旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

存廃に揺れる北海道の駅 「思い」だけでは維持は難しい理由(1)

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 膨大な赤字に苦しんだ末、1987年に国鉄が分割民営化されて誕生した会社は、旅客会社6社と貨物会社1社。それに加えて基幹通信網を運営する通信会社と、乗車券類発券システムや貨物輸送システムを運営するシステム会社。そして国鉄の研究機関だった鉄道技術研究所と鉄道労働科学研究所の業務を引き継いだ1法人の合計9社1法人に継承されたことは、既に多くの方がご存知だと思います。

 その中でもいわゆる「三島会社」と貨物会社は、分割民営化を実施する段階から経営が厳しいことは予想されていました。

 「本州三社」に比べて「三島会社」は、その経営基盤が非常に脆弱でした。もともと人口が少ない地域であることに起因する多数のローカル線を抱えていることや、継承した線路をはじめとする施設は山間部や海岸沿いなど、その立地条件からくる維持管理が都心部に比べて難しいこと、さらに国鉄から継承した車両は性能が低くランニングコストがかかることに加え、老朽化が進行している経年車が大多数を占めていたことなどから、高コストになりがちな体質であったことがその理由でした。

 その中でもJR北海道は、他の二社に比べてさらに厳しい経営条件を強いられていました。というのも、JR四国JR九州は複数の県に跨がった地域を営業区域としていました。これらの地域は、各県にそれなりに人口が集中している都市があり、その都市間を結ぶ「都市間輸送」が期待できました。また、隣接する地域間を結ぶ列車の運行もあり、ある程度の収入が確保できる見込みもあったのです。

 ところが、JR北海道に限っては、その営業区域は北海道のみでした。北海道は「北の大地」と呼ばれるほど、広大で自然豊かなところです。しかし、人口が多いかといえばそうではなく、大都市を形成しているのは道庁所在地である札幌市と、その近傍にある旭川市があるといった程度しか思い浮かびません。室蘭や函館などもありますが、それはかなり限定的だといえます。

 そもそも北海道の人口密度を見ると、62.9人/平方キロメートルと非常に47都道府県で最も低い数字です。これは、JR九州管内で最も人口が多い福岡県が1,023.36人/平方キロメートル(47都道府県中7位)やJR四国管内にある香川県の520.46人/平方キロメートル(同11位)と比べても、際だっているのがわかります。

 言い換えれば、JR北海道は本州を除く日本で最も広い島(世界では21位に広い)に、あちこちに散らばっている都市を結ぶために、とてつもない長い距離の鉄道ネットワークを構築し、しかもその鉄道には本州などとは違い多く利用が見込めない大自然の中を走るという、収益を望むことが難しい特異な環境にあったのです。

 

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 さらに、北海道特有のこととして、冬季は本州と比べても非常に厳しい気候であることも挙げられます。冬季の北海道を訪れた方ならご存知と思いますが、「厳寒の大地」といっても過言でないほど厳しい寒さに見舞われます。

 その厳しい気候を象徴するものとして、北海道の家屋には「玄関の先には、もう一つの玄関がある」といわれます。また、多くの家屋にある窓は二重窓は標準で、そうでもしないと家の中は寒さで生活ができないほどです。さらに、家屋には必ずと言っていいほど、本州では考えられないような巨大な灯油タンクを備えています。これは、冬季の暖房は本州のような物を使ってもまったくといっていいほど効果がないためで、各家には灯油燃焼の大型暖房装置が設置されるのが一般的なのです。そのため、北海道に住む人は、冬になると灯油の消費量が非常に多く、購入するときには20リットルや18リットルの灯油缶で買うのではなく、小型のタンクローリーが家の前にやって来て、暖房用の灯油タンクごと購入しなければならにのでした。

 こうした厳しい気候の中にある鉄道も、本州のそれとは異なる設備をもたせなければなりませんでした。例えば転轍機は冬季の低い気温に対応した北海道向けの仕様になるため、転轍機1基あたりの値段は暖地向けに比べて高価でした。また、転轍機や分岐器には凍結による不転換を防ぐため、電気ヒーターが常備されています。

 信号機にも降雪で視認ができなくなることを防ぐため、特殊な透明のカバーが備え付けられています。

 また、積雪が酷くなると列車のダイヤは乱れがちになり、多くの除雪列車を走らせなければなりません。その昔は雪かき車やロータリー車などの事業用貨車に、蒸気機関車によって運転されていましたが、国鉄が進めた動力近代化計画によってそれらはすべてディーゼル機関車に置き換えられました。除雪用にも使えるディーゼル機関車は、ラッセル式のDE15なら、ヘッドを容易に外すことができるので夏季には入換や客車列車を牽くこともできましたが、ロータリー式のDD14は登場当初を除いて夏季は稼働しませんでした。これは、ロータリーヘッドの取り外しが煩雑なことと、車両の構造上、夏季の運転には困難があるため、結局冬季のみに稼働するという不経済な形を強いられたのでした。

 この他にも挙げればキリがないほど、北海道の鉄道を取り巻く環境は厳しいものがあり、同じ三島会社でもJR四国JR九州と比べても経営が厳しいことは際立っているのです。

〈次回へつづく〉

 

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#JR北海道 #鉄道の存廃問題 #宗谷本線