けしています。

 

 亡命にも様々なケースがあるようで、大半は偽造した身分証明書を使って、検問所を通るといったものですが、時に大冒険活劇になることもあり、マンガではむしろこちらが描かれるわけです、

 その大冒険活劇の舞台には、鉄道(の遺構)が使われることもあり、戦争で破壊され、東西分割で放置されたお茶ノ水~秋葉原の旧総武線高架とか、軍用に敷設されたトロッコなどが出てきたりします。まあ、活劇の舞台にはならなくても、主人公の職場が駅ですから、鉄道がちょくちょく出てきます。そして、作者が池田氏ですから、その描写は手を抜いてはいません。

 本作では日本人民共和国内の鉄道は「人民鉄道」と呼ばれ、東北本線(旧上野~青森)と函館本線(函館~旭川)は「大幹線」と呼ばれ、この線のみロシア並の広軌に改軌されています。ソ連風の車輛がそのままの姿で登場する(特に「エレクトリーチカ」という近郊電車はあるエピソードでは主役級の活躍です)ほか、西側のEF58、EF57、80系電車を共産圏風にしたような車輛も出てきます。

 東トウキョウ市内には、都電に代わってトロリーバス網がありますが、そのデザインは東京都のトロリーバスを連接化したようです。東京都の最初のトロリーバスが、元来は共産圏である北京輸出向け(冷戦のため輸出出来ず)だったことを考えると、これもリアリティがあります。

 

 このマンガ、まだ完結していませんので、今後も様々な形で日本人民共和国の鉄道が出てくるものと思います。もちろんストーリーも面白いのですが、毎回登場する「あり得たかもしれない鉄道」にも要注目です。(どなたか模型を作ってみませんか?)